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卑怯な温もり  作者: 久遠寺蒼
ユリ
14/25

13:――あのさ

 何気ない会話も一区切りしたところで、奥の広場に到着した。

 がらんとひらけたその空間には、猫一匹すらおらず、静涼とした雰囲気が佇んでいた。

 着いた途端に、無言になった。

 どう切り出したらいいのか分からないといった感じ。

 僕の方も、なんて言えばいいのか分からなくなっていた。

 言葉に詰まる。

 見つからない。

 僕はどうしてこの場所にきたのか、その当初の目的すら見失いそうになる。

 昨日の決意がぶれそうになる。

 そう、きっとこのままでもいいんだと思う。

 むしろこのままでいた方が、少なくとも今は楽になれる。

 変な緊張をしなくてもいい。

 笑ってごまかして、またいつか会おうと言えばそれでいい。

 それで終わる。

 ……逃げたらいけない。

 きっと逃げてはいけないんだと思う。

 それは誰からでもない、自分自身からでもない、ニーチェからでもなければユリからでもない。

 言葉は用意してきた。

 ユリが公園に来る直前まで、僕は確かに胸の内で反芻していたのだ。

 あとはその言葉を口にするだけ。

 言葉が返ってきたら、そこからまた考えればいい。

 結果は分かっている。

 きっとそうなる。

 ただ、それを口にするだけの準備が、今の僕に備わっているだろうか、と怖くなった。

 取り乱したりしないだろうか。

 思ったとおりにいくだろうか。

 おかしな話ではある。

 ふられることを望み、ふられるために準備をし、ふられることを切に願っている。




『…………』

『………』

 お互い顔は見ずに、同じ茂みの向こうをただ眺める。

 二人はどうして、この場所にいるのだろう。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。

 僕はこんなにも恋焦がれてしまったのだろう。

 雑念が僕の頭を鈍らせる。

 温かい缶コーヒーがむしょうに飲みたくなった。

 そうすれば頭は冴えわたり、きっと思ったよりもいい未来が掴めるのだと思う。

 風が、冷たい。




『――あのさ』

 どれくらい時間が経ったか分からない。

 気がつけば僕は茂みから視線を移さずに口から言葉を発していた。

 彼女は僕が何かを言うのを待っていたのだろう、しかしその言葉が怖くて怯えていたのだろう、仔猫のように肩を一瞬すくめると、彼女の周りの空気が緊張に包まれるのを肌で感じた。

 僕は一度肺に空気をいっぱいに満たす。

 もう、ここまで言ってしまったのなら、最後まで言うしかない。





『……好きなんだ、ユリのことが。どうしようもないくらいに。付き合ってください』




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