水の国 ⑫正体がわかっても
ベテラン勇者のおつかいあるある
戦いが一区切りつくときは一話分の文章がいつもより若干長い
「どうかしたのかしら? 」
この戦いでコハクは経験したことが無い魔術を使う“僧侶”と対峙している。魔術はコハクが常用している詠唱して発動する物が一般的である。珍しい魔術を使う大学の教授もいた。だがそれらとは根本的に違う。詠唱するにしてもコハクが過去に見つけた魔術の基本は“悪魔との契約”である。なぜ人間は魔術を使うことが出来るのかという長年の謎に迫った一つの答えであり、今までとは使用方法は変えずに意識を変えるだけで魔術の幅が広がるという物だった。つまり、“詠唱”ではなく“祈り”を行ったコレシスは魔術ではない何かを行っているのだ。
「……ねぇおばちゃん」
「おばっ!? 」
「ちょっとその意味わかんない“魔術”、見せてよ。もちろん“祈り”を込めた“詠唱”付きでね。コハクも攻撃ばっかりで疲れちゃったよ」
コハクは自宅でくつろぐかように頬杖を付きながら寝転がり、腹を掻いて挑発する。普段のコハクなら絶対にしない行為である。観客はブーイングの嵐が巻き起こり、ベンチの雷帝丸やシクロは慌てて起きるように叫ぶ。どれもコハクの耳に届いている。あえて聞き流す。この戦いで魔術が使えなくなるかもしれないリスクがあることも十分に分かっている。それでも頭に過る忌々しい“魔術”を意識するどころか、十中八九そうだろうと踏み込む。あとは自分の五感でそれを確認したいのだ。
「……そうね。自分の思い通りにならないからって大切なことから逃げ出すようじゃまだ子どもね。ケラちゃんですらそんなことはしないわ。“お姉さん”からお説教してあげる」
コレシスは失礼極まりない態度のコハクに冷静な態度で攻撃する。両手の棒を握りなおして砕くように地面を力強く叩き、揺れるはずのない地面からコハクに衝撃が伝わって身体が浮く。
「うぉぁああっ! 詠唱してって言ったのに! 」
手の内を見せないコレシス。単純な子どもとは違い大人の女性であるコレシスはこの程度の挑発には乗らない。だがコハクも大人に対してただ舐めた態度を取ったわけではない。無詠唱で視力と聴力、防御力を強化していたのだ。
(これでいくつかわかった。向こうが何かしてこない間は魔術は無詠唱でも使える。あと発動中の魔術は……半分ちょっと効力を失った。意識しないとすぐにでも効果が無くなっちゃう。でも次がチャンス! )
コハクはほうき星に乗り込みながらきらきら星で全方位攻撃を仕掛ける。同じ手は通用しないことは分かっている。だからこそ意味があった。同じ攻撃なら同じ方法で防御してくると考えてわざと同じ攻撃を仕掛けたのだ。予想は当たり、嫌な予感も当たった。
「『……主よ、私は我が肉体に宿りし魂を捧げ、祈り、祷り、願いを聞き入れたく存じます』」
「……やっぱりあの魔術、いや、あれは古い魔術、祈祷術!! あの魔女が使ってるヤツとは違う感じだけど、根本的には同じだ! でも古い魔術って習得が魔術以上に時間がかかって難しいのに実用性も低かったからもう使われてないはずなのに、あのおばちゃんはそれを使いこなせるっていうの!? 」
「お、おば…! 」
一瞬コレシスに動揺が見える。コハクは魔術ではない何かの正体を当てるが、それはそれでコハクには問題が発生した。
(冷静に、冷静になるのよコレシス。いくら祈祷術を知っていたからと言っても私は祈祷術をいつも通りに使うのよ。そうすればいくら魔術師と言えど魔術は使いにくくなる。祈祷術は習得も発動も大変だけれど、一度発動させて中断させなければ効果は続く。祈りを捧げている時は敵味方関係なく魔術が使いにくくなる特性がある。フロウムちゃんには迷惑をかけてしまうけれど、それは魔術師が戦えなくなることにも繋がる。でもあの女の子はとんでもない魔術師。ただでさえ攻撃手段が少なくて回復主体の私では決定打が無い。祈祷術で強化したこの棒で直接頭とかを叩くしかない。となるとあの大技か……この戦い、気が引けるわ)
コレシスが長引く戦いに終止符を付けるために攻撃態勢に入る。それは、ぼそりと魔術を唱えるかのような小さな声だった。
「『土人形、虚腕』」
「え? なにあれ!? うわわっ!! 『エクストリームスター』! 」
