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家出少年

ちょっと、いや、とっても辛いから家出しました。


とりあえず、海を見に行こうと思います!


なんでだろうね笑。


今ね、すっごい愉快な状況なんです。


なんと真逆の方向に進んでました!


これじゃ山に行っちゃいますね。


ということで今からUターンします!


一応これまでのことを書いておきます。


猫が居ました。


家を出てすぐの通りに猫が3匹もいました。


何故か見てホッコリしました。


自分が知らない幸せの一つです。


あと、カラオケ店の階段で座って目を伏せている男性を見かけました。


なにか悩み事があったのかな、聞いてあげればよかったかもしれませんね。


それと、さっき自転車で坂を思いっきり降りました!


耳に風の音がびゅーびゅーとしてとても気持ちかったです。


いつもどこかの坂を降りる時は全くそんなこと気にしないのに、不思議ですね。


自分が目を向けてなかった幸せの一つです。


さて、今からUターンします!


ちょくちょく追記していく感じになるのかな。


それじゃあとりあえず、行ってみます!


ねえ! なんかパンツと袖なしシャツだけで歩いてるおじさん居ました!


ほんとにああいう人居るんですね!


結構進みました。


あんまり面白いこと無かったかな。


あ、でも、自分の身体がピンチになってきちゃいました。


喉からは変な匂いするし、地面の段差による自転車の振動だけで辛いし。


面白い人居た!


自転車で両手放ししながら肘を軸にして回転してる人がいた!


扇風機みたいな感じ。


不思議な人だった。


自分が自転車で進んでると二匹のスズメが並走してくれました。


心がホッコリしました。


自分が癒された幸せの1つです。


中間地点の駅を通り過ぎました。


息も上がり、肺も苦しいです。


でも、あと半分頑張れば海です。


少し遠回りすれば着くので、おばあちゃんの家があった場所に来ました。


前までは優しい笑みを浮かべるおばあちゃんが居たのですが、今はもう引っ越して遠くです。


でも、会いに行ける距離です。


少し寂しかったので、写真を1枚撮りました。


瞬きをしてその写真を見ると、そこにおばあちゃんの家が写っていました。


全ての幻覚がこういう怖くないものだったらいいのに。


自分が知ってしまった寂しいの1つです。


再出発する時に、1度振り返りました。


そこには幸せな想い出がありました。


泣きそうになりました。


自分が望んでいる幸せそうな家族の幻でした。


正月に親戚みんなで参拝する神社に寄りました。


そこには、1人の年老いた女性が居ました。


虫が浮かんでいる水で手と口を清めました。


30円の賽銭を投げました。


願い事は『どうかこの世界を楽しんでください、神様』にしました。


わざわざ神様に頼るなんて図々しいと思います。


みんなで笑顔を浮かべ、悩みなんて一切無い世界で生きる。


自分の理想です。


きっと、とても綺麗ですよ。


自分が夢見る幸せの1つです。


白黒の猫が居ました。


可愛かったです。


自分が和む幸せの1つです。


ハンドルを握る腕の力が弱くなってきました。


さすがに徹夜はキツイですね。


それに、喉から咳が止まりません。


元々の体質で咳は止まりませんでしたが、この咳は身体に悪い咳です。


咳のプロフェッショナルだから分かります。


でも、川に着くことが出来ました。


この川を辿っていけば海です。


橋と橋と船を撮ったら、橋の下を鳥が飛んでいきました。


とても優雅に飛んでいました。


自分が感嘆した幸せの1つです。


綺麗な螺旋階段が付いてるマンションを発見しました。


将来、自分の家にも欲しいです。


だって、とても美しいじゃないですか。


写真を1枚撮りました。


自分が空を見上げて快晴に気づけたので、とても良い幸せの1つです。


道路にバスケットボールのゴールがありました!


