#169 卒業式。
体育館には、校長先生の長い話声が響いている。
おそらく、その話の内容がしっかりと頭に入っている生徒は少ないだろう。
その生徒達は、珍しく制服をしっかりと着こなしている。
今日は、優弥達の卒業式なのだ。
『おわったよー!!』
卒業式が終わり、教室での先生の長い話も終わって玄関に出ると、優弥は思い切り伸びをした。
皆はすぐにネクタイを緩めたりボタンを外したりし始める。
「おーい!優弥!!写真撮ろー!!」
その声のした方を見ると、千秋がカメラを持ってクラスの女子達と集まっていた。
『はいはーい♪』
優弥もすぐにそこへ混ざり、何枚か写真を撮る。
すると、クラスメイト達は次々に「さみしいね」と言い出した。
そういえば、大学へ行けばもう奏太はいないし、隣の家にも居なくなる。
毎日会うことは、出来なくなるのだ。
『・・・千秋、奏太は?』
優弥が千秋に聞くと、千秋は「あっち」と言ってたくさんの女子のいる方を指差した。
「奏太も竜も叶もあの中」
同じクラスの子や違うクラスの子、後輩までもが奏太達を取り囲んでいたのだ。
『・・・』
優弥が呆気にとられていると、千秋と静香は女子の大群の中に行ってしまった。
『うぅ・・・』
だが優弥には、あんなにも大勢の女子を掻き分けて奏太の元へ行く自身など全く無かった。
しばらく考えこむが、答えなんかでない。
でも・・・。
『・・・行くか』
優弥は、寒いのに腕まくりをして女子の大群の元へと向かった。
何度も謝りながら進む。
その時、突然誰かの足に躓いでしまった。
転ぶ。そう思った瞬間、誰かに腕を引っ張られ、引き寄せられ、なんとか転ばずに済んだ。
『あ・・・ありが』
お礼を言おうと顔を見てみると、奏太だった。
「・・・何してんの。何か用?」




