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川に架かる橋

作者: あれん。


君には何処か影があって、少しぎこちない笑顔を見せる。

よく分からないけど、その笑顔を見ていると不安な気持ちになる。。


好きなんだろうか?

まるでピンとこないけど、、。

姿を追い掛けながら自分に問いかける。

同じ校舎の同じ階だったけど、端と端。

登下校で教室前を通るくらい。

 

いつ君の ぎこちない笑顔を見つけたのだろう。


放課後は新校舎上階角の理科室が私の居場所。

ちょっとした特権。

ほぼボッチな優等生(残念な人)

ここからは第2グランドが見渡せる。

概ねサッカー部が独占。

当たり世代。

成績もルックスも目立つ面子が揃っているらしく、試合ともなると女子の声が凄すぎてうるさいほど。


「暑い中お疲れ様〜」

上階からコーヒーなど片手に観戦。

「!?」

あぁ成る程。

君もサッカー部の人だったのか。


「あのさぁ」

進学してから出来た貴重な友人に話てみる。

「好きってこと?」

「未だ分からない」

「あれの笑顔ねぇ、、前から変わらないと思うけどなぁ」

「・・・ん?!」

「幼馴染だよ。親同士も同級生」


そんなわけで、知らなかった色々な情報?を知る事になった。


気が付いてからはグランドに君を探すようにはなってる。

やっぱり私には微妙な笑顔に見える。

・・・・私の視力すごいなぁ・・どうでもいい事も思いつつ。


よく分からない(気持ち)を抱えたまま、梅が香る頃になり「好き」という結論に至った。


「チョコを贈るというのは唐突すぎるだろうか?」

多分埋もれてしまうと思うけど、沢山の中に私も居ますという意識表示(参戦表明)


友人宅ではいつも応接間で過ごしているので、御両親も普通に会話に参加していることがある。

「おばさんは自宅に届けるといいと思うわ」

「住所知りませんし、、」

「おばさん知ってるわよ」

「ん?」

「うちからは遠いけど、貴女のおうちからなら行けるんじゃないかしら」


検索してみると、一般道で行くと結構な距離だけど、河川敷を行けば1時間はかからない。

「行けるね」


川に架かる橋は、この辺りで一番大きく長い。

何か違う?かも。

そんな気持ちももちつつ2月の河川敷を歩いた。

河川敷をずっと進んで、赤い屋根が目印。


下流に向かい砂利道を歩く。

見慣れた川も様相が変わる。

「静かだなぁ」

私の家の近くは川の音が大きいみたい。

川幅の違い?

こっちの方が深そう。


もっと疲れるかなと思ったけど案外平気。

さて、ここからどうやったら降りられるか、、

最短とは行かなそうな斜面だけど、なんとかなる、、多分。

勢いだけでココまで来たし一気に行く!


「ルート選択は重要です」

感想です。


玄関の前に立ち呼鈴を鳴らす。

ここで気付く、在宅してるのだろうか、、、。


パッと開いたドアの向こう、、

多分お母さん。

「こんにちは、、、あの、、」

「どうぞ上がって〜」

「・・・はぁ」

「息子もう少しで帰宅するから少し待っててね」

「・・・えーと、、」

「初めてなのよ。息子にチョコ持って来てくれた子」

「・・・・」

「あっ、ごめんね聞いてるから知ってたの」

友人の母様から先に情報が来ていて、知っていると

「あ、息子は知らないから大丈夫よ!」

何が大丈夫なんだろう?

と言うか、、、何故に部屋に通されてるんだろう、、、いやいや、家に入ってることがおかしくはないか?


普通にパニックです。

はい、深呼吸。

どうする?

どうする?

どうにもなりません。。


正座のままパニック続行中。

グルグルしたまま、目の前に落ちていたシャツなどたたみ出す位にパニック。

やっぱり無理!

立ち上がろうとして痺れた足が言う事をきかず、、ベッドにダイブ。


なんで来ちゃったんだろう、、、

涙が出そう。

ズルズルと床に降りて痺れた足を叩く。


チョコだけ置いて帰ろう。

謝る機会があるとは思えないけど、、


カチャ。


振り返ると君が居ました。

「お、お帰りなさい」

「あ、ただいま」

「・・・・」

「・・・・」

「じゃなくて、初めまして」

「初めましてだけど知ってるよ」

色々がおかしいけど、ドア前に君が居て、その向こうにお母様が居て、、退路がありません。。。


「あいつと一緒にいるでしょ」

「幼馴染だよね」

「そう、あいつが誰かといるの珍しいから誰?的に。あと、理科室から見てたでしょ」

こっちから見えれば、向こうからもですね、、、

「ごめんね、、」

「なんで?」

「なんか色々、、」

「まぁアリなんじゃない」

へ?

