#128 好きじゃない。
『3年全員リレーでしょ、学年種目・・・綱引きだっけ?それに騎馬戦、団対抗の選抜リレー』
体育大会は来週。お昼休みに優弥は奏太と一緒に廊下を歩きながら指を折る。
『4!4つの競技に出なきゃね。奏太』
「そんなにあんの?めんどくさ・・・」
奏太は自動販売機の前で立ち止まり、ココアを2つ購入した。
一つを優弥に手渡し、再び歩き始める。
『リレー、アンカーやるんでしょ?』
「・・・まぁそうなるだろうね」
奏太がそう呟くと同時に、優弥は玄関の方にいる小雪の姿を発見した。
『あ!小雪ちゃん!!』
優弥がそう叫んで手を振ると、小雪は周りをきょろきょろと見渡す。
その姿に思わずくすくすと笑って近づくと、小雪は優弥と奏太の姿を発見し、少しだけ手を振った。
『けんけんと仲良いみたいじゃん?』
優弥はにやりと小雪をみつめる。
「あ、はい!とっても優しくて、フラれたばかりの私も・・・慰めてくれました」
小雪は少し頬を赤らめて思い出すように呟いた。
『うっ・・・ごめん』
小雪がフラれたのは優弥のせいだ。思わず優弥は頭を下げた。
「あっ、いえ!もう藤波先輩のことはなんとも思ってないですし!!」
『けんけんが好きになっちゃったから?』
頭をあげて、優弥は再びにやりと笑った。
「え?!そ、そんなんじゃないですっ!!!」
顔を赤らめた小雪はそのまま走りさった。
好きじゃない、好きじゃない、好きじゃない―・・・!!
小雪は廊下を走りながら、何度もそう自分に言い聞かせた。
藍澤先輩が好きなのは、如月先輩。
藍澤先輩を好きになったって、また悲しい思いをするのは、自分。
「あれ?小雪ちゃん?」
噂をすれば、というやつなのか、目の前にはけんけんが現れた。
今、最も会いたくなかった人物。
小雪は立ち止まって、けんけんの前に立った。
「あ・・・えっと」
「どうしたの?思いつめたような顔して」
けんけんは心配そうに小雪の顔を覗き込む。
「いえっ!別に何も・・・」
「そ?何かあったらいつでも言って?」
そう言ってけんけんは小雪の頭をぽんぽんと叩いた。
好きになってはいけないのに。
どうしてこの人は、こんなにも優しいのか。
好きになって後悔するのは、自分。
「・・・ほんとはさ、如月先輩の事、諦めちゃってるんだよね」
どんどん思いつめた顔になって行く小雪に、何か話題を探していたのかけんけんは突然そう言った。
「・・・え?」
小雪は、耳を疑った。