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天使と悪魔  作者: Lirica
3/3

一人の天使が生まれた日に

人が足を止め見惚れるくらいの

大きな美しい虹が掛かった。

すると今度は何処からか

季節外れの雪が降った。

人々は奇妙だと言った。

空には雲など一つもないからだ。

その日、空を見上げなかった者はいない。


珍しい青い鳥が現れて

その赤子の揺りかごを揺らした。

祝いに来た預言者は

挨拶もそこそこに

赤子を見るなり沈黙をした。

「この世界をひとつに統べる者」

唐突に出した預言者の言葉は

今では有名な話になった。


手のかかる赤子。

その小さな体から火を出した。

指を指した物を爆発させた。

泣き声で侍従を失神させた。

よく死にかける。

赤子が熱をだすと

必ず奇妙な珍獣を呼び寄せた。

珍獣は赤子を食べようとするが

逆に赤子の得体の知れない力で

食われてしまうのだ。

王族は関わりを避け

代わりに魔導師を側におく。


「世界を統べる者」

預言者の言葉が重くのしかかる。

良い意味でも悪い意味でも

人々に多大な影響を及ぼすだろう。


ラファエロはまた死にかけた。

ずっとベッドの上で過ごしている

外から兄様達が楽しく過ごす声が聞こえてきて、自分も一緒に遊びたくて仕方がない。

今まで一度も同年代の子供と遊んだことがない。

いるのは侍従のサジェッサだけ。

暗い塔の奥にずっといる。

奇妙な予言を受けた幼い王子だった。

「まだ熱があるのかな?」

ラファエロは小さな手を自分の額にあてた。

窓からは陽の光が差し込み、外に出るには良い天気だ。

自分は天井をただ見つめるだけ。

「うう」

ラファエロは堪えた。

またここで泣いてしまうと熱も出るし、もしも珍獣を出してしまったら、今度は塔よりも、もっと離れた場所に独りにさせられるかもしれない。

この前も侍従を一人大怪我させたばかりだ。

幼いながらに厄介な経験が多い。

「ひぃっ」

ラファエロは今度はうろたえた。

ベッドの横から二本の黒い角がニョキっと出ている。

まさか、また珍獣を・・・

「ぐふふふふ」

そこから笑いを堪えた声がもれてきた。

ラファエロは身動きがとれないくらい固まっている。

「天使はね、みんな角が恐いんだって」

明るい声と共に、そのまま頭に角を生やした少女が顔を出した。

「本当かしら?」

生意気そうな少女はベッドに頬杖をついて笑った。

窓から陽射しがさしてキラキラとしていた。

「悪魔の子、初めて見た」

ラファエロは少女に見とれてしまった。

「兄様達はね、イシュタムの角はすごく綺麗というのよ。父上様もエキサイティングだって言っていつもお誉めになるの。」

イシュタムはラファエロの近くで自分の角を誇らしげに見せている。

イシュタムは4人兄妹の末っ子で、唯一の女の子だった。

だから王様も兄様達も皆イシュタムを可愛がったのだ。

イシュタムの角は男性の幾重にも巻かれた大きく迫力のある角とは違い、華奢なカーブが愛らしい角だった。

「触らせて」

