第六章 拐われちゃうなんて困るよね
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「星空のマゲイア」
https://youtube.com/shorts/EDd47juQBEE
お手数ですがブラウザでURLをコピペしてお聴きください
ひと騒動が落ち着いてブリッジはほんのりまったりムード。とはいえサンフィル博士もハイクミン技長もブリッジに上がっていて、さっきまでのデータ解析とか玉座のメンテナンス。クルーのみんなも忙しく働いている。
「いいなーいいなーいいなー! お姫様抱っこいいなー! ウチもだーりんにあんな風に『ぎゅ♡』ってされたいよー♡」
ミリィとステヴィアは例によってブレザーとワンピースの制服姿。ここだけなんだか休み時間の教室みたいだ。お茶も出て優雅なひとときなんだけど… いいのかな、ブリッジでこんなことしてて。
「仕方ないじゃな〜い? シャッセちゃんはフライトユニットが壊れてたんだから〜」
話題の主であるシャッセは病院で現在検査中。囚われの身だったからね。
「そうなんだけどさー。羨ましいもんは羨ましいっちゅーに。それにあの子、フライトユニット無しで浮いてたよね?」
「え…?」
ええと…
◆
身体を引っ張る力がフッと消え、僕らは空中で停止。
「ニケの翼」
シャッセが小さく何か呟いた。
「え? 何?」
「カヅキさん、もう大丈夫ですので、放していただけますか?」
「あ、うん、ごめん」
◆
ホントだーっ!? 浮いてるーっ⁈
いやいや、この人たちやることなすこと常人離れしてるから浮いてるくらいで驚かなかった自分に驚く。
「シャッセちゃんはたまにあるわよねぇ、そういうの〜」
「あるよねー」
「えー…そんな軽い扱いでいいの?」
「いいっていいって。だってそんなことでいちいちビックリしてたらシャッセとは付き合えないっちゅーに」
そんなことて。
「王家は代々不思議な力を持ってるらしいから〜。それもその一つ程度なんじゃな〜い?」
程度て。
「シャッセの弓矢、あんなに凄いとは思わなかったよ」
「シャッセは強いんよ。マジで」
「そうなんだ。そうは見えないけど」
「見た目で判断しちゃダメよぉ、ハニー」
「おおっと。うん、そうだね」
「シャッセは王家だからあまり駆除の現場には出ないからねー。そう滅多にお目にはかかれないんだけど、まさに鉄壁の矛」
「最強の盾〜」
「んん? 矛盾がさらに矛盾してない?」
「でもそう呼ぶ他ないほど、攻撃も防御もスキ無く強いのよ〜」
「なになに? だーりんってばシャッセに興味津々?」
ニヤニヤしながらミリィが僕の顔を覗き込む。
「うーん、そうなのかなぁ? あまり話したことなかったから、結構喋るんでびっくりしたよ」
「あら〜、シャッセちゃんは喋るわよ〜?」
「めっちゃ喋るよ? それに怒らすと怖い」
「そんな目に遭うのミリィちゃんだけよぉ」
「そうなの?」
「シャッセはさー、イジるとカワイイのよ」
それは分かる気がする。
「でもねー、やり過ぎるとめっちゃ怒るのよ」
「それは当たり前な気が」
「めっちゃ怖いんだけど、喉元過ぎればまたイジりたくなって」
(へくちん へくちん)
何? この音…
パシュー
自動ドアの動作音と共に
「だーれかウワサでもしてるのかなー。なんだかくしゃみがー」
鼻をぐじぐじ擦りなからセーラー服姿のシャッセが現れた。
「風邪でも引いたんじゃないのー?」
「2回だったからセーフ」
ジェスチャーまで付けて話すシャッセはまるで別人のように明るい。年相応の女の子っぽくて、王家のデュエといえども普段は普通の女の子なんだな、となんだか安心するというか。
そんなシャッセがニコニコ愉しげにちょこんと僕の隣に来た。
「シャッセ、体の具合はどうだった?」