きっとバスケ少年が住んでいるんでしょう。もしくはバスケ少女です。


川と川が合流する地点に来ました。


風があるので、川に波があり、心が落ち着けました。


遠くで水の音がしたので、見てみると、先程の鳥と同種の群れがいました。


キュッという甲高い鳴き声が聞こえたので、空を見上げると、二匹の鳥が飛んでいました。


自由に、飛んでいました。


自転車で進んでいると、目の前を新幹線が通っていきました。


自分は昔、母にわがままを言って何度も見に来たそうです。


少し高揚しました。


自分がずっと好きな幸せの1つです。


そんなことを思ってたら、もう1つの路線の新幹線が通っていきました。


驚いて声が出ませんでした。


橋の下に縦に3つ並ぶ信号がありました。


ここは豪雪地帯ではないのに、おかしいですね。


それに橋もあるので、雪が降っても信号に雪は積もりません。


きっと、悪戯な妖精さんがわざわざ雪を運んでくるのでしょうね。


すぐそこに、海岸があるのに、数多く並ぶ工場のせいで見れません。


理由を話しても、絶対、通してくれませんよね。


母からLINEが来ました。


自分は皆が起きるとっても前に家を出たので、母は自分の居場所が分かりません。


「何処?」ってLINEが来ました。


少し進んでいくと、母が先程聞いたおばあちゃんの家の住所を教えてくれました。


帰り道に寄ってみましょう。


とても、疲れました。


すぐそこに、海があります。


ですが、許可を受けたもの以外、入れない場所です。


とても厳しそうな制限でした。


監視カメラに会釈をすると、すぐ近くのインターホンから声がしました。


話を聞くと、ここからは入れないそうでした。


すぐそこに海の青があるのに。


とっても、やるせない気持ちになりました。


今日初めて嗅ぐ潮の匂いは、化学物質のような匂いがしました。


来た道を戻る途中、1つのパトロール車に会いました。


その中には、さっき「立ち退きなさい」と言った男性と、若者の警備員がいました。


「何しに来たの?」


「えっと、海が見たいんです。ちょっと朝悩み事があって…」


「あー、そういう年頃だもんな。何歳?」


「16歳です」


「へえー、じゃあ高校生か。どこの高校?」


「○○です」


「○○!?」


「んぐっ」


この時、ずっと黙っていた若者の警備員はむせていました。


「○○っつったらここら辺のエリートじゃないか! うちの娘も今中三で行きたがってるぞ。めっちゃ勉強しててな!」


「そうなんですか」


実は第1志望を落ちて来ました、なんて言えなかった。


「じゃあ、どこから来たんだ」


「えと、◇◇区です」


「◇◇区!? めっちゃ遠いじゃねぇか!?」


「はい、今8時半で、自分が家を出たのが5時半ですよ」


とてもいい人でした。


おじさんからこの辺りには工場だらけで海なんて見れないことと、この辺は車専用道路が多く、自転車では難しいと聞きました。


自分は海を見るのを諦めました。


先程からずっと頭の中に「空と海が出会う所はどれほど遠いの」と、とある歌詞が回っていました。


分かりませんでした。


でも、何故か心はとても暖かくなっていました。


もし海を見て何も答えが出なかったら、死のうなんて思ってたのに、マイナス100度の心は、まるでお風呂のように暖かくなっていました。


海の巨大さを見れば、自分の悩みなんてちっぽけに思えてしまうと思い、やって来たのに。


自分の心は既に広大な心に触れて変わりました。


自分は、あのおじさん達にとって、邪魔な存在だったでしょう。


だけど、あのおじさんは自分に向かって本心からの笑顔を向け、相談に乗ってくれました。


とても、暖かかった。


なんにも答えは出ていないけど、自分は救われたのです。


自分にとって一生の宝物になる、幸せの1つです。


ほのかに漂ってくる潮の香りは、とても心地いいものでした。


この時に見れた小さな青色は、自分の中で永久保存のファイルに入れられたのです。


結局、帰り道で海を見ることが出来ました。


やっぱり、海は広大で、綺麗で、眩しかった。


心に何かが刺さったような気がした。


そこから、自分の心の何かが変わっていった。


自分は、心が生き返るのが分かった。


そう、死んでいたんだ。


自分の心は既に死んでいた。


だけど、生き返った。


この母なる青に会って。


おばあちゃんの家に行きました。


そこで出されたお茶は、とても冷たくて、美味しくて、身体に染みました。


そこで出された炭酸のぶどうジュースは、とても甘くて、とてもシュワシュワして、精神に染みました。


そこで出されたキウイは、とても甘くて、食感が楽しくて、心が癒されました。


そこで出された、おばあちゃんが作ったカレーうどんは、泣きそうなほど、美味しかった。


自然と自分はおばあちゃんに悩みを打ち明けました。


それをおばあちゃんは受け入れてくれました。


「ーーくんはまだ16歳でしょ? おばあちゃんはね、その何倍も生きてるの」


「だからね、悩みも沢山あったし、辛いことも沢山あった」


「けどね、おばあちゃんは身体に袋を作って、そこにどんどん入れてって、身体に空いてる穴からどんどん出していくの」


「私ね、今、日記を書いてるの」


「それでね、嫌なことは・・・とかーーーーーって消しちゃうの」


「ーーくんの悩みはとても大きいけど、自分が望む道を進めたらいいね」


その後、おばあちゃんの家を出て、自転車を漕ぎながら泣きました。


とても暖かかった。


とても癒された。


そこには『家族』が居た。

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