ラファエロは慎重さよりも好奇心が勝ってしまう。まだ幼子だから仕方がない。

「いいわよ。恐くなければね。」

イシュタムは挑発的に言ってきた。

彼女は幼い頃からお転婆だ。

今日も兄様達とアンジェロ国に招待されたが、この塔にまだ見ぬ変わった王子がいると聞いて、文字通り飛んできたのだ。

それがラファエロとイシュタムとの出会いだった。


「いたぁい」

イシュタムはうわっと泣いた。

「ごめん、僕ね、たまに手から火がでるの」

ラファエロも泣きそうだ。イシュタムの角を触ろうとして、なぜか火を放ってしまったのだ。イシュタムの自慢の角が少し焦げた。

「ドジ」

イシュタムの容赦ない声に圧されてラファエロはついに泣いてしまう。

「なんであんたが泣くのよ?」

イシュタムは目を丸くした。

家族で泣くのはイシュタムくらいだったので、他人が泣くのが珍しいのだ。

「イシュタムがもう僕と遊んでくれないかと思って」

ラファエロはいよいよ涙が溢れ出てきた。

イシュタムは両手でラファエロの顔を優しく挟み涙を拭いてあげた。

「バカね。泣いてる方が遊べないわ」

ラファエロはイシュタムの手が温かくて気持ちが良いと思った。

人から好意的に触れられるなんて、初めての経験だ。

ラファエロの顔に笑顔が戻ろうとした時

「イ、イシュタム。後ろ、後ろ」

震えて話すラファエロを見て

「え?」

イシュタムが振り返ると、そこには得体の知れない珍獣がいた。

グルグルと喉を唸らせて、4本に裂けた尾はそれぞれに先に牙のような鋭い槍がついている。

「ぎゃー!」

2人の悲鳴も虚しく大きな口が迫ってきた。歯が口腔まで何重にも生えていて、噛まれたら一貫の終わりだろう。

泣き叫ぶラファエロの前にイシュタムが覆い重なった。

「え?」

イシュタムの小さな腕に抱かれている。

(僕を守ろうとしてくれたの?)

ラファエロの胸に今まで感じた事のない痺れがきた。

珍獣の歯がイシュタムの角を砕き黒い羽がバサバサ落ちる。

イシュタムの脇から光る刃のような歯をラファエロは見た。

イシュタムの背を貫きに襲いかる、このまま噛み砕こうとした時

珍獣は悲鳴をあげて口をまた開いた。

血だらけのイシュタムを抱えて虚ろな顔のラファエロは珍獣の口の中にいた。

「グギャグギャー」

ラファエロに珍獣は飲み込まれていく。

歪んだ笑みを浮かべて、ラファエロは珍獣を離さない。


イシュタムは気がつくとベッドの上で寝ていた。

先程の記憶があまり定かではない。

何か怪我をした気もするけれど。

隣で一緒にラファエロも横になって、ニコニコしていた。

「起きた?イシュタム」

よく見れば綺麗な顔の子だ。

「僕ねラファエロ。ねぇイシュタム、追いかけっこした事ある?」

ラファエロは先程の事はどこへやら、イシュタムを城の庭へ誘うのだった。


それからというもの、ラファエロはイシュタムに会うのが楽しみになった。

ラファエロはイシュタムと遊ぶと、体をコントロールできずに物を爆発させたり、イシュタムに火傷をさせてしまったりといろいろしたが、イシュタムは怖がらなかった。何しろ塔の奥まで飛んでくるようなお転婆だ。むしろドジでか弱い弟を守るかのように積極的に子守をしたい様子だった。

