2:町田は坂が多い街だと聞いていた
「よっ、お待たせ」
ふと気づくと、彼が机の横に立って、無邪気な笑みをみせていた。
古着屋でとってもリーズナブルに買ったと以前自慢してくれた黒いジャケットに、白と黒の縞模様のニットマフラーが映えている。
「悪いな、ちょっと遅れた」
腕時計で時間を確かめる。
「律儀なやつだな、三分くらい遅刻にならないって」
僕は彼に席を勧めて、メニュー表を彼の前で広げた。
彼は何も言わずにポンと、青いマイセンと僕が普段吸っていた金マルを机に置いた。
「なんでも食っていいから。鮭いくらご飯でもいいし」
「んー、実はさっき食べたばっかりなんだ。ドリンクバーだけでいいや」
彼はウェイトレスを呼び、ドリンクバーを注文すると、『取ってくる』と言って席を立った。
前に会った時よりも、いくらか頬がこけている。
未だ苦労しているんだろうなと思いながら、僕は金マルのフィルムを剥がし、一本取って火をつけ、ふぅと黄ばんだ天井に向けて煙を吐き出した。
町田は坂が多い街だと聞いていた。
実際、車を運転している僕はその起伏の多さに驚愕の感を否めなかった。
助手席に座った彼女は、嬉しそうにはしゃぎながら、チーズ味のじゃがりこをポリポリとかじっていた。
時たま『はいっ』とかわいらしい声をあげながら、運転している僕にじゃがりこを咥えさせてくれた。
初めての経験だった。
だから、たったそれくらいの些細なことで、僕の心は揺らいでしまう。
その仕草が可愛くて。
そもそも、彼女のようなタイプの人間と付き合うこと自体が初だった。
簡単に言えば、渋谷の109にいそうな、ギャル系の女の子。
ガングロではなかったが、髪は茶色で巻いており、紫のTシャツに白いジャケットを着るのが好きな子だった。
僕はと言えば、シュリセルの黒いロングTシャツに黒いジーパン、黒いトレンチコートと単に黒一色でコーディネートしただけの格好。
マクドナルドで3時間も話したり、クラブで朝まで踊ったり、そんな生活とはまったく無縁。
どちらかといえば無口だし、話す内容と言えば太宰だの芥川だのといった文学作品についてか、Dir en greyやJanne Da Arcのようなヴィジュアル系音楽の話ばかりだった。
どうしてそんな子が僕と付き合うようになったのか、僕は未だに分からない。
興味があったのだろうか、それとも根本的に、何か惹かれるものがあったのだろうか。




