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卑怯な温もり  作者: 久遠寺蒼
リエとの出会い
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3/25

2:町田は坂が多い街だと聞いていた

「よっ、お待たせ」

 ふと気づくと、彼が机の横に立って、無邪気な笑みをみせていた。

 古着屋でとってもリーズナブルに買ったと以前自慢してくれた黒いジャケットに、白と黒の縞模様のニットマフラーが映えている。

「悪いな、ちょっと遅れた」

 腕時計で時間を確かめる。

「律儀なやつだな、三分くらい遅刻にならないって」

 僕は彼に席を勧めて、メニュー表を彼の前で広げた。

 彼は何も言わずにポンと、青いマイセンと僕が普段吸っていた金マルを机に置いた。

「なんでも食っていいから。鮭いくらご飯でもいいし」

「んー、実はさっき食べたばっかりなんだ。ドリンクバーだけでいいや」

 彼はウェイトレスを呼び、ドリンクバーを注文すると、『取ってくる』と言って席を立った。

 前に会った時よりも、いくらか頬がこけている。

 未だ苦労しているんだろうなと思いながら、僕は金マルのフィルムを剥がし、一本取って火をつけ、ふぅと黄ばんだ天井に向けて煙を吐き出した。



 町田は坂が多い街だと聞いていた。

 実際、車を運転している僕はその起伏の多さに驚愕の感を否めなかった。

 助手席に座った彼女は、嬉しそうにはしゃぎながら、チーズ味のじゃがりこをポリポリとかじっていた。

 時たま『はいっ』とかわいらしい声をあげながら、運転している僕にじゃがりこを咥えさせてくれた。

 初めての経験だった。

 だから、たったそれくらいの些細なことで、僕の心は揺らいでしまう。

 その仕草が可愛くて。

 そもそも、彼女のようなタイプの人間と付き合うこと自体が初だった。

 簡単に言えば、渋谷の109にいそうな、ギャル系の女の子。

 ガングロではなかったが、髪は茶色で巻いており、紫のTシャツに白いジャケットを着るのが好きな子だった。

 僕はと言えば、シュリセルの黒いロングTシャツに黒いジーパン、黒いトレンチコートと単に黒一色でコーディネートしただけの格好。

 マクドナルドで3時間も話したり、クラブで朝まで踊ったり、そんな生活とはまったく無縁。

 どちらかといえば無口だし、話す内容と言えば太宰だの芥川だのといった文学作品についてか、Dir en greyやJanne Da Arcのようなヴィジュアル系音楽の話ばかりだった。

 どうしてそんな子が僕と付き合うようになったのか、僕は未だに分からない。

 興味があったのだろうか、それとも根本的に、何か惹かれるものがあったのだろうか。

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