11.吸血鬼の王、椋鳥、龍界の王子、飛龍に会いにいく
11.メイヨウの正体
冷たい風が吹き付ける、灰色の雲の下
「頼む!飛龍に会わせてくれ!」
激しい怒号が東の国と西の国との国境近辺に響き渡る。
一人の黒髪の小柄な吸血鬼が蝙蝠の黒い羽を広げて兵舎の結界を破るべく上空で奮闘していた。いや結界を破りかけていた。
「結界をやぶらせてはならない!」
軍の上位軍人である飛龍は緊急事態だと悟って屋上に出た。
「翼の大きさから鬼王の一人とお見受けします。正式な手段を取られての面会の手続きをお願いします」
飛龍は寒空に長い黒髪をはためかせ、説得を試みたが、上空の吸血鬼は死に物狂いで結界を破ろうとする。
「罰則は私がうけますので…結界の外にでます」飛龍は部下に伝えると兵舎の結界の外に上昇した。
「アンタが飛龍か。雅鱗の奴に似てないな。事態は緊急をようする。率直に言う。俺の養子を助けて欲しい」
声が掠れていた。この小柄な少年は幼い顔をして華奢な体躯だが鈍く光る黒い瞳の眼光の鋭さが飛龍を貫く。
龍界の王子は直感した。
彼は、高い位の吸血鬼だ。おそらく始祖である『鬼王』だ。
しかし、服のあちこちが煤けていて、広げたら10メートルはある、大きな翼にはケロイドの様な火傷跡が無数ある。何か特別なことがあったのだ。
このクラスの吸血鬼が龍滅大戦以降、この国境付近に現れない。
「分かりました。正式な手続きを踏まれない緊急の要請はタントラ枢機卿が、貴方様の要望を拒否し続けたのですね。お名前を伺っても?」
鬼王に名前を聞くと言うことは、鬼王に寿命の少しを分け与える行為だ。吸血鬼は力が強い程、何かしらの加護を与えるかわりに、代償を取られる。
だから、鬼王達は滅多に人前に出てこない。出てくる時はそれ相応の事態がある時だ。即ち緊急事態。
「すまねぇ。名前交換の迷惑をかけちまって。俺は齢い三千年吸血鬼。椋鳥だ。養い子である息子が緑の炎に連れ去られた。」
椋鳥が名前を言った途端、飛龍の心臓が痛んだ。寿命を取られたのだ。
「それは穏やかじゃない。この国の守護神に攫われるとわ」
飛龍は静かに同情した。
「養子は致命症を負った上に、記憶と呪力と名前を封じられて龍界の四島に落とされた。
俺は助けに行きたいが、吸血鬼は龍界には入れない。だから、龍界の王子に頼みに来た!」
椋鳥の必死の懇願に飛龍は答える。
「養子殿を龍界から人間界にお連れすればよいのですね?」
椋鳥の黒い瞳と飛龍の黒い瞳が考察する。
冷たい風がふたりの間をふきぬけた。
「分かりました。では、詳しい話を」
聞けば、その養い子は西の大陸の暗殺一族アスワド家の血を引いていると聞く。
しかし、養い子はアスワド家に生みの母親を殺された恨みがあり、復讐を誓っていた。
この、東の大国、白銀の国の女王白薔薇の新しい婚約者がアスワド家の長男、アジルが選ばれた。
この国の守護神、緑の炎は、その千里眼で養い子の復讐心を見抜き、女王と婚約者の敵を抹殺すべく戦闘をしかけ龍界に落とした。
「息子は、白い髪で赤い目の10歳の子供だ……名前は緑の炎に封印された」
椋鳥は、必死に飛龍に訴えた。




