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第24話 月光鉱石の輝きと絶望の守護者

 霧の中の山小屋で得た束の間の休息と、天然温泉による癒やし。

 カイたちは、心身ともに完全にリフレッシュした状態で、霧の山脈の山頂付近を目指して再び歩き始めていた。


「よし、今日こそ山頂を目指すぞ!」


 カイの力強い言葉に、リゼット、シルフィ、ガオは決意のこもった表情で頷いた。

 深い霧は相変わらず視界を遮っているが、昨日までの疲労困憊の様子はもうない。

 首元で微かな繋がりを示す『絆のチョーカー』が、互いの存在を伝え、心強い支えとなっていた。

 足取りも昨日より軽く、連携も自然と取れている。


 山道はさらに険しさを増し、時には手足を使って崖を登ったり、深いクレバスを迂回したりしながら、一行は慎重に高度を上げていく。

 周囲の木々は次第に少なくなり、ゴツゴトとした岩肌が剥き出しの、荒涼とした風景へと変わっていった。


「……カイ様、上……光……」


 カイの肩の上で、ナットが小さな声で呟いた。

 見上げると、濃い霧の向こうに、確かに微かな、青白い光が揺らめいているのが見えた。


「地図によれば、この先に月光鉱石を祀る古代の祭壇……その入り口となる洞窟があるはずです」


 シルフィが地図とコンパスを確認しながら言う。

 光は、その洞窟から漏れ出ているのかもしれない。

 一行は、その光を目指して最後の急斜面を登り始めた。


 そして、ついにたどり着いた。

 目の前に現れたのは、巨大な岩壁に穿たれた、大きな洞窟の入り口だった。

 入り口の周囲には、風化して詳細は分からないものの、明らかに人工的な、古代の紋様のようなものがびっしりと刻まれている。

 洞窟の奥からは、先ほど感じた青白い光が漏れ出ており、荘厳で、どこか神聖な雰囲気を醸し出していた。


「ここが……月光鉱石の……」


 カイはゴクリと唾をのむ。

 リゼットとガオも、緊張した面持ちで洞窟の入り口を見つめている。


「行きましょう。目的は、もうすぐそこです」


 シルフィの言葉に促され、一行は意を決して洞窟の中へと足を踏み入れた。


 洞窟の中は、ひんやりとした、それでいて清浄な空気に満ちていた。

 外の濃霧とは対照的に、空気は澄み渡っている。

 壁は滑らかに磨かれており、そこには月や星々、そして古代の人々が何かを崇拝しているような、古い壁画が描かれていた。


「これは……古代エルフよりもさらに古い時代のものかもしれません……」


 シルフィが壁画に触れながら、興味深そうに呟く。

 奥へ進むにつれて、洞窟の壁自体が、内側から淡い青白い光を発し始め、松明などがなくても十分に周囲が見えるようになった。

 そして、洞窟の最深部から漏れ出る光は、ますます強まっていく。


 やがて一行は、洞窟の最も奥にある、巨大な広間へとたどり着いた。

 その広間は、天井の一部がドーム状に崩落しており、そこから差し込む月光――霧を通して地上に届く、幻想的で柔らかな光――が、スポットライトのように広間の中央を照らし出していた。


 そして、その光の中心に鎮座していたのは――。


「…………!」


 誰もが言葉を失った。

 巨大な、水晶のように透き通った鉱石。

 それは内部から神々しいほどの青白い光を放ち、周囲に満ちるような、清浄で強力な魔力を放っていた。

 鉱石の表面には、まるで月の光の雫が結晶化したかのような、美しい紋様が浮かび上がっている。


「これが……月光鉱石(げっこうこうせき)……!」


 カイが、かすれた声で呟いた。

 想像を遥かに超える美しさと、圧倒的な存在感。

 これほどの素材があれば、間違いなく今までにない強力な装備が作れるだろう。


「綺麗……」


 リゼットがうっとりと見とれている。


「すげえ……なんか、力がみなぎってくるみたいだ……!」


 ガオも興奮を隠せない様子だ。


「素晴らしい魔力です……。これほどのものは、文献でしか見たことがありません」


 シルフィも、その瞳に強い輝きを宿していた。


 カイたちが、その神秘的な輝きに魅入られ、月光鉱石へと一歩踏み出そうとした、その瞬間だった。


 ゴゴゴゴゴゴ…………!!


