#106 転んだ少女。
修学旅行もひと段落。
6限目の授業が体育から急に保健に変わったとのことで奏太と竜と叶はサボるために、屋上へ向かっていた。
「僕何か飲み物買って来ようか?」
廊下を歩いていると、叶が財布を取り出してそう言った。
「んー、じゃあオレンジ!」
竜が手を挙げて叶に何度も「オレンジだよ?」と言っている
「・・・コーヒーでいい」
奏太が呆れて少し早足で廊下を進んだ。
後ろから竜が付いてこない。叶について行ったのだろう。
突き当たりを曲がろうとしたその時、
「ひゃぁ!!」
突然聞こえたその弱弱しい声で奏太はふと気付く。誰かとぶつかった。
「・・・?」
見下ろすと廊下に座り込んでいる女の子が居た。今ぶつかって転んだのだろう。
「いたたたたた」
その子が顔を上げた瞬間、目が合った。
その子は目が合ったまま、動かなかった。
口がぽかーんと開いている。こういうときは口に何か入れたくなってしまう。
「・・・何見てんの?」
あまりにも動かなかったので、奏太はその子に話かけた。
「え?!」
我に返ったようだ。あわてて目を逸らされた。
「奏太ぁ~♪ジュース買ってきたよ~」
その時聞こえた間抜けな声。竜と叶が戻ってきた。
「あぁー!!奏ちゃん何したの?!この子すりむいてるじゃん!!」
ジュースを両手に持っていた竜はいきなり叫びだす。
奏太はその子の膝を見てみると少しだけすりむいていた。
「ちゃんと保健室連れていきなよ!屋上でまってるから!」
そう言って竜は叶と一緒に屋上の方へ歩き出した。
「・・・来て」
そう言って奏太は歩き出す。
「痛っ・・・」
後ろから聞こえた声で奏太は振り向く。女の子が膝をさすっていた。
「そんなに痛い?」
「膝打ったみたいで・・・」
奏太は仕方なく、女の子の方へ戻っておんぶの体制でしゃがみ込む。
「・・・?え?」
「・・・足。痛いんでしょ」
不思議そうな表情をしていた女の子も、奏太の言葉で背中にしがみついた。
「・・・こんな現場誰かさんに見られたら怒るだろーね」
奏太には早く保健室に連れて行って屋上へ行こう、という思いだけだったのだが、女の子は頬を赤くして、奏太を見つめていた。