#154 名前。
優弥を置いて先に帰った千秋と静香は、駅前の喫茶店に居た。
「・・・静香の作戦。上手く行ってるのか?」
千秋は水を飲みながら呟いた。
「・・・そのつもりだったんだけどなぁ・・・」
静香の作戦。
それは女装を止めた悠希と仲良くする優弥に奏太がヤキモチ。
それで「こいつは俺んだ!」的な展開になる予定だった。
でもそんな上手くは行かず、お互いがだんだん離れていった。
しゅんとする静香を見た千秋は、水を飲み干し、指を鳴らした。
「ちょっといい考えがあるんだけど」
「・・・?」
翌日から、優弥は悠希と居ることが増えた。
屋上で食べていたお弁当を片付け、悠希と他愛も無い話をする。
奏太の事は忘れて、悠希と付き合うのもいいのかもしれない。
そしたら、奏太とも友達に戻れる日が来るのかもしれない。
『・・・ねぇ、品浜さん』
「ちょっと!その"品浜さん"ってのやめない?」
『何て呼べばいいの?』
「悠希、でいいよ。優弥」
悠希は、笑って優弥の名を呼んだ。
『じゃあ、悠希!』
「それでよし!・・・そろそろ教室もどろっか」
『うん』
悠希は立ち上がって歩き始める。
優弥は、自分の手をぎゅっと握り締めた。
奏太は、忘れてしまおう。
『ねぇ、しな・・・悠希!!』
「何?」
悠希は振り返り、首を傾げる。
『いいよ。・・・私と、付き合ってよ』
微かだが、悠希は目を見開いた。
『・・・?聞いてる?』
「あ、うん。聞いてる。ほんとにいいの?」
『うん、いいよ』
優弥は、悠希の隣に並んだ。