イシュタムと遊ぶとラファエロの胸から漠然とした不安が無くなる。

そしてラファエロの心が落ち着くと、いつしか自分の体をコントロールするのは難しい事ではなくなった。

あれから一度も珍獣を出していない。

熱もそんなに出さなくなった。


「ラファエロ様を驚かせてはいけない」

「はい!」

「ラファエロ様を泣かせてもいけない」

「はい!」

「おやつは太陽が昇りきるまで食べてはいけない」

「はい!」

「では行ってよし」

「はい!」

イシュタムはサジェッサが苦手だ。

この侍従には話を広げずに「はい」と返事をするのが一番だと理解していた。

ラファエロは2人の様子を不思議そうにみている。

「はぁ、疲れる」

振り返ったイシュタムはサジェッサから見えないように悪態をついた。

「イシュタム、今日は登山だろ?」

声を潜めてラファエロは言った。

可愛い太陽柄のポーチを手にして、ラファエロは喜びを隠せない。

「モンテ・インフェルノよ。パワースポットで有名なの」

少し大きくなった2人は初めて遠出のピクニックを企画した。それもお忍びで。

城の人間は誰もこのピクニックの事を知らない。2人にとって大冒険である。

まず城の庭で遊ぶ振りをしながら、事前に隠しておいたお菓子を補充する。

そして、少しずつ少しずつ庭の外れに姿を移し、2人は面白いくらい順調に城を抜け出した。

「ふふふふふ」

羽をパタパタさせながら、2人は笑いを堪えきれない。

「上手くいったね、イシュタム。次は?」

ラファエロは口に手をあてながら尋ねる。

「次はね、この道を真っ直ぐに進むわ。間違っても反対側の道に行ったらだめよ。モンテ・インフェルノのルチフェロ国側の頂きには兵士がいるから、反対側のこの道から登るの」

イシュタムの旅の行程に、ラファエロは羽を弾ませて

「山の頂きは良い眺めだろうね」

気持ちは既に山頂だ。

「もちろんよ。ディアボロ様の洞窟があるわ。綺麗よ。」

イシュタムやルチフェロ国の王族は必ず年に一度、破壊神ディアボロの巡礼をするので山に詳しい。

「ディアボロ?」

「そうよ、ディアボロ様が復活したらラファエロなんて、あっという間に悪魔に変えられてしまうわ!」

イシュタムはラファエロの前に立ちふさがりニヤリと維持悪く笑う。

「僕、悪魔になれるの?」

ラファエロは予想外に目をキラキラとさせて、イシュタムに抱きつき喜んだ。

「ディアボロ様復活しないかな?僕ね、悪魔になってもいいよ」

顔を擦りながら無邪気に笑うラファエロをイシュタムは不思議そうに見ている。

「そしたらさ、いつでも会いたい時に会えるし、ずっと一緒にいられるね。」

イシュタムの肩を掴むラファエロの手にぎゅっと力が入る。

「バカね。あんたが天使だって、ずっと一緒にいられるわよ。」

イシュタムが即答すると

「本当?」

ラファエロは思わず腕を伸ばしてイシュタムの顔を見る。

「本当だよ。一緒にいよう。」

イシュタムは笑っていた。

ラファエロは自分でも顔が赤くなったのがわかった。

パッとイシュタムから離れてフラフラと照れ隠しに歩くと、何か気がついたかのように振りかえる。

「そうだ!イシュタム。この前ね珍しい物を見つけたんだ。たぶんね、鳳凰の卵だよ。」


2人は更に少し大きくなると、お互いに話し出すのが恥ずかしくなっていた。

一時期は相手を徹底して無視した事もあったが、アンジェロ国とルチフェロ国の仲が悪くなるにつれて、会う機会も少なくなり、気恥ずかしい感情を抑えてお互い会える時に少しでも話すようになっていた。

「ラファエロ、今日もお茶会なの?」

イシュタムはラファエロの服装ですぐに分かる。

「最近、母上がたくさんのレディーと話せとうるさいんだ。」

ラファエロはイシュタムをチラチラと見ながら話す。

「ふーん、じゃ帰るわ。」

イシュタムがくるりと背を向け飛び去ろうとした時、ラファエロは思わず腕を掴んでしまう。

お互い顔を赤らめて見つめ合うと

「イ、イシュタムも茶会の招待状届いてない?」

ラファエロが声を上擦らせて言う。

「・・・届いてない」

イシュタムの答えにラファエロは驚く。

「え、ここ最近ずっと送っているんだ。一枚も届いてないの?」

2人はそこで話すのを止めた。

きっと招待状はどこかで握りつぶされている。

ラファエロはイシュタムの腕を握ったまま、切り出した。

「イ、イシュタム・・今度、昔のようにお忍びでモンテ・インフェルノに登らないか?」


ラファエロはモンテ・インフェルノの山を登っていた。

先程から心臓がバクバク激しく動いていて、落ち着かない。

イシュタムから珍しく手紙を受け取ったのだ。

山の頂上、神殿の前で待っている、と。

最近は両国とも開戦間近かと思われて、イシュタムに全く会えなかった。

「きちんと話そう・・」

ラファエロは決意した。

ここで失敗するば、情勢から見てもうイシュタムと会えなくなってしまう。

高鳴る鼓動を胸に、ラファエロは山頂へ到着した。

ディアボロを祭る神殿が静かに佇んでいる。

ラファエロは神殿へ向かう足を止め、冷静に辺りを見回した。

(5、6人はいるな・・手紙はフェイクか・・)

