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卑怯な温もり  作者: 久遠寺蒼
ユリ
13/25

12:何気ない会話

『ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった』

 次の日の夜。

 僕は大学近くの公園に、ユリを呼び出した。

 人通りのあまりない静かなその場所は、街の喧騒さえもどこか遠くに忘れてしまったかのようだった。

『こんな夜に呼び出して悪かったな。引越しの作業とか、忙しいんじゃない?』

『そうでもないよ。まだ時間はあるしね。準備もこれからって感じかな』

 そう言って、ユリははにかんだ。

『ちょっと歩こうか。遊歩道みたいなのがあるし』

『そうだね、いいかも』

 僕らは横に並びながら、歩き始めた。

 一メートルくらい離れながら。

 その距離すら、僕にとっては淋しいものを感じた。

 閉閑とした公園には冷たい風が吹いていて、僕のジャケットを、ユリの髪を揺らした。

 木々のざわめきがかすかに聞こえる。


『今日は雲がなくていいね。これで都会じゃなかったら、きっと星が綺麗に見えるんだろうな』

『埼玉の北の方だったら、見えるかもね。結構田んぼが多くて、夜になると街灯がほとんど無い場所を知ってるんだ』

『あ、それいいかも。那須でキャンプした時の夜空も綺麗だったな。すっごくね、空が黒いの。真っ黒。吸い込まれそうだったなぁ。空気もおいしかったしね』



・・・



『FANTASYって曲が思い出されるな。アリス九號.が歌ってる曲だよ』

『あ、まだ聞いてないんだよね、その曲。確かこの間リリースされたばっかりでしょ?』

『そうそう。少しは聞いたことあるだろ?』

『星空はまた瞬いて、だっけ。サビの部分は何回か聞いたことがあるかな』

『うん、正解』

『オフィシャルホームページで流れてたよね? ちょっと気になってたんだ』

『歌詞を見ると、少し悲しい曲かな。好きな女の子が死んじゃう歌なんだ』

『そうなんだ……ハモリが綺麗な曲だよね。聞きたいかも』

『今度CD貸そうか?』

『いいね。じゃあ機会があったら借りようかな。あ、でもその前に自分で買ってるかもね』

『気に入りそうだなぁ』

『そういうこと言わないの。ますます聞きたくなっちゃうじゃん。FANTASYもいいけど、その前にリリースした曲もいいよね』

『暁かな? マイネリーベの主題歌になった……』

『ううん、九龍の方。プロモーションビデオがかっこいいしね』

『確かにね』



・・・



『この公園に来るのもいつぶりだろう。一年の時、新歓イベントで花見をした時以来かな』

『そうなんだ。僕はたまに授業が無い時とか、この公園をぶらぶらしてるよ』

『結構広いもんね、ここ。ちょっと一周するだけでも三十分くらいになるでしょ』

『もうちょっとかな、四十五分くらいあるよ。ほら、奥にも広場があって、そこまで行けばそれくらいになる』

『広場……ああ、たぶんそこで花見をしたんだよ。桜が綺麗だったな』

『あと一ヶ月くらいでこのあたりの桜も咲くと思うよ。一年って本当にあっという間な気がする』

『分かる分かる。小学生の時とか、誰かと遊ばないと暇で暇でしょうがなかったと思ったのに』

『歳を重ねるにつれて、どんどん時間経つのが早く感じるんだよね』

『うんうん、そうそう』

『桜って言ったら、どんな曲が思い浮かぶ?』

『んー、Janne Da Arcの桜かな』

『今頃君もどこかで舞い散る花びらを見て……いい歌詞だよね、泣きそうになったもん』

『ピアノがいい味出してると思う』

『僕はZONEの卒業とかかなぁ。直接桜を歌っているわけじゃないんだけど、プロモーションビデオとか見てたらなんかいいなって思って』

『ZONEって懐かしいな……久しく聞いてないや』

『結構好きだったよ。最近聞いてないけど』

『私も最初の頃のは聞いたかなー』



・・・



『ちょっと冷えてきたかな』

『んー、ちょっとね。でもそこまで寒くはないよ』

『スカートじゃあ、結構寒いだろ』

『もう慣れちゃったよ。高校生の頃はもっと短かったし』

『膝上十五センチ?』

『そこまではいかないけど。まあ、でもそれくらいだったかもね』

『高校時代はブレザーだった』

『うちも。女子高だったから男子いなかったよ』

『よく学校終わって下校の時になったらネクタイ外して帰ってたよ』

『ネクタイって苦しそうだもんね』

『エセネクタイだったけどね』

『ダメじゃん、それ』



・・・



『そういえば、高校時代の話をしたのって初めてだな』

『そうだねー。そういう話にならなかったもんね』

『女子高だったなんて初めて知ったよ』

『そうだよ、女子高だったんだから。みんなでキャーキャー騒いで遊んでたよ』

『プリクラとかたくさん撮っていそうだな』

『私はそんなでもなかったかも』

『本当かー?』

『本当だって。プリクラにあんまし興味なかったんだよね。ゲームセンターとかもそこまでいかなかったし』

『じゃあ何して遊んでたんだ?』

『やっぱしカラオケでしょ』

『そういや僕もそうだったな』

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