「はい、特には何とも。ちょっとアザができてる程度で骨の異常もありませんでしたので。またお役に立てるかと思います」
…なんだ? この違和感… あ、そうか、大したことじゃないけど。
「シャッセって僕に対しては丁寧な言葉遣いだよね。デュエの二人とは違って」
「あ、あの、それは…家庭の事情といいますか、生まれた時からそのように躾けられていまして…ミリィやステヴィアは小さな頃から一緒に遊んでいて、その頃から『ふつーにしゃべれっちゅーに』って丁寧な言葉を禁じられまして…逆躾けというか」
「ウチらいとこ同士ってもさー、友だちみたいなもんだし。友だち同士で「ですます」言われても変じゃね?」
「学校は行ってないの?」
「いがぜでぐれながっだんでずよぉぉぉ」
なんかシャッセが泣き崩れた。大げさ? いや、ホントに今そこでしゃがみ込んじゃってるから。感情表現が豊かすぎる。僕は無さ過ぎらしいけど。
「ウチらみんなだけどね。やっぱそーゆー一族だから警護がタイヘーンとかで」
「だから各々自宅で学習なのよ〜」
「やっぱり家庭教師とかついて?」
「せめて人なら良いんですが、機械なんですよ」
「機械じゃ話し相手にならないね」
「話すどころか。寝ている間ですから。学習するのって」
「は?」
「眠ってる間に脳へ直接知識送んの」
「起きている間は来賓の相手だのなんだの忙しいもんね〜」
…中2の時の社会の先生が話していたっけ、昔通販でそういうアヤシゲなものがあったと…先生、ホンモノがありましたよ。他の星だけど。
「おかげで知識の習得は早いんですよ。こっちで例えれば高校卒業くらいのことを10歳くらいまでには身に付けますから」
「えぇ…」
「そんくらいじゃないと間に合わないっちゅーに。他星のお客相手すんのに教養が必要、そっちの言葉も覚えなきゃだし」
「えぇぇ…」
「ここへ来るにもハニーが普段使っている言葉から文化から学んでから来たのよ〜?」
「一緒のヴァレットの子たちもですよ。スロノスドミナントとコミュニケーションが取れないと困りますから」
「んで特に優秀だったりするとデュエ専属でエアルムの管制担当になんの。ウチんとこだとチェリオがそう」
「うはぁ…」
もう溜め息のような相槌しか出ない。でもそれで分かった、なんでみんなが日本語ペラペラで日本の文化にも詳しいのかが。
「学校、行きたかったなぁ…」
ちょっと拗ねたようなシャッセの嘆きはもはや溜め息状態。「学校行くのめんどくさい」なんて言おうものなら一体どれだけの誹りを受けることやら。
「特にシャッセちゃんは王家だからどうしても付き合いが狭くなるのよ〜。パーティーだなんだで話をするのは歳上ばかりだし〜。私たちは駆除で同世代の付き合いがあるけど〜」
「だから同世代のお友だちって一人でも多く欲しくって。アヤカさんともお友だちになれたらな、って思うんですけど」
あ! まったり世間話してる場合じゃなかった! 慌てて携帯を見るが、着信ナシ。
「ねぇアミン。昨日綾香を送って行ったのってアミンだよね?」
「はい。そうですが、何か?」
「昨日って綾香をどこまで送ったの?」
「スロノス様を最初に送った場所でして」
「わざわざ妙なところに出入り口作った僕の部屋じゃなくて?」
「ええ。ちょっと一人になりたいからと、ご自宅から離れた場所をご希望されましたのでして」
「カヅキさん、アヤカさんがどうかしたんですか?」
「うん…昨日の夜、綾香のお父さんから電話があって、まだ家に帰ってきてないって。僕からもメール送ってるんだけど返事がなくてさ」
「あらあら〜。しんぱ〜い」
「だーりん、そういう大事なことは早くいわなくちゃー!」
「いやいや、昨日からずっとそれどころじゃなかったし」
「あの、すみません、私のせいで」
「シャッセのせいじゃないよ。そ
ヴィー ヴィー ヴィー
僕の言葉を遮り突然けたたましくブリッジに鳴り響く警告音。
