#125 射的勝負。
海へ行って一夜明けた日もとっくに午後になっていた。
空はまだ少しだけ明るいがもうすぐ日が沈むだろう。
優弥達6人は現在、お祭りを満喫していた。
「浴衣とか持って来ればよかったね」
静香が回りを見渡してそうつぶやく。
千秋は腕を組みながらため息をついた。
「荷物が増えるから嫌」
「ちょっと!奏ちゃん!!」
突然、後ろから大声が聞こえた。
声の主は竜。射的屋の前ではしゃいでいた。
「射的やろうよ!射的!!いっぱい物とったひとが勝ちだよ!!」
竜は奏太の服の袖をぐいぐいひっぱった。
「は?めんどくせ・・・」
「あっれぇ~?自信がないのぉ~?」
自信に満ち溢れた表情で竜がそう言うと奏太は銃を手に取って銃口を竜に突きつけた。
「んなわけあるか。お前より商品とってやる」
「さすが奏太♪」
その隣で叶もやる気満々な表情で銃を手に取っていた。
『・・・あほらし』
その様子を他人のフリでみていた優弥と千秋と静香は呆れながら勝負の行方を見守った。
いつの間にか周りには少し見物人が現れ始めていた。
「俺あのゲーム落としてやるもんねぇー♪」
竜は楽しそうにゲームの箱へ銃を向けた。
だんだんと何故か見物人が増える中、決着が付いたのは数分後。
竜も奏太も結構な量をとっていたのだが、それよりも叶がたくさんのお菓子を抱えていた。
「か、カナ?!俺ゲームとか頑張ったのに!!」
竜が驚いた表情で大量のお菓子を羨ましそうに見つめた。
「だってこれ、価値じゃなくて量で勝負でしょ?竜ちゃんそう言ってたよ?」
叶は満面の笑みでそう言った。
優弥は竜と叶の隣で呆れた顔でいる奏太の元へ近寄る。
『ねぇ、それちょうだいよ』
優弥が指さしたのは奏太がたった今射的で落としたうさぎのぬいぐるみ。
「・・・はい」
奏太は理由でも聞きたがるかの様に間をあけて、優弥にぬいぐるみを渡した。
それを見た優弥はぬいぐるみを抱えて、静かに呟く。
『高校最後の夏だもん。思い出にね。ただそれだけ』
「・・・」
射的で取った商品を竜に預けた奏太は突然、ケータイを取り出して時間を確認した。
「おい、優弥」
『・・・何?』
優弥が返事をするのと同時に、奏太は優弥の腕を引っ張って走り始めた。