#129 幸せを願う。
「あの、先輩、今何て?」
小雪は恐る恐る聞き返す。
今けんけんの言った言葉が、信じられなかった。
もしそれが本当なら、今まで自分が悩んでいたのはなんだったのか。
「如月先輩はもうとっくに諦めてんの」
けんけんは、笑顔だった。
「そんな簡単に諦めちゃっ・・・」
小雪が、優弥から言われた言葉だったのだが、小雪はけんけんが必死に笑っているのが、わかった。
「1年経っても、優弥先輩が好きなのは奏太先輩。そろそろ好きな人の幸せくらい、願ってあげなきゃ」
けんけんは、悲しそうに笑った。
「だから、体育大会に奏太先輩とリレーで勝負する」
けんけんはガッツポーズをした。
「奏太先輩にかなうわけないって、わかってるけどさ。けじめをつけたくて」
「・・・・・・」
小雪が何も言わなくなったので、けんけんは「じゃあね」と手を振って去っていった。
午後の授業は体育大会の全員リレーの練習。
優弥はスタート位置に立つ奏太を見つめた。
『私的なストーリーでいくとね!』
隣にいる千秋に向かっていきなり叫ぶ。
『けんけんは奏太との勝負に負ける!そして小雪ちゃんが慰める!そこでけんけんドキッ!俺は、小雪ちゃんが好きなんだぁー!的な展開になってくれないかなーと』
優弥がいきなり語り始めたので、千秋はすっかり呆れている様子だった。
「そんな上手くいくかね?」
『いくと願う!だからこそ、奏太は勝ってほしい!』
「いくら奏太でも、相手は陸上部だぞ」
千秋がそう言った途端、バトンは奏太へと渡った。
奏太は相変わらずの速さで、どんどん他の人と差をつけていく。
『けんけんにも、幸せになってほしいからさ』
「・・・まぁ、ね」
『ほら千秋、そろそろ私達の走る番だよ』
優弥が歩きだすと、千秋もその後ろを歩き始めた。