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3.高級娼婦 黒百合

アンバーは磨かれて美しい調度品の置かれた妓楼を水を得た魚の如く歩いていく。


洗練された動きはまるで舞を踊るようで、単なる奴隷商に売られた戦争孤児には思えない。


「姐さん。入るよ」ノックもしないでアンバーが扉を開ける。


天井が高い部屋に豪奢なしつらえ。中央に薄紅色の天蓋つきの寝具に男女が交わっていた。

「うわっ!」

メイヨウは、思わず声をだした。


銀髪の美女が男の上に跨っていて振り返りそうになった途端、男が女を庇いサイドテーブルから煙管をなげつけた。


「アンバー!時を選べ!」


宙を舞う煙管を避けると、激昂する男にアンバーは冷たい声をかける。


「情夫だろうと、商品に手を出さないでよ。ランドルフ伯爵イーサン。姐さんも甘いんだから。ほら、モースル信号の主を連れてきたよ。生き倒れてたのを拾ってきた」


「私の耳が特別よくてよかったわ…SOSを周波数で伝えてたのはこの子ね。暫くアンバーが面倒を見てあげて。その子、呪力が強いと思うから」


薄紅の天蓋から女が出てくる。楽器のような艶やか声が女の口から発せられる。龍界では見ない銀細工の様な見事な銀髪が褐色に光る裸体を包んでいるた。


燃えるようなエメラルドの瞳からメイヨウは視線を外せない。

絶世の美女がそこにいた。

「わかった。こいつ訳ありみたいだから、後で見てやって」

「良いわ」

アンバーに引っ張られてメイヨウは、部屋をでる。置き物のように固まるメイヨウにアンバーは告げる。

「黒百合姐さんは商品だ。決して惚れるなよ」

あぁ彼女は妓女なのだ。

メイヨウの胸に複雑な思いが交じる。

「そうか」

アンバーはメイヨウの手を引くと、腹が空いているだろうと調理場に連れていくのだった。


一ヶ月、酷い生活をしていた分の安心感からメイヨウは熱を出した。


小さな部屋に簡素だが清潔な寝具をあたえられ、アンバーにされるがまま世話を受ける。


アンバーはメイヨウが何処の生まれの分からない馬の骨のような身分で、さらに体に酷い傷跡あっても気にすることなく丁寧に丁寧に面倒を見てくれた。


メイヨウが言葉にできない程の恩を感じた。


彼…彼女であるアンバーが、メイヨウが誤飲しないように粥の匙を注意深く扱いながら話す。


「黒百合姐さんがね、『陰徳いんとくあれば陽報ようほうあり』って言葉が好きなんだ。

自分にしたことは周り回って自分に戻ってくるって考えなんだ。姐さんの現実主義者の考えに私が忠実なだけ」


博愛主義は向いてなくてねなどと、アンバーは呟いて、メイヨウに解熱剤を飲ませた。


「俺の体調が戻ったら、アンバーと黒百合姐さんに恩返しするよ」


メイヨウは熱にうなされながら呟く。

暫くすると、体調が戻り普通に外に出れるようになった。

寝ている間に何度か背中の傷をなぞられた記憶がある。

「魔術回路を見ると、記憶封じの酷い術式を受けたのね。呪力も封じられてる。

傷を治せば多少ましになるかもしれない」


歌うような声が告げた。

黒百合が、何度もメイヨウの所におとずれた。

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