#110 単純。
放課後、優弥は千秋と静香と一緒に校門を出たところでふと立ち止まった。
『あれ?』
チェーンにつけて首からさげていた指輪がなかった。
誕生日に、奏太から貰った指輪。
立ち止まった優弥を千秋と静香が心配そうに見つめていた。
『ごめんっ!先帰ってて!』
優弥は学校の玄関へと戻り、急いで靴を履き替える。
『もーう!!何処?!教室かな・・・?』
小走りで教室に向かう。思いっきりドアを開けると中にいたのは3人の男子生徒。
――奏太と竜と叶。
「あれ?ゆーやんどしたの?」
竜が不思議そうな顔で優弥を見た。
「・・・お前等先帰ってろ」
寂しげな表情の優弥を見て奏太は竜と叶に先に帰るよう、指示した。
竜と叶は不思議そうに教室を出て行った。奏太と2人きり。
『奏太ぁ・・・』
「・・・何」
奏太はいきなり泣きそうになっている優弥に呆れながら近付いた。
『指輪がない・・・』
優弥は泣きそうになるのを必死にこらえながら奏太に助けを求めた。
「あぁ・・・俺があげた"奏太からの初めてのプレゼント"とかいうやつ?」
そういえばそんなことも昔言ったような気がする。優弥はだんだん恥ずかしくなってきた
『べっ・・・別にいいもん!あんな指輪っ・・・無くたって・・・・』
泣きそうになり、俯くと奏太にデコピンをされてしまった
『痛っ!なにすんの!』
「ばーか。泣きそうになってるくせに意地張ってんな」
優弥は思わず泣きながら奏太に抱きついた。
『だって・・・あの指輪があったから、奏太が本当に私の事好きだって思えたんだもん』
「は?」
『好きってちゃんと言ってくれたのも1回くらいしかないしさ!』
奏太から再びデコピンをくらった。
「・・・あんなもの無くても、ちゃんと好きだっつーの。何回言わせんだよ」
『そんなこと言えるほど言ってもらってないよ!ねぇ!じゃあ私の何処がすきなの?!』
「んなこと言えるかよ」
優弥が奏太を見ると、奏太は顔を少し赤くして横を向いていた。
『ほらー!!そんなのだから信じられないんじゃん!!』
「・・・じゃあこうしたら信じるの?」
『・・・え?』
奏太の手が優弥の頬に添えられ、そっと、2人の唇は重なる。
『・・・・ごめん。・・・しんじた。』
優弥は思わず謝る。
「目ぇくらい閉じろよ」
『だって突然だったんだもん』
「鈍過ぎるだろ・・・」
『じゃぁ、目閉じるからもう一回!』
「あほか、もうしねぇよ」
奏太は自分の席まで行って鞄を手に取った。
「ほら、さっさと帰るぞ」
奏太に鞄を思いっきり頭にぶつけられた。・・・痛かった。