はじめに:懺悔
この物語を執筆しようと決めた時、僕はとても悩みました。
理由の一つは、この物語を『小説』という形で世に送りだしていいものだろうか、という懸念です。
こんな稚拙な文章を他人に……というのはもちろんのこと、何よりこの小説に登場する人たちに対する申し訳なさが溢れ、途中で泣きくずれてしまうのではないかと思ったのです。
もう一年近く前の話であるにも関わらず、僕は今でもたくさんの感情に苛まされ、生きています。
死んでしまいたい、と思ったこともあります。
それでも僕は生きている。
この物語は懺悔のつもりだけで書いているわけでも、自責の念に囚われたから書いているわけでも、開き直って笑いながら書いているわけでもありません。
ありのままを伝えたい。
そう思ったからこそ、僕は自分のしたことを、回想という形で遺しておこうと思ったのです。
書きあがった今、『書いてよかった』という想いと、『書かなければよかった』という想いが入り混じって、複雑な気分です。
思い起こそうとしなければ出てこなかった思い出に、僕は書きながら涙を流したり、憂鬱な気分になったりしました。
でもやはり、書いてよかったのだと思います。
はっきり断定できないのは、書きあがった今も、公開を迷っているからなのかもしれません。
自分の胸の中にしまっておくだけでもいいのではないか。
小説のネタにしようと思ってこんな風に考えた、と思われるのではないか。
正直、公開することが怖いです。
自分の生きた軌跡が物語になることで、それが全てまるで他人事のようになってしまうかも、と思うと、怖いのです。
僕個人の卑怯さ・醜さを露呈したからと言って、僕が世界に何かできると思っていません。
それでも、これを読んだ、たったひとりの人でいいので、何かを感じてもらえれば……そう思って、公開に至りました。
もしかしたら、これは自分自身にむけて書いているのかもしれません。
過去に自分がしたこと、感じたこと、言ったこと、いろいろなものを忘れるな、と自分自身に警告をしたかったのかも、しれません。
せめて、他の人を傷つけないように。
こう思う僕はきっと、ヒトリヨガリな人間なのでしょうね。
僕は罪を犯しました。
いや、そんな言葉で飾らずに……僕は一人の女性をひどく傷つけました。
僕自身の身勝手のために、僕は一人の女性を弄んだのです。
ただ、ここで誤解しないでほしいのは、僕は確かに彼女が好きだったのです。
傷つけようと思って彼女と接したわけではないのです。
でも最終的にはやっぱりお前は傷つけたんだろう……と、言い訳のように聞こえるかもしれませんが、事実なのです。
自分自身を正当化するために、綺麗な言葉にしがみついているわけではないのです。
僕は彼女と一緒にいて癒される時を感じ、その仕草にときめいたりしたのです。
信じてください、とは言いません。
代わりに、僕は感じたことや思ったことを、そのまま文章にしました。
まだまだ弱い人間なので、目を背けたいと思ったところ、彼女の様子など、ところどころ美化されたようなフレーズや言葉が出てくるかもしれません。
しかし、僕自身のことについてはできるだけストレートな表現を選んだつもりです。
男性からみれば、気持ちは分かるけれどそれはないだろう、と思うでしょう。
女性からみれば、ありえない最低な人だ、と思うでしょう。
この物語を、登場する彼女が読む、とは思っていません。
ただ、もしも偶然彼女が読んだ時、気持ちを偽って別れた僕が抱いていた本当の想いを伝えられるような物語にしたい。
そんな事情も込められています。
これを読んで、僕と同じような立場にある人は、どうか今一度、考え直してから答えを出してください。
僕のような悲しみを抱かないように。
僕の愛した彼女のような痛みを与えないように。
どうか……。
小林ワッカ




