#132 階段。
『あ・・・あの』
優弥が着替えて視聴覚室からでると、千秋と静香が待っていた。
「ゆーちゃん可愛いー!!」
静香がぴょんぴょんと跳び始める。
千秋は腕を組んで何度も頷いていた。
「ほら、噂をすれば奏太だ」
千秋は廊下の水道水で水を飲んでいる奏太を指さした。
『別に噂なんかしてないんだけど・・・』
優弥が一旦、奏太を見て再び千秋と静香のところを振り向くと、2人はいなかった。
『あれ?!ちょっと、千秋?静香ー?!!』
優弥が一人で叫びながらきょろきょろしていると、いつの間にか後ろに奏太が立っていた。
「・・・何一人で叫んでんの」
『ほわぁ!!』
驚いて振り返ると、奏太は呆れた顔。
「というか、何その格好」
奏太はチアガールの優弥をみて更に呆れた様子だ。
『あぁ・・・えっと、応援?」
「・・・」
奏太は無言だった。
(か・・・完全に呆れてるよ・・・他の話題!)
優弥は心の中で勝手に落ち込んでいる。必死に話題を探した。
『あ、そうだ!!リレー、絶対勝ってね!!』
優弥は歩き出した奏太の隣に並び、リレーの話を始めた。
階段の手前に来たところで、2人はち立ち止まる。
優弥はチェーンにつけて首から提げていた指輪を奏太に見せた。
『期待してるから』
その瞬間、どうして神様はこうも意地悪なのか、指輪をしまおうとした途端にチェーンが切れ、指輪は呆気なく階段の下に落ちていく。
『あっ・・・』
届くはずの無い指輪に思わず手を伸ばした優弥は、そのままバランスを崩した。
『ひゃっ・・・・』
何が起きたのか、わからなかった。
気付いた時には優弥がいたのは階段の下。
階段から、落ちてしまったのだ。
『っ・・・』
優弥は恐る恐る目を開ける。そんなに痛くない。運がよかったのか?
『・・・え?』
運がよかったわけではない。目を開けた先にいたのは、奏太。
『奏太?!ちょ・・・大丈夫?!』
奏太が、優弥の下敷きとなってくれたのだ。
「お前こそ、怪我は?」
奏太は優弥の頭を軽く叩いた。
『私は・・・大丈夫』
その言葉を聞いた奏太は呆れながら立ち上がる。
「・・・あ」
『・・・何?どうかした?』
「・・・別に」
『えー、気になるじゃん!』
優弥が歩きだした奏太の腕を掴む。
だが、奏太はすぐにそれを振り払った。
『・・・え?』
「・・・なんでもない」
奏太はそのまま階段を下りていく。
優弥はチェーンの切れた指輪を、仕方なく指にはめた。