ラファエロの先程までの胸の高鳴りが一気にストンと引いた。

変わりに言い様のない怒りの感情が沸いてくる。

「話かあるんだろう?アスタルト!」

ラファエロは神殿の奥に潜む影に向かって叫んだ。

「おやおや残念だ。もうばれてしまったか。」

入り口から立派な角と黒い大きな羽を持つ、若い悪魔の青年が姿を現した。

それを合図に木陰から岩山から数人の悪魔も姿を現す。

「嘗められたものだな。僅か数人で私を捕まえられると思ったか?イシュタムはどこにいる?」

ラファエロは怒りを押さえてはいるが、彼の体から発せられる剣のように鋭いエネルギーが、悪魔達を恐怖に陥れた。

ゆっくりと神殿へ歩を進めても、周りはだれも体を動かせなくなったようで、見ているだけだ。

「イ、イシュタムなら、いまごろ婚約の儀の最中だろうよ。お前には関係がない!これからディアボロ様が復活されるのだからな!」

アスタルトの言葉にラファエロは歩くのを止めた。

イシュタムが婚約?

ラファエロは焦燥感にかられる。

「ディアボロが復活と言ったな?」

ラファエロはハッとして、アスタルトに尋ねた。

「ああ、ディアボロ様にお前の力を貰って頂こう!」

アスタルトの後ろから激しい炎が吹き出した。

地響きが鳴り、神殿が燃え盛る。

「は・や・く・・く・ち・に・・い・れ・ろ」

何処からかおぞましい声がした。

「ディアボロだな!」

ラファエロが叫び出した。

彼の顔が歪み、笑みが浮き上がった。

ラファエロの前に爆風をあげた大きな炎が溶岩を撒き散らし襲いかかる。

「私を悪魔にしてくれ!そうしたらこの力くれてやる!」

ラファエロは叫んだ!

「え!」

周りにいたアスタルトや悪魔達が聞き間違いかと驚く。

溶岩をふかせていたディアボロの動きも一瞬止まったが

「い・い・だ・ろ・う」

次の瞬間に炎から大きな口が開きだした。

「ディアボロ、約束だぞ!」

とラファエロは言って、炎の口の中へ自ら身を投げ入れた。

「ハーハッハッハッ!!!」

ディアボロの炎が神殿の倍以上に膨らみ、段々と人の形を司る。

「これは・・」

ラファエロは炎の中でキラキラと光る岩にしがみついていた。

体のこの高揚をなんて表せばよいのだろうか!彼は獲物を捉える瞬間に味わうかのような悦びを、高鳴りを、抑えきれなく顔が歪む。

もうすぐ血を変え悪魔になれる!!

