4.新しい仕事
「睨んでじゃねーぞ!この兎!」
妓楼の生活は楽じゃない。妓楼の裏で何回殴られたか分からない。兎とはアルビノの蔑称だ。赤い目に白い髪は目立ち、差別の対象になった。
「殴り返しても良いけど。龍界の半龍相手だ。気をつけて。ここじゃ、人間の命が軽い」
アンバーが傷の手当てをしながら告げる。アンバーは禿で商品だ。暴力はふるわれい。
高級娼婦の黒百合は店一番の売れっ子だ。その嫉妬はすさまじく、陰湿な嫌がらせを受けた。
禿のアンバーが機転をきかせて回避すると、嫌がらせの対象はメイヨウに暴力として向けられた。それでも、メイヨウは殴り返さない。
人間が半龍に反抗すると命を失いかねないからだ。
龍界では血筋が第一。後ろ盾がないと生きるのが辛い。黒百合とアンバーにはランドルフ伯爵がいるが、メイヨウの立場は孤児のままだ。
メイヨウは兎と呼ばれながら下働きをして、妓夫太郎として客引きをするようになった。理不尽に殴られても我慢した。
黒百合は仕事が終わるとアンバーと一緒に抱きしめてくれた。血は繋がっていないが三人に固い絆が生まれた。
メイヨウは、二人の励ましを糧にいつかこの地獄から抜け出せると信じて耐えた。そして、ある日を境にその生活は徐々にだが変化することになる。
「ねぇメイヨウ。貴方はいつも皆を睨んでるから、生意気だって、殴られるの気づいる?」
アンバーの何気ない質問にメイヨウは答える。
「俺は皆んなと違って、目の色素が違うから外の光が眩しいんだ。睨むつもりはねぇよ」
メイヨウは弁解する。周りにそう思われたのは意外だった。
「遮光眼鏡を作ったらいいかもね。はい、医療券。これ、区役所が孤児に配りはじめた奴でさ。
花街に認知されてない孤児がいっぱいいるだろう。そんな奴が行っていいんだってさ。
白玉様の邸宅の横に急遽、保健所ができたから行っておいで」
アンバーが白い正方形のチケットの束を渡してくる。
「わかったよ。行けばいいんだろ!」
自己認識と他者認識の違いに動揺していた。
メイヨウは、アンバーからチケットを掴むと、手探りをするよう明るい道をあるきだした。
「夜は歩くのが上手なのに、昼は歩くのが下手って何でだろうね?」
アンバーは、メイヨウの後ろ姿をみて考える。
彼は、目が悪いのに異様に『感』がいいのである。
それに、予知能力が高かったりする。
「何かができないと、別の能力で補ったりするのかな?」
まだ、メイヨウの能力には名前がついていなかった。