「艦長! アルガウル軍の周波数で強制通信! スクリーンに出ます!」
「アルガウル軍⁈ なぜこんなところで…」
〈クックック。ご機嫌よう、敬愛なるディード星国の諸君〉
何だか豪華で偉そうなイスに座った金髪の歌舞伎役者みたいのが大写しになった。見覚えがある。ソイツはシャッセの記憶の中にいた。
「貴殿は、アルガウル皇国皇太子、スピリタス殿下!」
コイツがスピリタス…
〈いかにも。ボクがグダンスキィ家の第一皇子、スピリタスだ。この艦の責任者は誰かな?〉
「私です。ラムネ=フィユタージュ宙将です。なぜ貴殿がこのようなところへ…」
「ディード星国弩級駆除艦カスティリア級一番艦、ドゥラヤキ。見る者を圧倒する巨大さ、優雅な佇まい、豪華絢爛な設備。たかが微生物の駆除に王家御用達の艦を出すとはただ事ではない。そんな事態があるとすればただ一つ。その艦にはデュエが乗っているということだ〉
「その通りです。が、強制通信とは宣戦布告でもするおつもりか⁈」
〈宣戦布告とは穏やかではないな、ラムネ艦長殿。むしろボクが飼ってたかわいい小鳥をカゴから逃すちょっかいを出したのはキミたちの方ではないのかね? 良い声で鳴かすつもりが台無しだよ〉
「飼ってたですって〜⁈」
「つまり、シャッセをあんなところに閉じ込めたのはアンタだってことだなッ!?」
ステヴィアもミリィも怒号を上げ、シャッセは…俯き震えている。
〈面白いモノが降ってたもので丁重に『魂の牢獄』へ閉じ込めたのだがな〉
「魂の」
「牢獄〜?」
〈音。光。ありとあらゆる通信手段。それらを皆遮断し、孤独だけを閉じ込めた孤独の部屋。それが魂の牢獄だ。脱出も不可能なら救出も不可能なハズだったが、やれやれ、あれを打ち破るとはディードの力、侮っていたよ〉
「エレクトロファージに感染した戦闘機を嗾けたのは殿下ですかッ⁈」
艦長も黙ってはいられないようだ。
〈言い掛かりは止めたまえ。何を証拠に? ただ彼らはボクの願いを叶えてくれる、それだけのことだよ〉
「もはや隠す気もないのか…ッ!」
〈ちなみにこの通信はこの星のあらゆる通信網へ流している。自分たちの立場というものを弁えてもらうためにね。クックック。そうそう、小鳥は逃げるかも知れぬと捕獲しておいたものがあるのでご覧いただこうか。何の警戒もなくフラフラ歩いていたので捕まえるのは実に簡単だったよ〉
カメラ前のスピリタスが傍に動くと、画面に映ったのは…女の子。見覚えのある水色のワンピースと黄色いカーディガン。
「綾…香…?」
「アヤカさん…?」
〈おやおや。知り合いだったとはね。クックック、それはそれは好都合〉
ツカツカと激しく足音を立て小さな人影がスクリーン前に仁王立ちになった。
〈ほほう、我が妻のお出ましか、シャッセ=グダンスキィ〉
「私はフェアライト家の次女、シャッセ=フェアライト! アナタの妻なんかじゃありません! 今すぐアヤカさんを解放しなさい! 無関係の星の民に手をかけるなど言語道断! 星間連盟憲章第24条第1項に抵触します!」
それはさっきまでハイエナに睨まれたウサギのように怯えていたシャッセとは全くの別人。声には怒気が鋭く満ち溢れる。背中からは真っ赤な怒りのオーラが見えそうだ。
それに対するスピリタスは、どこまでも人を舐め腐っている。
〈その星間連盟とやらは我がアルガウル皇国の拠出が活動資金の3割を占め、供出連盟軍に至っては4割を超える。我が祖国の意を汲まねば動くことさえままならぬ組織に何ができると? クックック。そうだ、シャッセ。面白いモノを見せよう。キミはアヤカとか言うそうだな。アヤカ。こっちへ来たまえ〉
〈はい〉
綾香は言われるままにカメラの前まで来るとスピリタスの横に並んだ。その綾香の肩をスピリタスは抱き寄せ、そして…
〈ん…んム…〉
唇を、奪った。
