結局翌日告白して無事ゴールインした
今年、そして恋愛は初投稿です!
けったいな宿題だと思った。
「自分の先祖について調べましょう。そつなくこなせばいいですからね」
こんな宿題考えた教師はどうかしてる。
親の顔も知らない人間が存在する世の中でこんなテーマの宿題を出すなんてあまりに意識が低い。
伝統ある貴族しか通わないこの学校では関係ないけど。
我が家は先祖代々連綿と続く由緒正しき魔法と科学の研究一家で何人も教科書に載っている。
教科書の内容を適当に書くのもいいが、折角だ、家探しでもして誰も知らない先祖の秘密を発見しようか。
「とーさーん、かーさーん。宿題で先祖調べろっての出たから、開かずの間ならぬ開けずの間、つまり倉庫漁っていい?」
「扉開けたけどすっごく汚かったわよ?埃まみれですぐ閉めたわ」
「私の父も入ったことがないと言っていたからな。私も入ってないが」
「貴方は冒険しないものね、ダーリン。そんなところも素敵よ」
「ありがとう、マイスウィートハニー」
「はいはい。お熱いことで」
両親はいつも通りイチャイチャしている。
結婚して何年だ?
まあいい。倉庫と呼ばれているブラックボックスを蹂躙する許可は取った。
いざ行かん!と気合いを入れる。
思ったより汚かったので手頃な場所を探ることにした。
「これとかよさそう」
そうして俺は手近な古臭い本を、先祖の手記を手に取って膝の上に広げた。
*
召喚の儀。
それは異世界から喚ぶ儀式のこと。
難しくないけど、何が出るかわからない。
雑草が招ばれるかもしれない。毒を持った蛇が喚ばれるかもしれない。
コストをかければある程度指定できるらしいけど、まあ、手軽な博打だ。
そんな召喚の儀で僕は当たりを引いた。
僕と同じくらいの歳、二十歳くらいの女性だ。
色々と話してわかったことの一つに、彼女は魔法がない世界から来た、というのがある。
そして、魔法について説明するとこんな反応が返ってきた。
「火水土風の四属性。イメージが大切。優劣がある?馬鹿です。私が考えるに、火が最強です!」
「火が最強?一般的に土と水が強いと言われていますよ。火は危ないし、ランタンに火を点ける以外は何もできませんよ?」
「いや、火はなんでもできるんですよ。そもそも火というか熱は素晴らしいものなんですけど、四大元素、四元素、つまり火水土風において、火と熱は同じものとして見られてて、これは空気と風が同じものとして扱われるのと同じですけど、で、熱はエネルギーが……」
「ヨクワカリマセン」
「科学知識!」
僕はその晩ぐっすり眠った。
毎日のようにカガクチシキを詰め込まれ、義務教育の勝利!日本の高校進学率はほぼ百パーセント!と叫ぶ彼女を横目に科学と魔法とを結びつけ、まあ、つまり、色々と研究をした。
彼女の知識が間違っていたり、断片的だったり、些細な計算ミスなんかもあったけど、周りの人を巻き込んで、微分積分を理解した人たちのおかげで建築物が頑丈になったり、そんな感じで色々あった。
そうして時は経ち、彼女の功績とついでに僕の功績が世界に轟いて二十年。
彼女は僕に言った。
「ね、隠してることあるでしょ。知ってるんだけど?」
その頃にはもうタメ口でやり取りをしていた。いや、出会って三日の時点でタメ口になってたけど。
「人の秘密を暴こうとするだなんて、えっち」
彼女に隠していること。それはたくさんある。
「はいセクハラ」
例えば僕がずっと結婚してない理由とか。
「ノンデリ」
初恋の人とか。
「わかってるでしょ?あんたがずっと研究してること。私は望まない」
彼女はきっぱりと言った。
「私は思うんだ。物語は終わりがあるから美しい。ねえ、人生も終わりがあるから美しいと思わない?不老不死は要らないよ」
「惜しい。蘇生」
「惜しいかなあ……」
君はまだ四十歳だ。この世界でも亡くなるには早い。
「死なないでほしいんだ」
僕の声はか細く、震えていたかもしれない。
「いいえ。私は死ぬ。貴方は貴方の時間を生きて、私は私の時間を生きる。そして、私は充分な時間を生きた。貴方に会って、貴方と共に長い時間を過ごした。幸福だった。この気持ちで私は終わりたい。貴方にも壊させない」
「そんなこと言われたら引き下がるしかないよ」
