ようじょ街を救う
幼女無双です(白目)
「カン! カン! カン!……」
早鐘とラッパの音に叩き起こされたぼく。
あのまま、ゴンゾたちが宿に連れて来てミリアさんと一緒のベッドで寝てたみたい。
ゴンゾたちは既に鎧とかを身に着け、ぼくを起こそうとしてたトコだったみたい。
「モンスターの大暴走だ、俺たちは城壁に向かって防衛の手助けをしなきゃいけない」
すっかりぼくを置いて行く気の様だが、部屋に籠ってるトコにモンスターの集団に押しかけられるとまず間違いなく数の暴力に負ける。
ぼくの場合、雑魚多数より強敵一体の方が楽だ。
ゴンゾたちと一緒に城壁に行って防衛戦に手を貸した方が生存率は高いと思う。
「ぼくもいく!」
「危ないから、ここで待ってて欲しいなぁ」
リシティアさんが心配そうな顔をしながら頭を撫でて来る。
「万が一、モンスターが入り込んで、ここに押し寄せたら、ぼくじゃ絶対に助からない。近くに寄られたらゴブリンにも敵わない。広い場所で戦った方がマシ!」
「一番、内側の城壁内ならともかく、一番外のココはモンスターが入り込む可能性は確かにあるけど……」
「おしよせてるモンスター、ドラゴンよりはよわいでしょ? ならちかくでかこまれなきゃかてる!」
「分かった、ナンちゃんは私が守る。どうせ私は回復と補助メインで直接矢面に立ってもあまり役に立たないから」
ミリアさんがぼくを抱きかかえ、ゴンゾたちが諦めた様に口元を歪める。
目線で意思を確認し合うと部屋を出て走り出す。
一つでも内側の城壁内へと避難しようとする一般住民と、城壁へと向かう冒険者や兵士。
元・冒険者や猟師など冒険者や兵士以外にも戦うことが出来る者は武器を手に城壁へと向かっている。
「俺らはどこに手を貸せばいい!?」
ゴンゾが顔見知りらしい兵士に声をかけている。
ぼくがゴンゾたちと一緒に辿り着いた担当箇所、煌々と篝火がたかれ、束ねられた矢や油の入った樽などが転がっている。
幅は広いが人も多い。
ミリアが抱きかかえてくれているからいいものの、自分の足で地面に立ってたら、気付かれずに蹴飛ばされかねない。
「……くさい」
モンスターの存在は視覚でも聴覚でも無く、嗅覚で実感された。
獣臭さを濃縮した様な臭い。
おそらくはこちらが風下なのだろうが、それにしても酷い臭いだ。
「すぐ下まで押し寄せてやがんな。後ろは明かりの届く範囲までびっしりだ。こりゃ、これまでで最大規模の暴走だぞ?」
「矢よりデカい石とかの方がいいかもな? 下の連中に声かけて滑車組めるようなら組んじまえ!」
「篭か網に石詰めて上まで引っ張り上げろ!」
「鍋はかき集めたか? 今有る鍋から油をあっため始めろ!」
「火は絶やすなよ!? 弓持ってる奴はボロに油着けて火矢撃っとけ、多少は下の様子が見える!」
慌ただしくみんなが動いてる。
会話は全部怒鳴り声だ。
こういう状況じゃなきゃビビッて涙目になってたかもしれない。
「(ぼくも冷静じゃないのかもしれない…でも、頑張る!)おろして、ミサイルうつ!」
ミリアに下ろしてもらい、アイテムボックス内にこれまで貯めておいた小石を次々とミサイルにして撃ち込む。
爆発ごとに数匹が吹っ飛んでるけど、全然数が減らない。
手が8本くらい欲しい。
足りない、これじゃ早さが足りない。
出す、撃つ、出す、撃つ、出す、撃つ、向きを変えてまた撃つ。
まだだ、まだ足りない。
石が無くなった。
何か撃つもの、撃たなきゃ。
アイテムボックスから、ドラゴンのウロコ、ドラゴンの肉、ドラゴンの骨、手当たり次第に取り出しては撃つ。
石より大きな爆発が連続する。
勿体ないとか考えてる余裕なんてない。
まだまだモンスターはいっぱい居る。
あ、ぼくのスプーン……。
「いっけぇ~!!!!!」
思い切り遠くへミサイルにして放つ。
デッカイモンスターが吹っ飛んだ。
愛用の丼、ミサイルにして飛ばした。
顔や手を洗うのに良く使ったんだ。
これまた大きなモンスターが吹っ飛んだ。
爆発でシルエットが見えるのだ。
後ろからぎゅっと抱きしめられた。
ミリアさん?
ダメだよ、もっとぼくはミサイル撃たないと!
