#164 ピアス。
静かな廊下にバタバタと足音が響いた。
優弥は寒い廊下を教室に向かって走る。
『おっはよーう!!!』
教室の戸を思い切りあけて叫ぶと、千秋と静香が呆れた顔で「おはよう」と言ってきた。
優弥のテンションが高いのも仕方が無い。
受験が終わり、しかもいつもの6人全員が無事に合格したのだ。
「・・・朝から元気な奴」
突然後ろから声が聞こえて、優弥はつい振り返るとそこには奏太が立っていた。
その後ろには竜と叶もいる。
『えへへ。元気が一番ー♪』
「みんなおつかれーだねぇ」
竜が奏太の肩に肘を置いて楽しそうに言った。叶はさっきからずっと拍手をしている。
『受験から開放されたよーう!!』
大して勉強もしていないが、妙な開放感。優弥はぎゅっと奏太に抱きついた。
だが、ここは教室なので奏太は無理矢理引き離そうとしている。
『あれ?奏太新しいピアス買ったの?』
優弥が奏太を見上げると、奏太の耳には見たことの無いピアス。
ずっと拍手をしていた叶が手を止め、にこにこしながら奏太を見て説明を始めた。
「そのピアスずっと欲しかったのに何処にも無くて、この前やっと見つけたんだよね!最後の1個だった!」
『でも奏太?今日1時間目の先生、ピアス外してないと何かとうるさいよ?』
「・・・知ってる。今外すし」
不機嫌そうにそう呟いてピアスを取り、ポケットにしまった。
そして1限後。
千秋と叶がパンを買いに行くというのでそれに付き合っていた帰りの廊下を歩いていた。
『パンなんて給食の前でいいじゃーん。まだ1時間目終わったとこだよー?』
優弥がそう言うと千秋は「早弁のため!」と叶と一緒に言ってきた。
「ん?」
一番後ろを歩いていた竜は、奏太の制服のポケットから何かが落ちたのに気付いた。
立ち止まって拾うと、それは朝に話していたピアスだった。
奏太に渡そうと叫ぼうとした瞬間、突然誰かに肩をつかまれた。
「もーう!なあに?俺奏ちゃんに用が・・・」
振り向いた先に居たのは、先生。
奏太達は竜が立ち止まったことにも気付かずにスタスタと歩いていってしまった。
先生は服装を直せ、だとか、そんなんで大学受かったのも奇跡、だとか長々とお説教を始める。
そのうち、2時間目が始まるチャイムが鳴った。
(・・・ピアス、あとででいっか)