クリスマス編 ベリークルシミマス!②(2020年投稿版)
まさかのクリスマス第二弾です。あまり本編に関係ない過去編ですが、目を通して頂けると今後の話に繋がって面白くなるかもしれません。
フロウムも水の国出身である。だがシクロの出身である東の都市リュウスイではない。海を隔てていくつかの都市がある水の国。そのうちの一つにフロウムがいた。
大きなテーブルで贅沢な食事を摂る貴族らしい立派な髭を蓄えた大柄な男はフロウムの父である。正反対の位置にいる少年はフロウム、当時7歳。入り口にメイドが一人いて御用聞きの役割をしている。そんな食事中にフロウムはモジモジと何かを訪ねたそうな顔をしている。
「フロウム、苦手なものでもあったか? 」
「い、いえ……」
父が会話のきっかけにと話しかけるが、フロウムは上手く切り替えせない。父が少し不機嫌になるとフロウムは察して内心を吐露することになる。
「お、お父様、クルシミマスが近いですね」
「そうだな。今年はクルシミマスの商戦が一層激しいものになってるから注文が大変だ」
「そ、そうですね……お父様は当日までずっとお忙しいのですか? 」
「人手が足りんからな。ワシも店頭でケーキの売り出しをしないといけないくらいには人手が足りん」
「そ、そうですか……」
あからさまに凹むフロウム。実は祖父が立ち上げた貿易会社が成功し、富豪になったため大金持ちである。祖父は他界しているが父が後を継ぎ、フロウムも将来はトップに立つ予定である。この会社は水の国圏内の品物を船での運搬、流通、販売までの全てを担う大きな会社で、地元では知らない人はいないほど有名である。そんな会社を経営する父はフロウムを見てある提案をする。
「……フロウム。クルシミマスの日なんだが、ワシの仕事の手伝いをしないか? 」
「えぇ!? よろしいのですか!? 」
「あぁ。クルシミマスは知っての通りケーキを食べるだろう。そのケーキに使うクリームを泡立ててほしいのだ。お前の『能力』ならいくらでもできるだろう? 」
「はい! ぜひともやらせてください! 」
「うむ、子どもの頃から下の者の苦労を知っておくことは大切なことだ。これは父上の教えであり、会社経営をするには必須項目。おい、そういうことにしたからクルシミマスの日にフロウムはワシが連れていくと皆に伝えよ」
父が1人だけいたメイドに合図するとメイドは微笑みながらお辞儀をした。
「お父様の役に立てるよう尽力致します! 」
「うむ、お前の活躍で製菓店の売上が変わるからな。期待しておるぞ」
フロウムは仕事を任せられたこと、一部とはいえ売上に貢献できること、なによりも父と一緒にいられることが嬉しかった。フロウムの家が特別誇り高いわけではないが大切な場所であることには変わりない。父に大切な場所で少しでも認められたことは早くに母を亡くしたフロウムにとって大切なことだった。
当日
「坊ちゃん仕事早すぎるぜ! 文字通り十人力、いや百人力だ。こんなに大量で滑らかなクリームを泡立てるのはコツも力もいるのにどこでこんな技術身につけたんだ? 」
「いえ、皆様のお力にならなければ」
「ありがてぇんだが今はクリームよりも果物のカットの方が手が足りねぇから俺がやらねぇといけねぇ。だからオレの変わりにしばらく盛り付けを頼みてえんだ」
「任せてください! 」
「おう! 任せたぜ! 詳しいやり方はアイツのを見て覚えてくれ。アイツは盛り付けは1番上手いんだ」
「親方、聞こえてますぜ。ぼっちゃんにはクリームを塗った生地に果物を乗せてもらいやす。巻くのはあっしがやりやすので最初だけやり方を覚えてくだせぇ」
父よりもさらに大柄な親方と根のような細くて小さい身体の男が冗談交じりに話しながらフロウムに次の仕事を与える。そこまで期待していなかった職人たちを他所にたった5分でコツを掴んだフロウム。ケーキどころか菓子作りは初めてだが社長の息子という贔屓目無しでスジがいいと職人達に褒められた。フロウムは俗に言うお坊ちゃまであるため褒められなれているが、お世辞無しで褒められることは少なかった。それが照れ臭くて果物のバランスが若干崩れるが気を引き締め直してすぐに元に戻す。その様子を店先から戻ってきた父は見入っていたことは親方だけが知っていた。
「兄貴、いい息子だな」
「だろ? 跡取りはコイツしかいないから大事にしたいが、危ねぇことも含めていろんなことをさせてやりたいんだ」
「その一環で弟の職場に子ども放り込んだのかよ!? 戦場みたいに忙しいんだよこっちは! 」
「おめーが厳しすぎるから弟子たちが逃げたんだろうが。従業員補填だ」
「けっ。最近の若モンは根性が足りんよ」
「おめーはそういうのを見抜けなくて無茶させるから商会の重役と船から降りることになったんだろうが」