炎に包まれたラファエロは笑っていた。

「いいぞ!いいぞ!」

ディアボロも喜んだ。

岩はラファエロの力をどんどん吸っていく。

天を突き刺すかのように、破壊神ディアボロが炎から姿を変え、大きな体を現した。

山を呑み込むかのような勢いだ。

「ディアボロさまー!」

周りにの悪魔達はもちろんのこと、離れた王宮からもディアボロの姿を確認できただろう。

「ウォーォーォー!!!」

ディアボロの歓喜の雄叫びが木霊する。

「ディアボロ、早く私を悪魔に変えろ!」

体の中でラファエロが叫んでいた。

「復活の褒美だ!」

ディアボロはラファエロがしがみつく岩をどんどん光らせて天使の力を奪うのだが

「ディアボロ、何も変わらないじゃないか!早く!時間がないのだ!」

ラファエロをどうしても悪魔に変えることができない。

そのうちにピリッと音がしたかと思うと岩に切れ目が走り割れだしてしまったのだ。

「何て化け物だ!お前なぞ悪魔になんかできるものか。このまま私に喰われるがいい!!」

ディアボロの返答は、岩にしがみついていたラファエロの押さえていた怒りの感情の栓をポーンと抜いたかのようだった。

「なんだと?だ・ま・し・た・なぁ!!」

ラファエロは怒りで、しがみついていた岩を叩き壊した。

「やめろ!やめろー!!」

岩に溜め込んだエネルギーがどんどんラファエロへ逆流していく。

「あああ、何故だ、何故だ、なぜだー!」

ディアボロの姿はまた炎に変わり、だんだんと小さくなっていった。

「ディアボロさまー!」

アスタルトや悪魔達の悲鳴が聞こえてくる。

神殿の前に岩の塊を握りしめたラファエロの姿が浮かび上がった。

彼は岩を見つめながら呆けた顔をしていた。

「どうすれば良かったんだ?」

神殿は先程の静けさを取り戻し、悪魔達はすぐに逃げ出したようだ。

ラファエロの後ろでこそこそ動く音がする。

彼が睨みをきかせると「カアー、カアー」と鳴いた。

「ふん、私を悪魔にできなければお前なんかに興味はない。」

ラファエロはその烏丸に言い放ったのだった。

ディアボロを倒し、ラファエロの名声は更に高まった。

開戦後もラファエロは様々な奇跡と言われる戦いに勝利し、今では聖君と名高い、押しも押されぬスーパースターだ。


「ディアボロの力核は、まるでイシュタムの心臓みたいだね」

ラファエロが後ろから甘く囁いてくる。

「放しなさいよ」

イシュタムはもがいてみても、ラファエロにきっちり抱かれていて身動きすらできない。

「綺麗だから、もう少しみておこうよ。君の髪を渡したらか、更に生きているかのような生気が人形にわいてきたんだ。驚いたよ。思わずね、抱きしめてしまった。」

ラファエロがうっとりと人形を見ていたかと思ったら

「名残惜しいが人形は封印しなければいけないね・・」

決意したかのように話すのだ。

「人形を封印?」

イシュタムは嫌な予感がした。

「君がラグエラとして私の側に来てくれたから、もう人形は必要ない・・」

ラファエロが言い終わる前に

「戻して!!戻しなさいよ悪魔に!」

イシュタムは叫んでいた。

呆気にとられたラファエロだったが

「駄目だ!それは出来ない!」

彼はイシュタムを抱く腕に更に力をいれて

「また離ればなれになってしまうよ、イシュタム!」

そう叫ぶのだった。

そこへ窓を突き破りトリマルが入ってきた。

「イシュタム、今助ける!」

ラファエロに襲いかかろうとしたのだが、

「あ、あー」

イシュタム人形から発せられるディアボロの岩の輝きに目の色が変わった。

「これこれこれー!!」

トリマルはイシュタム人形にそのまま突撃をする。

イシュタム人形は手足がバラバラに派手に飛び散った!