 広間全体が、地響きと共に激しく揺れた。

 そして、月光鉱石の前――広間の中央の床が、ゆっくりとせり上がり始めたのだ!


「な、なんだ!?」


 せり上がってきたのは、岩と、そしてこの洞窟に満ちる霧のようなもので形作られた、巨大な人型の像。

 その高さは5メートルはあろうか。

 全身はゴツゴツとした岩石で覆われ、関節部分からは霧が絶えず噴き出している。

 頭部には目にあたる部分がなく、代わりに月光鉱石の欠片のようなものが二つ、青白く不気味な光を放っていた。

 全身から放たれるプレッシャーは、先日のリザードロードなど比較にならないほど強大だ。


「……侵入者……排除スル……」


 低く、重い、合成音声のような声が、広間に響き渡った。

 月光鉱石を守る、古代の守護者――ゴーレムだ。


「来るぞ! みんな、構えろ!」


 カイが叫ぶのとほぼ同時に、ゴーレムが動き出した!

 巨腕を振り上げ、リゼット目掛けて叩きつけてくる!


「はあっ!」


 リゼットは黒曜の剣で受け止めるが、そのあまりの重さに腕が痺れ、数歩後退させられる。


「硬いっ!」

「邪魔だぜ、このデクノボウ!」


 ガオが高速で側面に回り込み、渾身の蹴りを叩き込む!

 しかし、ガンッ! と鈍い音が響いただけで、ゴーレムの岩の装甲には僅かな傷しかつかない。

 逆に、蹴ったガオの方が足にダメージを受けたようだ。


「全然効かねえ!」

「下がって、ガオ! ――凍てつく吹雪よ! ブリザード!」


 シルフィが強力な氷結魔法を放つ!

 冷気がゴーレムを包み込むが、ゴーレムは関節から噴き出す霧のようなものでそれを中和し、ほとんどダメージを受けていないように見える。


「なんて防御力と……再生力まで!?」


 シルフィの顔に焦りの色が浮かぶ。


 ゴーレムの反撃が始まる。

 巨腕の一薙ぎでリゼットが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる!


「リゼット!」


 幸い、深紅の鎧が衝撃を吸収し、致命傷には至っていないが、苦悶の表情を浮かべている。

 次にゴーレムは、両腕から霧を凝縮したような青白い弾丸を連射し、ガオを襲う!


「うわっ! ちょこまかと!」


 ガオは持ち前のスピードでなんとか回避するが、掠めただけでも道着が破れ、肌が露わになる。

 シルフィの張った魔法障壁も、ゴーレムが目から放った青白いビームによって、ガラスのように砕け散った!


「きゃっ!」


 シルフィも爆風で吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。

 ローブのあちこちが焼け焦げ、肩や腕が覗いている。


(まずい……! 強すぎる……!)


 カイは後方で、なすすべもなく仲間たちの苦戦を見つめていた。

『絆のチョーカー』で連携を取ろうとしても、相手の圧倒的なパワー、防御力、そして再生能力の前には、有効な攻撃手段が見つからない。

 このままでは、全滅は時間の問題だ……。


「くそっ……! 何か……何か手はないのか!? このままじゃ、みんなが……!」


 カイの脳裏に、絶望的な状況を打開するための活路を探して、様々な思考が駆け巡る。

 目の前で神々しく輝く月光鉱石。

 ゴーレムの弱点は?

 自分のスキルで、今、できることは……?

 カイは、ギリギリの状況の中、必死に答えを探していた。

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