「な…んということを…」
〈アヤカ。舌を出せ〉
言われるままに口から薄桃色の小さな舌をペロっと出す綾香。その舌に吸い付くようにスピリタスの口が再び重なる。クチクチと水音を立てながら。そして唇が離れると綾香は顔をうっすらと紅潮させていた。
そんなものを見せられて…僕は何をどう思えば良いのか? それが綾香の意思なら…でも何かが違う気がする。その目はうっとりではなく、どこか虚ろで焦点が定まっていない。
「スピリタス、アナタまさか…ソムヌスを使ったというのッ⁈」
「だったらどうなのだ?」
「ミリィ、ソムヌスって何?」
「うーん、簡単に言うと催眠装置って感じ? 薬で心身ともにリラックスさせてソムヌスを使うとめっちゃ効いて施行者の思い通りにできちゃう。保有も使用もご法度のシロモノ、なハズなんだけど…」
「星間連盟憲章第25条でマインドコントロールは禁じられていますッ! それに倣ってソムヌスも星間条約で使用どころか所有も禁じられているのにッ! それは皇国皇太子ともあれば知ってるはずでしょうッ!」
〈ああ、そうだったかねぇ? ご存知の通り我が母星アルガウルは軍事星国、戦争を生業にしているようなものだ。生きるか死ぬかのギリギリの状況で、手段など選んではいられないのだよ。便利なものがあるというなら使わない手はない。むしろシャッセ、キミに使わなかった自分の甘さを今では後悔しているさ〉
「なんて破廉恥な…それで…何を望むというのですか?」
〈なぁに、簡単なことさ。この地よりドゥラヤキを速やかに撤退させ、反故になったグダンスキィ家とフェアライト家の婚姻、白紙にしてやり直す。それだけのことだよ。シャッセ、キミが『ソノ気』になるのなら、この娘を返すことを考えてやってもいいぞ。だがボクのかわいいウィルスたちは大人しくしていられないようだ。どうにもこの星を火の海にしたがって大張り切りだよ。さて、ディードの降伏が先か、火の海が先か。どちらになるだろうねぇ? 吉報を待っているよ。クックック…クハハハハハハ!〉
歌舞伎野郎の高笑いと共に映像が消えた。
ブリッジにいる全員の表情にスピリタスへの怒りが滲む。中でも
「ああああああっ! もうっ! もうっ! もうっ!」
シャッセは床を踏み付け凄い剣幕。
「ああいうコトをする人だから私はあの人が大ッッッキライなんですゥゥゥッ!」
「これ、シャッセをアイツに渡せば済むって話?」
「えっ? 渡しちゃうの?」
「いやいや、そんなことしないよっ? そんなつもりはないって! そういうことじゃなく」
「私があの男の元へ赴けば事が収まるというならそうします。でもきっとアヤカさんは返してもらえないでしょう、おそらく。いや、間違いなく」
「だよねー」
「取り引きに使えると分かればそう易々と手放すとは到底思えないわよね〜。むしろこちらが取り引きに応じればアヤカちゃんが有効なカードであることを教えるようなものよ〜。アヤカちゃんをダシにさらなる要求してくるのは明らかでしょ〜」
「あの男、スピリタスとはそういう男です」
「それじゃ…」
「当然、取り返します! どんな手を使ってでも! アミン! 今すぐ本星政府へ連絡ッ! お父様にお願いして星間連盟総括理事会を開催して対応を協議してもらってッ! 相手は星間連盟憲章に違反していることを最大限に強調してッ!」
「は、ハイッ!」
普段はのほほんと返答するアミンもシャッセの勢いに押され短く真っ当な返事を返す。
「みんな落ち着こうよ。今のところはまだキスだけで済んでるみたいだし」
僕的には冷静で的確な発言をしたつもりなんだけど。
「だーりん、キスって口づけのこと?」
「そう、とも言うね」
「それはいくらだーりんでも許せないよッ!」
激昂するミリィに胸ぐらを掴まれた。
「そうです! そんな『だけで済んでる』なんてッ!」
シャッセにまで!?