「お袋が待ってるし向こう(リビング)行こか」


正面に君が居て。

隣にお母様が居る。

何この状況??

「渡したの?」

コソッとお母様。

いや、ですからどうなんでしょう、、

もう流れにのる?

「ほんと色々アレだけど、、ごめんね、捨ててくれていいから、、」

もうね、いっぱいいっぱい。

泣くのだけは避けたい。


カサカサ、、。


「あら美味しい」

「美味いじゃん」


無理でした、、

ポロポロ泣いてました。


「おばさんもケーキを焼いたの。一緒に食べていってね」


無茶苦茶。

人って線超えたらハイだよね。


「美味しい!」

「ありがと」

「スポンジ上手く焼けないんですよね、、」

「ねぇ、コツ教えてあげるから、また来週おいでなさいな」

「!?」

「時間あるなら来てもらえると有難いかもだな」


おば様同士に仕組まれたなんとか状態、、


「今日はありがとうございました」

「また来週ね」

「・・・はい」


よく分からないまま外に出る。

あー、帰り道聞き忘れた。。

「ちょい待ち!橋まで送るよ」


「・・・土手降りたの?」

「そう・・・」

「やるねー」

恥ずかしい。

少し手前に降りられるとこがあったのだ。。

全然気が付かなかった。


「来週いいのかなぁ?」

「お袋が来いって言ってんだしいいんじゃない」

君的にはどうなのとは聞けず、、、。

日が落ち出して朱色の空の下、川のサラサラという音が気持ちいい。


並んで歩いてみると思ってたより背が高い。

「なに?」

「あ、、えと、ほんと色々ごめん」

「うち来んの大変だったろ?」

「そうでもなかったよ」

何を話したかよく覚えてない。

初めましてのわりに色々話せたとは思う。


「んじゃま、また週末」

「うん」

背中を向けて手を振る君を見送りながら、その前に学校で会うと思うけど、、


「母から聞いたぞー」

なんて具合で報告するまでもなく筒抜け。

「付き合うの?」

「・・・どうなんだろ」


結局、校内ですれ違うこともなく週末となった。


「こんにちは〜」

「開いてるからどうぞ〜」

えーといいのか?

「息子部活だから居ない間に作ろうね」

「あ、、はぁ」

さながら料理教室。

うちの母親とはだいぶ違うなぁ、、。

小料理屋を営む母は、料理を教えてくれることはない。


「んー、分かったわ」

しばらく作業を進めたところで止められる。

「お菓子は計量が重要だと思うのね」

言われてみると、色々道具が出されてるのに、私が使ってるのは大さじ小さじくらい。

「普段、計量しないでしょ」

経験で料理をする母には量りとかカップを使う習慣がなく、家にも器具はない。

「もう一度、全部計量しながら焼いてみようか」


・・・あーー、、、

面倒くさい。

なんて言ったらいけないけど、ここまで細かく計量するものなのかと驚く。 

が、、、

あれほど苦戦していた物が、あっさりと理想的に仕上がった。

「感動しちゃいますね」


ピンポーン。


「あ、玄関あけてもらえるかしら」

「あ、はい」


ん?

私が応対していいのか?


