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卑怯な温もり  作者: 久遠寺蒼
ユリ
17/25

16:ヘビースモーカーだな、うちら

「そういう風に告白したんか」

「ロマンチストだって言いたいんだろ?」

「いや、そうでもない。むしろワッカらしいと言えばワッカらしいんじゃないか?」

 ホタルはそう言って、笑った。

 グラスに残るホワイトウォーターは、残りわずかとなっていた。

 隣にいたギャルたちもいなくなっており、あたりには煙草の臭いがほんのりと漂っていた。

 僕はLUCKYSTRIKEに火をつけ、ホタルもマイセンに火をつける。

「しかしまあ、そんなことが実際にあるもんなんだな」

「自分でもびっくりしている」

 おどけてみせたが、意味はない。

「んで、リエちゃんって子とはいつ付き合いだしたのさ?」

「ユリにふられた三日後だよ」

 ぶっと、ホタルはふきだし、数度むせると目をかっ開いて僕の顔を見つめた。

「それって、マジな話?」

「うん、マジ」

 冗談じゃないと分かると、ホタルはどこかいたたまれないような、神妙な面持ちになって、天井に向けて煙を勢いよく吐き出した。

「信じられない。本当にお前ワッカか?」

「残念ながら、正真正銘本物だよ」

 僕はゆっくりとLUCKYSTRIKEの煙を口から出して、灰皿に煙草を押しつけた。

「へえ……その場の空気に流されたのか?」

「そうかもしれない」

 僕が呟くと、座っているシートから微動を感じた。

 携帯電話のバイブが鳴っているのだ。

「ん、携帯? 誰からだ?」

「たぶんリエだろう」

 サブディスプレイを見ると、『着信中 桜井梨絵』と出ていた。

「出なくていいのか?」

「出れるはずもない」

 やがてバイブが止み、僕は携帯を開いて、着信履歴を見た。

 リエからの着信が、十件にものぼっている。

「別れたっていうのに、ずいぶんと電話が来るんだな」

「まあ、喧嘩別れみたいなもんだし」

「喧嘩別れ? だったらなんていうか、もう二度と電話もメールもしないって感じになるんじゃない?」

「そうだな……まあ、ストレートに言っちゃうと、僕が一方的にリエをふったって感じだから」

 はぁ、とホタルは気の抜けたコーラのような返事をして、灰皿でマイセンの火を消した。

 もう灰皿はいっぱいになっている。

「吸殻増えるの早いな」

「ヘビースモーカーだな、うちら」

 軽く二人で笑うと、再び携帯のバイブが鳴った。

 今度はメールのようだ。

「リエちゃんからのメール?」

「……どうだろ」

 メールは二件きていた。

 一件は所属しているサークルのメーリス、もう一件はリエからだった。

「読んでみろよ」

「んー、いいよ。『今でも信じられないんだけど。どうして私のことを好きになったの? 私のことをかわいいって言ったの? 私、来週誕生日なんだよ? もうどうしたらいいか分かんないよ……』って書いてある」

「うわ、聞いてるこっちが痛くなってきた」

 ホタルはそう言って、笑った。

 たぶん笑うしかなかったんだと思う。

 僕もホタルにそんなメールがきたら笑いとばしていたかもしれない。

 パタンと大きな音を立てて、僕は携帯を閉じてポケットにしまった。

「リエちゃんに返信、してやれよ」

「……今はまだ返信する気になれないな」

「ダメだって。ふったんだろ? 最後まで責任とれよ」

 ホタルは僕に顎で促しながら、言った。

 責任。

 少し的外れで、しかし僕がリエに対して真摯な姿勢で彼女の想いに応えなくてはいけないのは確かだと思った。

「オッケー、分かった。今から返信する」

 ポケットにしまった携帯を取り出して、僕はリエへ返信を送った。

 ディスプレイの光が、幾分、眩しかった。

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