#136 諦め。
体育館からは生徒会長からのコメントが聞こえてくる。
そして保健室から聞こえてくるのは、優弥の声。
『んんっ・・・』
優弥がじたばた暴れても、奏太は手を除けようとしない。
口が塞がれたままだった。
『んんんんん!!』
「・・・いいから黙れ」
『・・・・・・?』
ふと、廊下からパタパタと足音が聞こえてきた。
その音はだんだん近づいてきて、保健室の扉を思いっきり開ける。
「「せんぱいっ」」
声をそろえて入ってきたのは、けんけんと小雪だった。
閉会式は終わったようだ。
「「せ・・・先輩?」」
けんけんと小雪はまたしても声をそろえる。
「悪いけど、用があるなら後にしてくれない?」
奏太は無表情だった。何を考えているのか。
けんけんと小雪の顔はだんだんと赤くなり、2人は何も言わずに扉を閉め、去っていった。
奏太はようやく手を離し、ベッドから降りた。
『ちょっと、何がしたいの?!』
「けんけんに、綺麗さっぱり諦めてもらおうと思って」
『・・・?』
「あんな現場見たら、さすがに諦めつくでしょ」
『もしかしてっ・・・そのため?!』
優弥が叫ぶと、奏太は相変わらずの無表情で振り向く。
「何。期待でもしてた?」
『そっ・・・そんなんじゃない!』
「あのっ・・・先輩!!」
小雪は、廊下を歩くけんけんの背中に向かって叫ぶ。
「あの、えっと・・・私・・・先輩のことが、すっ・・・」
「すとっぷ」
小雪の言葉を、けんけんは遮った
「・・・?」
「俺が優弥先輩のことを諦めたのは、先輩の幸せを願ってとか、そんなのだけじゃないんだよ?」
けんけんは、静かに微笑んだ。
小雪にはけんけんの言っていることが全くわからない
「ほ・・・他に何か理由があるんですか?」
「こんなにも近くに、自分のこと想ってくれてる人がいるからさ」
「・・・?」
「優弥先輩か小雪ちゃん。どっちが好きなのかわかんなくなっちゃった」
けんけんは、よくわかっていない表情の小雪の頭を撫でた。
「今まで自分の気持ちに気付けなくてごめんね。さっきの小雪ちゃんの言葉、俺から言わせてよ?」
「え・・・えぇぇぇぇぇ?!ででででも藍澤先輩・・・優弥先輩にキス、してましたよね?見ちゃいました!」
「ごめんごめん。最後に、奏太先輩いじめたくてね」
けんけんは、にやりと笑って、話を続ける。
「俺、さっきの保健室のやつで優弥先輩は綺麗さっぱり諦めついたし、ようやく自分の気持ち・・・気付けたから。小雪ちゃんが、好きだって」
「わ・・・私もだいすきです!!!」
「知ってる」
そう言ってけんけんは、また笑った。