「今開けますね」

「おっ、来てたんか」

「あっ、お帰りなさい」

「ただいま」


・・・つい言ってしまった、、。


3人でケーキを食べつつ、昔話やアルバムを見たり。

「それ言っちゃダメなやつじゃん!」


家だと自然な笑顔。

無口なタイプだと思っていたけど、そんなことはなく。


河川敷を送ってもらう間も、今週の出来事報告会。

あっと言う間に橋の袂。


「じゃ、また来週な」

「うん」


また来週というのは本当にその通りで、校内で出会う事はなく。

グランドを走る姿を見ている。


ビーカーでコーヒーはやめなさいと書かれた張り紙。

あ、バレちゃった。

ここは私の保健室のようなとこ。

うまく笑えないのは私も同じ。。



あれから半年程。  

何度か噂にはなったけど、、、

料理教室の先生の息子さん。

そんな説明があっさり通じてしまう。

付き合っている。

そんな雰囲気は全くないから。


「いつも送ってくれてありがとう」

「いや、お袋楽しそうで助かるよ」


通い続けることで知ってしまうことがある。

歳の離れた兄姉とは別々で暮らしている事。

お父さんは、、、ほとんど帰ってこない事。。。

子供なりに悟ってしまう。

家族関係が複雑なんだと。


なんでもいいや。

一緒に居られる時間は本物なんだし。


『お袋の生徒だよ』

そう君が口にしているのを実際に耳にして、もっと痛かったり、辛くなるかもって思ったけど、、、

「私が彼女にみえるの?」

君の取り巻きさん達に平然と言える。


嘘を付いてるつもりはない。

チョコは渡したけど、告白したわけではなく。

互いに好きだ嫌いだの話をしたことはない。


「もっかい告白したらどう?」

もっともなアドバイス。

「そうなんだけど、、多分、、告白しちゃったら終わりな気がするんだよね」



カボチャのプリンを作る予定。

庭に見慣れない車。

土手を降りようとしたら君が居て、

「材料が足りないから買出し頼まれた。一緒に行こう」

それきり無言の君を追いかけた。


1時間程して戻ると車はなく、

いつものように整えられたキッチンで準備を始める。


出来上がったものを何時ものように食べ「また来週」

何時もと同じで何時と違うものを感じつつ土手を歩く。

「あのさぁ」

「ん?」

「今日はありがとな」

「ん?」

「俺とお袋だけだとちょっとな」

何?と聞くことが出来ず

「プリン美味しかったね」

「だな」

笑顔を見せてくれた。

「君がね、好き」

「ん、、知ってる」

「ごめんね」

「いや、嬉しいよ」

初めて手を繋いだ。

大きくて温かい手だった。


橋の袂

「けど、付き合うとかは出来ない」

「そか、、」

「また来週来れるか?」

「来るよ!」

「ん、じゃな」

振り返れなかった。

砂利を踏む音が消えるのを待って、大粒の涙を砂利に落とした。


泣きながら帰宅。

出迎えてくれた母は何も言わず抱き締めてくれた。


君は優しい。

家に連絡を入れてくれていた。

「たぶん、泣かせてしまったので」と。


登校すると友人が飛びついて来て、、

「あいつ絶対アホだ」

お怒りだった。


今週も出会う事なく週末となり、少しだけ重い足で土手を歩く。

敷地から先週見た車が出て行くところで、すれ違いに見た運転席の人が君のお父さんだと直ぐに分かった。


「少し俺の部屋で待っててくれるか」

「うん」


リビングを通らなくても部屋に行けることは最近知った。


カチャ。


「悪いな、お袋は寝かせて来たよ」

「大丈夫?」

「今日は無理だと思う」

「それはどうでも、、、」


「アレ、俺の父親」

「・・・」

「結構な大恋愛で駆け落ち状態だったんだと」

「・・・」

「今、外に女いるんだよ」


膝を抱えて座り込む君は、悲しい笑顔で泣くのを堪えているようだった。

「泣いちゃえばいいよ」

「お前が泣いてる」

「そんな笑顔は見たくないもの」

「俺さ、お前が好きだよ」

「知ってる」

「だよなぁ、、けど、自信ない」


「仲良かったんだよ

家族みんな

一番上が就職で家出た頃からかな

たまに帰ってくる親父に手料理用意するわけ、全然食べないんだ、、

結構前から外に居たんだよ

俺が成人するまでは離婚はしないってお袋は言うわけさ

後何年だよなぁ、、、

好きって何だろな

明日も同じか自信ないんだよ。。。」


「そんなの皆んな同じじゃない?

理想と何とかでしょ

今日も好き、今日も好き

それが続いて結果永遠

毎日、毎朝好きって言えたら理想

とか、思ってます」


「お前さぁ、、、中身何才よ?」

「んーー」

「好きだよ」

ゼロ距離で額を付けてポロポロ泣いた。

「一緒にいてくれな」


手を繋ぎながら土手を歩く。

「何食べたい?」

「お菓子以外だな」

「実は苦手?」

「甘過ぎるのはなぁ、、」

重い空気は消えて笑いながら橋まで歩いた。

「じゃぁ、明日な」

「うん。明日ね」


でも、

明日という言葉が叶う事はなかった。


深夜突然の電話

母と一緒に急いで病院に。


両頬に手を当て言葉を飲み込む。


あの後、目を覚ましたお母さんと口論になり家具に頭を。

深夜苦しみ出し搬送されたものの、、、

あぁ、だから誰も居ないのか。



理科室から外を見る。

君は居ない。


一緒に歩いた河川敷。

温かな手と、君の笑顔を思い出し

鏡を覗きながら笑顔を作る。

この部屋を出たら笑わなきゃ。

ぎこちなくても笑顔(優等生)でいなきゃ。


やっと好きって言えたのにな。。


読了ありがとうございます。

LINEとかない頃って、もどかしいですね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が読みやすく、最後まで楽しませて貰いました。全てが良いことばかりではありませんが、淡々と綴られる優しい世界に好感が持てました。
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