5 『真のヴィラン』
「これで赤ずきんの話は終わりだ。うん、実によく出来た話だと思う、が、本来はこんな結末ではなかった。この物語において、本当の悪役は誰だと思う?」
語り部は暫し沈黙して、答えを待たずに口を開いた。
「そうなんだ、明確に悪役はいないように見える。赤ずきんはたしかに人を殺した罪人だが、それは仕方がなかったことでもある。そして狼。彼は人間たちを殺したが、それは因果応報というやつだ。犯罪者たちが死んだところで、殺した奴を悪役扱いするなんてことはないだろう? では誰なのか。この素晴らしい物語はどこで改変されたのだろうね?」
冷たくなった紅茶は、語り部が指を鳴らすと新しいものになった。
「まあまあ、お茶でも飲みながら聞いて欲しい。赤ずきん本人の頭がおかしくなってしまっていたのには理由があると思わないか? そう、途中にも獣の呪いって単語が出てきただろう? 結局狼の仕業ではなかったんだ。しかしだ。暫くは歳をとったようには見えなかった。だから呪いなんだけれど。しかし赤ずきんは最後には歳をとる。一体これはなんだったんだろうか、気になるだろう? まあ、それはまだ僕の口からは言えないんだ。この部屋が、館の場所が向こうにばれてしまうからね」
分厚い本に目を落とし、数ページ分捲ってから、再び、
「君には他の物語を聞いてもらって、そこから何が、誰が本当のヴィランなのかを見つけて、そしてそいつをどうにかして欲しい。全く呆れた話だよ。全ての物語を知る僕だけど、僕から手を出すことはもう出来ないのさ。せいぜい物語に少し修正を加えて、手助けすることしかできないのだから。最後にヒントをあげよう。狼は、赤ずきんに悪魔の気配があると、そしてそれは神父の仕業だと言ったね。それは間違いだ。赤ずきんの母親と恋仲にあった神父は何もしていない。あの赤ずきん、いいやエルザはとある何者かによって選定された、とだけ言っておく」
それじゃあ、と語り部が姿勢を正す。嫌なことを思い出すように、苦虫を噛み潰したような表情で語り始める。
「……次は選定から逃れられなかった者たちの話をしよう。全くもって力不足が否めないよ。しかし、今は君に希望を託そう。しかと聞け。全ては君にかかっている」
次の話を語り始めた。
再び舞台は森に移る。そこはほんの少しの魔法が流れる魔女の森。不気味な木々と、囁く枝葉。生の気配の少ない場所。
悲しく哀れな双子の物語。
はい、ここで本編と語り部トークまでまとめて赤ずきん編が終わりました!
童話ってファンタジー好きとしてもオカルト好きとしても、なかなかにロマンがあると思います。
真のヴィランが誰か想像してみてください^_^
多分すぐわかっちゃうかもですが。あ、グリム童話だけとは限りませんからね!近代に書かれたお話ももしかしたら出てくると思います。
さて、次のお話はみなさんもうお分かりですよね?そう、あの双子のお話。お兄ちゃんと妹の……ね?
さあ、では次話をお楽しみに!
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