#72 電話で。
悠希は奏太の腕をつかんで引っ張った。
奏太はバランスを崩す。
倒れるその瞬間、奏太の唇が悠希の頬に触れた。
すぐに奏太は顔を引き離した。
「・・・何すんだよ」
「あーあ。ちょっとずれちゃった。・・・でも、ま、いっか」
悠希は奏太にケータイを見せた。
たった今起こった出来事の写真が写っていた。
奏太の唇が触れたのは頬のはずだったがその写真を写した角度からは完璧、キスしているように見えた。
「・・・器用だな、お前」
「この写真、彼女にバラされたくなかったら今日、今から私とデートして?」
「は・・・?意味わかんねぇよ」
「・・・ばらすよ?」
「・・・」
『・・・』
優弥は駅でもう1時間くらい待ったが奏太がまだ来ない。
『おそい!!!』
優弥は携帯を手にとって奏太に電話をかけてみる。
「もしもし」
疲れ果てたような声で奏太が出た。
『ちょっと奏太!おそいんだけ・・・』
優弥が話している途中、電話の向こうで奏太の他にもう一人、別の人物の声がした。
「ちょっと奏太君ー?」
プッ・・・ツー・・・ツー
そこで電話が切られた。
確かに、今聞こえたのは悠希の声だった。
『・・・奏太?』
奏太のケータイは現在悠希の手にあった。
優弥と話している途中に奪われたのだ。
2人は街をぶらぶらと歩きまわっている。
「何すんだよ」
「どうせ彼女でしょ?」
「・・・だから何だよ」
「私とデートするって言ったじゃん。ほら、次はあのお店いこ!」
悠希は強引に奏太の手を引っ張った。