#134 こわい。
空は今にも雨が降り出しそうだった。
奏太は少し前にいたけんけんを、楽々と抜かす。
『あー・・・雨!!まだ降らないで!!もう少し待って!』
優弥は手を合わせて空に向かって叫ぶ。
隣にいた千秋は、そんな優弥に呆れながらため息をついた。
「おい、優弥。なんかおかしくないか」
『え?何が?』
優弥が手を合わせながら千秋を見ると、千秋は奏太とけんけんをじっと見つめていた。
「奏太だよ。なんか、走り方おかしい気が・・・」
その瞬間、奏太は急にスピードが遅くなった。
『え・・・?』
「足でも痛いのか?」
思い出した。そういえば階段から落ちてしまったのだ。
『もしかしてあの時っ・・・』
そういえば奏太の様子が少しおかしかった気がする。
優弥はてっきり奏太が怒っていただけなのかと思っていたが、足が痛いのを優弥に隠していたのだ。
『私の、せい・・・?』
優弥があんな事をしなければ。
思えば自分は、奏太に迷惑をかけてばかりだった。
後悔ばかりが押し寄せてくる。
千秋は、隣で泣きそうになるのを必死に我慢する優弥の頭をそっと撫でた。
「・・・」
とうとう、雨も降り出してしまった。
「先輩・・・?足、どうかしたんですか?」
ようやく奏太に追いついたけんけんは、奏太の隣に並んだ。
「・・・別に、なんでもねぇよ」
奏太はそのまま、最初と同じ、いつも通りのスピードで走りだした。
「怪我してるのに・・・。やっぱり奏太先輩にはかなわないなっ・・・」
そう呟いて、けんけんも奏太の背中を追いかけた。
先にゴールテープを切ったのは、奏太だった。
雨は相変わらず降り続け、生徒達は体育館へと小走りで向かっている。
『奏太っ・・・』
優弥は、奏太の長袖を持って奏太の元へ近寄った。
『あの・・・冷えるから、長袖・・・あっ、保健室行かなきゃね!閉会式くらい出なくてもばれないでしょ!』
優弥は、奏太を支えて歩きながら、長々と喋り続けていた。
奏太の顔を見るのが、怖い。
自分のせいで怪我してしまったのだ。
話をやめると、今にも泣き出しそうになってしまう。
『それでね、さっきね・・・』
「・・・」
優弥は、奏太から目を逸らしたまま、話をずっと続けていた。