コレシスは両腕の棒から10メートルはある土の塊を形成する。その塊はコレシスの左腕ごと土に巻き込まれて巨腕になった。その巨腕でコハクを上から叩き落とそうとする。コハクはそれを隕石で迎え撃つと掌にぽっかりと穴が空く。
「よし! 」
「まだ……! 」
隕石で巨腕の掌の破壊に成功し、その風穴を通り抜けて巨腕を回避する。だがコレシスは右腕も同様の巨腕に変えていた。コレシスの攻撃はまだ止まらない。コハクはそれに気が付かずにいたためまともに巨腕の掌に薙ぎ払われる。
「ぅっ!! 」
「今度こそ……! 」
コハクは会場の壁に叩きつけられて地に落ち、その衝撃でほうき星を手放してしまう。さらに祈祷術の影響でうまく魔術が発動できなかったため衝撃を緩和出来ていない。コハクの幼い身体に強い衝撃が走り、起き上がることが出来ない。コレシスはその様子を確認して破壊された右の巨腕を解体し、左の巨腕で殴りつけるため倒れたコハクに向かって走る。
「これで、終わり! 」
「『ゾル』! 」
コハクも諦めていない。致命傷に近い状態ながらもきらきら星での魔術を発動する。コハクは瞬時に身体が液化して地面に潜り込む。だがコレシスはそれすら対策済みだった。
「『錫杖、墓嵐』」
「うわああっ!! ぐっほ……! 」
「土を使う私相手に土の中に潜るのは良くなかったんじゃないかしら。土は私の見方よ」
土に刺さっていた3本の棒が宙に浮き、瞬時にコハクを逃さず突き刺す。液体のコハクの身体が地中から打ち上げられてたところで遅れてきたシャベルの形をした棒がコハクの胸を突き刺す。シャベルが貫通するとコハクはそのまま元の身体に戻ってしまった。傷口は無いが口から血が流れだし、地上に転げ落ちてもう逃げ道がない。コハクの打ち上げに使われた棒は元の場所に刺さって微動だに動かなくなった。
「今度こそ終わりよ。おとなしくしてね」
「まだ……だもん! 『コール』! 」
「『土人形、虚腕』……! 」
コハクは魔術を、コレシスは祈祷術を準備する。コハクは動けないが口と脳が動く限り、魔力がある限りは魔術が使える。憎い母と同じ祈祷術を使う者には負けたくない、ただその一心で抵抗する。
「『エクストリームスター! 『トルネード! 』エクスキュージョン! フラッシュフロード! ブースト! ブラスター』! 」
コレシスは確実な一撃を決めるため距離を詰めるが、巨腕のせいで若干速度が落ちるのが幸いしてコハクが魔術を唱える隙が出来た。コハクから先行してかまいたちが飛び、隕石、爆破、鉄砲水をかけ合わせた超高威力の魔術がコレシスに襲い掛かる。だが、コレシスは口を大きく開けて魔術を迎え入れた。
「あーーーーーん」
「そ、そんな……!? 」
コレシスは能力を使っていた。コハクが予想していた能力ではなかった。コレシスはコハクの魔術を“食べて”打ち消した。どう考えても口に入らないはずなのにみるみるうちに口に放り込まれて、たった一口で攻撃を食べられてしまった。食べられた魔術は無力化されたようでコレシスの顔には苦しみを思わせる表情が無い。攻撃を受けなかったコレシスを覆う二つの巨腕は当然無傷。その両腕は容赦なくコハクを吹き飛ばし、力なく空に打ち上げられた。
「お…じ……ゃ…………め…ん……」
コハクはわずかに出る声を絞って敗北を謝罪するが伝えきれずに意識を失い、敗北を喫した。
『勝者、水の国の僧侶、コレシスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!! 』
そのアナウンスで会場が歓喜に包まれる。まずはフロウム陣営が1勝を勝ち取った。
コハクちゃん、まさかの敗北です。そしてコレシスはコハクちゃんのお母さんフマルが使用していたという”祈祷術”の使い手でした。細かい説明はいつかしますが、祈祷術は本来こんな簡単に発動できません。そして祈っている間は魔術が使用しにくいという特性もあります。誤解されないように補足すると発動開始(例:腕を作るとき)に祈るので魔術が使いにくくなるのですが、効果が持続している間(例:腕を作り終わってから崩れるまで)は祈っているわけではないので魔術は通常通りに使用できます。ちょっとややこしいです。
さて、今年はこれが最後の投稿になります。亀更新でバトルが続きますが、来年度もどうぞよろしくお願いいたします。