あれ? あれあれあれ? 僕、そんなにまずいこと言ってる…? 二人の予想外の反応に僕は焦りに焦る。
「二人とも落ち着いて〜。何かハニーと私たちが噛み合ってないっぽいわ〜?」
「その、ディードでは違うの? キスの意味合い、とか。」
「口づけって、その…」
ミリィがモゴモゴと口ごもる。
「それは…女の子の口からは、ちょっと…」
シャッセは真っ赤になって俯いている。
「その…言わなきゃダメ、かしら〜?」
ステヴィアも真っ赤な顔で目を逸らしている。
「え? そんなに恥ずかしがるような事なの?」
「あの…ディードでは、その、口づけはこの地球で言うところの、これからせ、せ、せっくすぅ、をするぞぉ、という意思表示なのです…よ」
シャッセが耳まで真っ赤にさせながら説明してくれた。
「え゙⁈」
そして僕は事と次第が腑に落ちた。デュエの3人が想像以上に怒っていること、それに何よりシャッセの記憶のことを思い出した。記憶の中のシャッセもまたスピリタスにキスをされた時の怒りが尋常じゃなかった。それは、つまりそういうことなのだ、と。そしてその意味の延長で、綾香が僕の想像以上にヤバいことになっていることも理解した。
「ごめん…そうとは知らず…」
「ウチも…ゴメン、熱くなり過ぎた」
と、シャツの襟元を掴んだ手を離してくれた。
「私も、ごめんなさい。でもそれだからこそ一刻を争う状況なんです」
「うん。事の重大さを理解したよ」
異文化交流というのは難しいものだ。
♫♩♫ ♩♩♩♩♫…
「着信?」
綾香のお父さんからだ。
「ちょっとごめん。もしもし。星野です」
〈和津樹君か? テレビで事のあらましは知った〉
「あの、僕」
〈和津樹君にあれこれ言える立場ではないんでな。ただ、頼みがある〉
「頼み? 何でしょう?」
〈いま俺は高麗山の麓にいる。湘南平と言った方が分かりいいか。地元の人からの通報で、女の子を連れた怪しい人影を見たというんだ。服装の特徴から、それはおそらく綾香だろう。それで、署員を動員して付近を捜索したら以前はなかった洞穴があってな。踏み込んだら中からドローンが出てきて署員に怪我人が多数出てしまった。それで頼みというのが、和津樹君、君からお願いしてディードの人たちにこの洞穴を調べてもらえないか。もし中に綾香がいたら…保護して欲しい…頼む…〉
最後は綾香のお父さんらしからぬ弱々しい声だった。
「分かりました。こちらも綾香を助け出さなきゃって意見で一致してますんで」
〈そうか。すまない〉
「いえ。それでは。スピリタスの居処が分かったっぽいです」
「うほ、マジで? んじゃさっそくそこ行ってスピリタスボコってアヤカ助けよーぜ!」
「艦長。アメリカ国海軍から入電」
「読み上げて」
「はい。”かつて我が海軍所属だった原子力潜水艦、ドナルド級3番艦アンバージャックがハヤマ沖にて確認された。予測進路は貴艦ドゥラヤキ。なおアンバージャックは現在までの戦闘で魚雷などの通常兵器は使い果たしていると推測。残る兵器は核弾頭搭載のミサイルのみ。破壊力は地方都市一つを完全破壊する規模” 以上です」
AI戦闘機の時代になって核戦争なんか過去のモノって思ってたけど、やはりあるところにはあるんだ。モノも。その危険も。
スピリタス討伐で意気の上がっていた場が静まり返る。みな沈痛な面持ちで口を閉ざす。
ステヴィアがその重い口を開いた。
「…スピリタスが言ってたこの星を火の海にするとはこのことかしら…」