嘘だ。彼女が否定することはわかっていた。けれど、口にすることで彼女に否定され、引き下がるという形を取りたかっただけだ。
「引き下がってくれてありがとう。えっと、さっき秘密を暴く暴かないの話をしたけど、秘密を暴いちゃったから私の秘密も教えるね」
「えっ?」
秘密というほどでもなかったのに。
彼女は僕の手を取って、水分の抜けたような手で優しく包んで言った。
「私ね、ずっと貴方のことが好きだった。今も好き。結婚したかった」
僕は年甲斐もなく真っ赤になった。
「僕もずっと……」
「なんで私たちこんなずるずると遠回りして気持ちを伝えずにいたんだろうね」
「僕たちはずっと一緒にいたからね」
「別に結婚する必要はなかったけど」
「結婚してもよかったかも。形に残るってやつ」
「貴方って結構ロマンチストよね」
「褒め言葉だと受け取っておくよ」
他愛無い話をして、元々ゆっくりだった喋りが途切れ途切れになって、彼女は眠るように死んだ。
*
というような内容がしたためられていた。
「え?科学の祖と同時代を生きた祖先の手記がDTの拗らせで終わるって、俺は何を読まされたんだ」
科学の祖とは有名な女性で、異世界から召喚され、俺の祖先と共に科学と魔法の研究を進めた超有名人物でテストの頻出人物だ。
彼女と俺の先祖がいなかったら、今の快適な生活はない。
科学の祖の子孫がいないのが残念だが、これを見るに両片想いとやらで死を迎えたと。
科学の祖に関する数少ない資料になるだろうが、これは恥ずかしい。とてもじゃないが表に出せない。
「あれ、もう一頁ある」
*
人の手記を勝手に読むなと教わりませんでしたか?
と言っても僕の時代に呪いは存在しません。残念です。
それに、僕はきっと誰かに読んで欲しくて書いたのかもしれませんね。
何より僕は格好つけたがりだけど、それは彼女に対してだけ。
彼女の死後、僕の死後に恥も何もない。
あ、そういえばこの手記を読んでいるのは優秀な兄の子孫でしょうか。
きっと立派に育ってるんでしょうね。
ほら、遺伝子とか。そっちには明るくないのでよくわかりませんが。
生命といえば蘇生の研究は全て消しましたので。
不老不死やコールドスリープといったものも少し触りましたが、やはりこちらも廃棄してあります。
面白くありませんし、不必要です。
人生は終わるから美しいので。
貴方が生きている時代、どれだけ魔法が発達して、科学が発達しているかは知りませんが、いくつか言いたいことがあります。
人の手記を勝手に読むな。
想いは早めに伝えておけ。
不老不死やそれに類するものを好きな人にプレゼントするべきではない。
この手記を読むものへ、僕のような過ちを犯さないように、いや、何をするにしても貴方の人生、貴方の時間なのでしょう。
ああ、願わくば彼女と
*
「最後までなんというか、この人らしいような」
ほんの少し、手記で触れただけなのにそう思った。
よし。明日、気になるあの子に気持ちを伝えるか。
そういえばあの子に『貴方の家って貴族にしてはラブラブな人ばっかよね』って言われたけど、この手記読んだ人が俺以外にもいて一家相伝恋愛推奨?父の父、つまりお祖父さんも入ったことないらしいけどその前から受け継がれて……。
目につきやすい場所に置いたのも祖先の誰かの策略に違いない。
「くっ。なんて汚いやり方だ!こんな複雑な気持ちになるものを読ませるなんて」
いつから受け継がれてきたんだこの策略!
『自分の先祖について調べましょう。そつなくこなせばいいですからね』
ふと教師の言葉が脳裏をよぎる。
「そつなくというのは、家の恥部を見せないか、敢えて見せることによって影響を与えるか、という判断をさせる。なるほどな?これは見せられないし、今までも恥ずかしくて外に出さなかったんだろう……」
まったくもって大人は汚い。
そして俺は大人になるべく、手記を元の位置、つまりわかりやすい場所に置いて倉庫を去った。
「さて。宿題は資料集を参考にするか」
自分も恋愛を書けるんだなあと思いましたがこれ恋愛ですよね。自信がなくなってきた。
科学と魔法のくだりは適当です。魔力はエネルギー?それはそうだけど設定はふんわり程度が一番!