「とりまるー!」

イシュタムが叫ぶ声も聞こえないようだ。

「イシュタム、君を渡さない!」

ラファエロの言葉にハッとしたイシュタム、後ろを見ると彼の顔がやはり歪み笑っていたので

「いい加減にしろ!!」

イシュタムは全力で拳を突き上げラファエロの顔面を殴打した。

「わー、ごめんなさい」

本能的にしゃがみこむラファエロだったが、瞬時に思い直して顔を赤くしたまま

「私はもう大人だ」

とイシュタムの肩を抱く。

「ケェーッケェーッケェェー!!」

後ろで烏丸がどんどん大きくなっていく

「ラファエロ!こんなんじゃ天使になってもずっと一緒になんていれない!」

イシュタムはラファエロを突っぱね言い放つ。

「駄目だ、駄目だ!」

ラファエロが叫ぶ側で炎が上がった。

「良く聞いて!天使だから悪魔だから、そんな理由で別れなければならない世界がおかしいんだよ!」

イシュタムはラファエロに半分しがみつくかのように顔を近づけて

「どんな姿でも好きな人と一緒に暮らせるようにして!」

イシュタムの顔をラファエロは目を丸くして黙ってみている。

「戦争を終わらせてよ!聖君なんだろ!スーパースターだろ!」

イシュタムはラファエロに食らいつく勢いだ。

「ハーハッハッハッ!!」

その途端、王宮の窓が割れ壁ごと吹っ飛んだ。鳥丸の姿はそこになく、炎から大きな人影が浮かび上がってきた。

「え!ちょっトリマル!!」

「ハーハッハッハッ!!!」

どんどん炎は燃え上がり中から溶岩が上がる!炎は空へ飛び出した。

「た、大変だあ!!」

追いかけようとするイシュタムをラファエロが止めた。

「おい!ラファエロ!」

イシュタムが振り替えるや否やラファエロはとても真剣な顔で

「戦いを終わらせる。絶対に迎えに行くから・・」

イシュタムを引き寄せて唇を奪った、そしてあっという間にラファエロは外へ飛び出した。

「ら、ラファエロ・・・」

腰を抜かして座るイシュタムの影には華奢な角の影が伸びる。


空を沸騰させる勢いでトリマルは炎と化した。

筋肉質な炎の人影は益々巨大化し、溶岩を力任せに飛ばしている。

「ラファエロさまー!」

サジェッサが物凄いスピードで飛んで来る。

「破壊神ディアボロが復活します!」

少し遅れてイスラも後を追ってきた。

「王宮に火の手が上がらぬように!」

ラファエロはその言葉だけ言い残すと、物凄いスピードで炎に向かっていく。

「な、何をする気ですか!!」

サジェッサが止めるのも間に合わない。

「光る雷のようだ・・」

イスラがラファエロの跡を見つめながら言った。


「ハーハッハッハッ!!」

ディアボロが炎を巻き上げながら高笑いする中、ラファエロは迷わずその口の中に飛び込んだ。

「なっ、またお前か!」

ディアボロは体をよじるように暴れながらラファエロを吐き出そうとするのだが、

炎に包まれてもラファエロはディアボロの力核まで進みを止めない。

「これか!」

ディアボロの体内には大きく巨大化した、キラキラと美しく光る岩ができていた。

中から溢れるばかりに力が充満している。

「やめろ、ラファエロ!今度は壊させない!」

叫ぶディアボロは力を入れた。

キラキラ光る岩に炎の牙が生え、ラファエロに切りかかる。

ラファエロは素早く牙を避けながら岩の中心部に近づく。

「やめろ!やめろー!!」

ディアボロの叫びに呼応するかのように、炎が上がる。

「さよなら、ディアボロ!」

ラファエロは岩の中心一点だけ目掛けて、剣を突き立てた。

「ギィャャャーー」

凄まじい叫び声が空に響き渡る。

閃光が地を埋め尽くした。


イシュタムは爆風と目映い光りに包まれて立って入られない程だった。

なんとか堪えながら空を見ると

「あ!」

美しい白い羽を大きく羽ばたかせて、愛しい人が飛んでくる。

優しく力強く笑いながら、手を振ってこちらに向かってくる。

イシュタムは不安な気持ちもすっかり消えて、手を振り返した。

かなり後ろから烏丸もこちらに飛んでくるのを見た。

「ははは」

思わず笑い声が出た。


イシュタムは思うのだった。

彼が自分の前に降りてきたら、今度は絶対に離さないように、抱きついてやろうと。



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