「こっちに向かってるってことはドゥラヤキが標的じゃない?」
ミリィの口調も重く硬い。
「デュエの戦力をドゥラヤキに張り付けておくため、かしら〜? どうする〜?」
「うーん、ドゥラヤキを空へ上げればこっちは無事かもだけど、そんときはミサイルがどこ行っちゃうか分かんないし。それでこの星の人たちが犠牲になっちゃうってのはねぇ。とりま撃たれる前にウチらで潜水艦を沈めるのかな。最悪ミサイルはドゥラヤキで受ける、と。どぉ? 艦長」
「私はミリンダ様の意見を支持します」
「んじゃ決まり!」
ええ…
「ちょっと待って! それはダメだよ。だって核ミサイルなんて受けちゃったらこの艦木っ端微塵だよ? クルーだって誰も生き残れない。第一、王室の人が死んじゃったら元も子もないじゃないか。どうにかみんな生き残れる方法を考えなくっちゃ!」
「うーん、だーりんはアマちゃんだなぁ。ウチら王室の者は民を守る義務があるの。何かあったら率先して先頭に立たなくっちゃいけないのよ。今はこの星、地球の人たちがウチらの民みたいなもん。だから地球のみんなを守んなくっちゃ、ってことなんよ。ウチらデュエはもちろん、クルーも、ヴァレットたちも、みんなその覚悟を持ってここへ来てんの」
「ハニーは嫌かもだけど、それがしきたりというものなのよ〜。悪いけど皆を守るため、今回ばかりは譲れないわ〜」
「それにね、まだ全員死亡確定ってワケじゃない。要は撃たれる前に潜水艦を沈めちゃえばイイってハナシ。まずはやれることはやっておかないとね! ってことで、だーりん、おっけー?」
――――それだけの覚悟を決めちゃってる人に反対なんかできるものか。
「分かった…」
――――そう返事をするしかないじゃないか。
「玉座の間は見た目以上に頑丈なの〜。核攻撃程度なら全然平気〜。スロノスドミナントってそれほどまでに重要なのよ〜」
――――そんな…僕ひとり生き残ったって…
「まぁ、だーりんのとこまでミサイル撃たせやしないって。よし、そんじゃウチらで手分けしてやるか!」
俯いていたシャッセがキリッと顔を上げた。
「スピリタスのところへは私が行く」
「大丈夫〜?」
「スピリタスの思う壺かもしんないよ?」
「うん。でも…スピリタスの件は私に決着をつけさせて欲しいの。私から始まってる事だから」
シャッセの言葉。声。そこに何らかの覚悟を感じる。
「分かった。そんじゃシャッセはだーりんと一緒に行ってきて。潜水艦はウチとステヴィアでやるから」
「いいの?」
「兵器の類ならウチらで何とかなるし。何かの際にはスロノスドミナントが側にいた方が心強いっしょ?」
「うん。ありがとう」
「艦長! エリュトロス、クサントス、キュアノスは置いてくから。指揮権は艦長へ預ける。いざという時は艦長命令で動かして!」
「了解しました」
「そんじゃ行ってくるよー、だーりん♡ チェリオ、ピコー、シードル。管制シクヨロ!」
「行ってきま〜す」
「行ってきます」
3人のデュエは自動ドアの向こうに消えた。僕は…ブリッジに残された。玉座に座らなきゃならないから当然なんだけど。でも、こんな時ですら僕はモブのポジションでいいんだろうか? たくさんの人の命が掛かっているこんな時ですら。ヒーローが最後の戦いに赴くとき、残されたヒロインの気持ちってこんななのかもしれない。
ED「勝ち組決定!」
https://youtube.com/shorts/ZpbnXe0bLmQ