「それはぁ、あれだ。あちこち船に乗っててこんな美味いもんに出会っちまったからこっちの仕事やりたくなったんだよ。つーか兄貴は毎年なんでウチの店で接客してんだよ。寂しいのか? 」
「はいはいそうですねー、と。いらっしゃいませー」
「納得いかねぇ」
兄弟は安心するかのように笑いながらそれぞれの持ち場へと戻る。立場は変われど仲の良い者はそう簡単に絆を失うことはない。それを表すかのような2人であった。
「ぼ、坊ちゃんがやったのか!? 」
「すげぇですぜ親方。あっしが微調整したとはいえほとんど1人で……。今は届いた材料を受け取りに行ってやす」
「会社の跡取りよりも俺の弟子にしてやりてぇよ」
親方がキッチンに戻ると予約分のホールケーキが1つ置いてあった。クリームが手本のように塗られ、果物やプレートが飾られ、仕上げの粉砂糖が雪のようにまぶされている。
「……少し落ち着いたら頼みがあるんだが」
「へい」
日が沈み、夜が更けていく。生菓子店の慌ただしい1日が終わりを迎える。シャッターを閉めると従業員は例外なく疲れ果てていた。
「あ〜……みんな、おつかれさ〜ん。みんな帰っていいぞ〜。あ、売れ残りは明日売るから触るなよ。オーダーミスとかの失敗作はいくらでも持ってっていいから〜」
客席にもたれかかっている親方が力の抜けた声で従業員を労う。従業員もそれぞれお疲れ様でしたと返事をして帰り支度を進める。その中で唯一まだ元気のある声を発するのはフロウムだ。
「坊ちゃん元気だな」
「子どもの力ってすげーですぜ」
「だろ? ワシの息子だからな」
のどスプレーを持ってバックヤードから出てきたのはフロウムの父だった。
「兄貴、今年はのど大丈夫か? 」
「うむ、問題ない。皆のおかげだ」
「会長もお疲れっした」
「ワシはいい。それよりも息子だ。さっきから姿が見えんが……」
父が辺りを見回すがフロウムはいない。だがバックヤードで従業員が少しソワソワしている。父が怪しむと扉が開いてホールケーキを持ったフロウムが出てきた。
「お、お父様、ベリークルシミマス……」
「ふ、フロウム……! 」
「兄貴、そのケーキは坊ちゃんが焼き上げて、クリームを塗って飾りまで全部一人でやったんだ。1日で客に出せるまでになるとか天才以外の何者でもない。食ってみろよ」
父は感激する。涙をすんでのところで耐えるが親方には感涙を流すまいと堪えているのはバレている。バックヤードにいる従業員が手早く紅茶や食器を用意し、店内で身内のパーティが始まろうとしていた。
「はい、今度こそご苦労さん。帰ったら家族サービスしてやれよ」
「お先失礼しや〜す」
「さて、俺も帰るから鍵だけ閉めてけよ」
従業員が親方含めて全員帰ってしまった。店内に残る親子。普段食事をするテーブルのような豪華さは全く無いが2人にとってはどうでもいいことだった。貴重な親子の時間である。
「ケーキは切れるのか? 」
「もちろんです。今日の成果ですから」
ケーキにナイフを入れて丁寧に切り出す。スポンジ生地が柔らかいがナイフで潰れない。実はフロウムの能力を応用して切っているが父は気が付かない。切り出されたケーキを取り分け、紅茶を注いで準備は万端だ。
「では頂こう」
ケーキをフォークで一刺し。一口分を救って口に運ぶと父は今度こそ涙を堪えられなかった。
「お、お父様!? お口に合いませんでしたか!? 」
「うまい…うまい……! これ程うまい物を作れるのか……! 」
父はフロウムを抱きしめて喜びを表す。フロウムは何が起きているのか分からず戸惑うが、喜びながら少し乱暴に頭を撫で回す父を見て自分の失態ではなかったこと、素直に喜んでいる父の姿にもらい泣きする。
「いつも寂しい思いをさせてすまんな。そして生まれてきてくれてありがとう! 」
「あ、ありがとうござ……ぶぇっくしゅ! 」
抱きしめられているフロウムは父の立派な髭が鼻に入り込みくしゃみが出る。しかもくしゃみのせいで鼻水が髭と服に付いてしまった。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”鼻水ぅぅぅぅぅ!! 」
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!! 」
くしゃみ1つで感動的な雰囲気から一般家庭のような賑やかさに変わる。それぞれの家庭での家族の形、親子の形があるが、仲が良い家族は何よりの宝だろう。その後フロウムは紆余曲折あって勇者になったが、それはまたいつか……
フロウムのちょっと意外な過去でした。クリスマスもそうですが、家族がいるっていいですね。妄想で書いている部分が多いので普通の家族とは違うでしょうが、それはその家庭の形だと思っていただけると幸いです。




