6.敵の所にお使いにいく
白玉様の妓楼
「メイヨウ、黒玉様が治める東の茶館にお使いものに行って頂戴。この本を主に届けてほしいの。貴方は字を読めるから、茶館の本棚から私が興味のありそうな本を選んできて」
黒百合の柔らかな繊手が痩せた顔を労るように包み込む。
(黒百合の声はいつも甘くて花の香りがする…)
この感覚を共感覚と、メイヨウはまだしらない。
「黒玉って、白玉みたいな貴族か?
おれ、権力者って苦手だ」
メイヨウはウヘェと舌をだす。
「大丈夫。とても優しい人よ。今日は、貴方は殴られていない?」
宝石のような瞳に見つめられ、メイヨウは真っ赤になる。
「大丈夫、最近は皆んながやさしいよ」
メイヨウの返答に黒百合は、ニコリと笑った。
「囲碁大会で、優勝した甲斐があるわ!」
四島で恒例行事とされた囲碁大会に、黒百合が参加してから彼女の活動範囲が妓楼の外へと広がった。
「わかったよ黒百合。てか、白玉様の敵対している黒玉様の治める茶館に俺なんかが行って大丈夫なのか」
何らかの策略や間違った情報で黒百合が動いていないか心配で、メイヨウは念を入れて確認をした。
「大丈夫。茶館の主は、私の事を気に入ってくださっているの。心配しなくてもいいわよ。今日は私は仕事を休むから、メイヨウも羽を伸ばしてきてほしいの」
「休むのか…そうか」
黒百合は滅多なことで休まない。少し違和感を感じたが黒百合が言うなら信じよう。
「じゃあ、行ってくるよ」
メイヨウが東の茶館に使いに出た。久しぶりの休みだった。
東の茶館まで黒百合から貰った路銀で車で行く。半年前まで人間だからと、乗れなかった車にメイヨウは乗れる。
不思議な感じだ。運転手も嫌な顔ひとつしない。
呪力が回復すれば飛んでいけるのに、今のメイヨウは呪力が上手く使えない。強い呪力があるはずのだが…。歯がゆい思いで窓の外を見て入ると花街から洗練した街並みにかわり、街の外れの落ち着いた小さな茶館にたどり着く。
黒塗りの上品な瓦屋根に立派な門扉に囲まれた古い作りの茶館だ。
庭には牡丹が植えられている。
車から降りて門扉の前で戸惑った。
半龍では無い。
メイヨウでも知っている龍族のしかも黒龍一族の紋章が彫られている門扉の前である。
貴族じゃない、王族だ!!
「マジかよ…」
黒龍なんて白玉の半龍どころの騒ぎじゃない。龍族、最強の純潔種!
運転手が間違って運んだのだろう。
白玉の関係者が立ち入る場所じゃない。後ろ足でゆっくりと後退りしながら方向転換しようとすると中から老人が出てきて、慌てて門扉をあけてメイヨウにすがりついた。
「椋鳥、待っていたんだよ」
「俺は椋鳥じゃない、じいさん。人違いだよ……痛ッ」
老人を引き剥がそうとした途端、メイヨウは猛烈な頭痛に襲われてその場に倒れた。