#143 彼女。
「短い間だと思うけど、お世話になります」
奏太の部屋で奏太の元カノ、芹沢華蓮はぺこりと頭を下げた。
華蓮の前には、奏太と何故か優弥。
華蓮は優弥をじっとみつめてから、笑顔になった。
「あ!もしかして優弥ちゃん?!久しぶりだね~」
胸の少し上まで伸びたつやつやのキレイすぎる黒髪、ぱっちりとした目・・・そして大きい胸。
こんな美人さんを優弥は忘れていたとは。
『う・・・あ、久しぶり・・・』
「でも何で優弥ちゃんがここに?」
華蓮は首を傾げる。
疑問に思うのは当たり前だ。
中学の頃の優弥と奏太は喧嘩ばかり、むしろ喧嘩しかしていないくらいの仲。
そんな優弥が奏太の家に居るのだ。
付き合っている、なんて思いもしないだろう。
これをどう説明すればいいものか。
『え、えっと、その・・・痛っ!』
奏太は優弥の髪の毛をひっぱり、すこし引き寄せた。
『ちょっと、何すん・・・』
「・・・こいつ、彼女だから」
「あ、そうだったの?!じゃあ文化祭の日に奏太君と一緒に居たのって優弥ちゃん?」
華蓮はいきなり笑顔で優弥を見た。
『ほえ?!あ、まぁ・・・』
「ごめんね・・・。奏太君、お化け屋敷の前で一人でぼーっと立ってるように見えたから・・・」
文化祭のタイムテーブルを見るためにたまたま手を離しただけなのだ。
その時に華蓮は奏太が一人だと思い、喫茶店へ連れて行ったのだろう。
「へーぇ。あの2人が付き合ってるなんてねぇー・・・」
「・・・コーヒーでいい?」
そう呟いて奏太は返事も聞かずに部屋を出て行った。
優弥は華蓮と部屋に2人でとり残されてしまった。
気まずい。気まずすぎる。
その時、奏太のケータイが鳴った。
千秋からの電話だった。
(助かった!千秋だ!!代わりにでてやれ!)
『あ~!千秋じゃん♪(棒読み)』
わざとらしくそう言って電話にでると、千秋が優弥に電話をかけても出なかったので奏太にかけてみた、ということだった。
優弥のケータイは部屋に置いてきてしまったのだ。
気まずい空気を、優弥は千秋との電話でなんとかやり過ごした。