「ココがヤバイと見てモンスターたちが城壁の他の部分に回り始めた。俺らはこっち回りで行くから、ゴンゾたちは逆回りで頼む」
「お、おう。ちょろっと弓を射たり石落したくらいしかまだしてねえんだけどな。ここは平気そうだな」
「これが終わったら、嬢ちゃんになんかうまいもん食わせてやれよ?」
「当たり前だ、バカ! ナンゾ、大丈夫か? 眠かったら宿戻って寝てていいぞ、お前のおかげで助かった」
「いっぱいねたからだいじょうぶ。それよりモンスター倒さないと!」
ゴンゾが泣きそうな笑顔を浮かべた。
「よし、行くぞ!」
ぼくはまたミリアに抱き抱えられた。
城壁上をゴンゾたちは走る。
向かう先から怒鳴り声や鼓舞する声が聞こえる。
モンスターの咆哮や悲鳴も聞こえる。
人間の悲鳴は少ないが、それでもたまに悲痛な声が聞こえる。
戦える人は大勢いる。
それでもモンスターは遥かに多い。
城門より大きなモンスターさえ居る。
城壁上に牙や爪が届くのだ。
空を飛んでいるモンスターは居ない。
この辺に居ないだけなのか、それとも全く居ないのか?
矢や石だけでなく魔法も飛んでる。
だけどモンスターの中にも火を噴いたり、毒なのか酸なのか液体を吹きかけてくる奴も居る。
そうして辿り着いた先は、ぼくたちが少し前に入って来た城門。
上から見るとこんなだったんだ、なんて感想は門の外を見て吹っ飛んだ。
巨大なモンスターが頭を突っ込んで死んでいる。
その傍には何人もの兵士の死体。
モンスターの中にはそうした兵士の死体を食っているものさえ居る。
「一番外側の扉が破られた。幸い、首を突っ込んだ形で殺せたんで、その先に大きなモンスターは入り込んで無いが、ゴブとか小柄なモンスターが入っちまってる。二番目は格子戸だから三番目、一番内側の扉のすぐ外に来てる奴も居る。土や瓦礫を盛ってもらってるが、このままじゃ小さなモンスターが中に入り込むかもしれない」
「まじいな、間に降りる梯子とかは無いのか?」
「あのデカブツが突っ込んで来た時に潰れちまった!」
けっこうヤバいみたい。
大きなモンスターは入れないけど、ゴブリンやウルフサイズのモンスターが扉一枚隔てた向こうまで来てる。
そんなサイズでも一般人には脅威だし、群れれば冒険者や兵士たちでも危ない。
「くそっ、どこのバカだ、豆なんかこんなトコに大量に持ち込んだ奴は!」
「(豆?)まめちょうだい! これでかつる!」
「え、どうしたの? ナンちゃん」
「下ろして! まめ、ぜんぶミサイルにする! たたかいはかずだよ、あにき!」
「兄貴って誰よ!?」
沢山の袋、中身は全部、豆。
これすなわち、無数の弾薬である!
袋に手を突っ込んで握りしめた豆、全部ミサイルにして飛ばす。
握る、飛ばす、掴んでばら撒く。
吹っ飛ぶモンスター、大型のものも体のアチコチ吹き飛んで満身創痍だ。
「おには~そと~!」
豆はいいよね、この小さな手でもいっぱい持てる!
「ミリア、ナンゾは頼んだ。俺とダークは下に行って、扉が破られた時に食い止める」
「私はこっちに残って、万が一城壁に上がってくる奴に備えとく」
ゴンゾたちが城壁を下り、リシティアが弓に矢をつがえてぼくらの傍に立つ。
「ミリア、マメがふくろにはいってるとてがとどかない、そのへんになかみぶちまけて!」
「お? なんだ嬢ちゃん、もしかして豆でモンスターたおしてんのか?」
「そうよ、ナンちゃんは凄いんだから!」
「……なるほどな。おう、その辺のぼさっとしてる役立たずども、ここの袋の中身全部ぶちまけて山にしろ!」
「えぇ? なんすか?」
「いいからさっさと動け!」
ぼくの周りに豆の山が出来ていく。
完璧だ!
こんだけあれば後10年は戦えるな!
両手にそれぞれ目いっぱい豆を掴んだ。
「おにはぁ~そとぉ~っ!!!」
掬った豆をすべてミサイルに。
遠くに、近くに、右に、左に、真ん中に。
モンスターが、飛ぶ、弾ける、ちぎれ飛ぶ、そして崩れ落ちる。
生きているモンスターも死んでいるモンスターも分け隔てなくミサイルが吹っ飛ばす。
後から聞いた話ではこのミサイル爆撃を逃れようとしたモンスターが、最後の扉を死に物狂いで破ろうとしたため、最終的には最後の扉も破られてしまい、ゴンゾたちが大暴れすることになったそうだ。
ともあれ、空も白みかかり、豆も地べたから掬い取らなきゃいけなくなった頃、街に押し寄せようとしていたモンスターの勢いは止まり、数少ない生き残りは散り散りにどこかへ去って行ったそうだ。
「やったぁ~!」
両手を突き上げガッツポーズ。
昇る朝日に何故か涙がこぼれる。
突き上げた勢いのまま、後ろに倒れそうになったぼくをミリアとリシティアが支え、抱きしめてくれる。
両手に花だね。
自分が盛大にやらかした事にも気付かず、ぼくは満足感のまま意識を手放したのだった。
前回、ゴチャゴチャ考えてましたが、こんな事やらかしたんで、好きに生きるのは不可能になりました……
脅威度判定が出来ないんで、全力オーバーキルにならざるを得ないのです
そこまでしなくても何とかなったのに、勝手に切羽詰まって金目の物すら失ってます