水の国 ⑪猛撃のコハク、鉄壁のコレシス
「……なるほど」
「えぇ? 今ちゃんと当たったよね? 」
コハクはなぜ魔術がちゃんと使用できないのか、魔術を受けたのに攻撃がうまく出来ていないのか、コハクにとって何が起きているのかわからない。自分の実力が発揮できなくて戸惑うコハクにコレシスが低姿勢を保ちながら真っすぐに進む。同時に両手の棒の先端を地面に擦り付けている。
「くっ! 『フレイム』! 『フライ』! 」
コハクはコレシスの様子を見て何か地面から仕掛けてくると感じ、炎の障壁を作りつつ、ほうき星を箒の形状へ変化させて空中へ飛んだ。珍しく防御と回避に回るコハク。コハクの持ち味は『魔力が無限』の能力を利用した高火力広範囲の魔術攻撃である。常人ではありえない攻撃方法を可能とするコハクだが魔術が発動できなければ攻撃も防御も魔術に頼るコハクには非常に厳しい戦いになる。自慢の攻撃を防がれたことに驚く暇もなくほうき星に跨るコハクは一度コレシスが何をしてくるのかを確認したかったのだ。だがそれが悪手になるとは思っていなかった。
「え! 炎が……きゃあ!? 危ないよ! 」
「ダメか」
コレシスは炎の障壁に右手の棒から発した土煙で穴を空け、コハクがいないことに気が付くと空中にいたコハクに向かって左手に持っていた棒を投げつけたのだった。運よく帽子に掠っただけのコハクはその棒が形状変化していることも見逃さなかった。
(何あれ? 形状変化の魔術? さっきまでただの棒だったのにスコップ? シャベル? 土を掘るヤツに変わってた! もし魔術が使えるのなら形状変化が得意? だったら錬金術の方が適してる。でも地面を擦った土だけじゃ錬金術でもあの大きさのスコップにはできない。能力で質量を無理矢理増やしてる? それなら土煙で炎を消したのも納得がいく。となると土を使う魔術が得意でそれを能力で補ってるってことになるのかな? とすればやっぱり高威力の魔術をしっかりと当てることが勝利の鍵! 空から連射してるほうがうまくいく! )
コハクは一連の動きでコレシスの特性を考察し、それを踏まえて作戦を考えて再び攻撃を開始する。が、その目論見は的外れだった。
「コハクの必殺技パート5! 」
コハクは苦戦していた。強力な魔術を何度も何度も打ち込む。爆破、隕石、火炎、雷撃、氷塊、烈風、光槍、水流、衝撃波。多彩で威力絶大な攻撃はその威力でとんがり帽子が吹き飛びそうになる。それ程にまで強い攻撃を仕掛け続けて5分が経過しているのに魔術を打ち込んでもコレシスの防御を崩せない。分身を作って多方向からの攻撃も意味がなかった。コハクの攻撃の隙を突いて予備と思われる棒を地面に3本刺して防御をさらに固め、二本の棒でコハクの魔術を叩いて迎撃する。それでも服に多少の汚れが見えるためコレシスが特別頑丈というわけではない。コハクの攻撃を完全には防げていないようだがそれでもコハクは自分の攻撃に疑問を感じるようになる。
(おかしい。コハクの魔術が何か変。悪魔がうまくコハクの言うことを聞いてくれない。いや、聞いてはくれるんだけど悪魔が少ない? 本来よりも弱い威力で攻撃が発動してる? よくわかんないけど何かがおかしい)
コハクがそう思うのは自然なことだった。魔術ならコハクと同程度以上の実力が無ければ無詠唱で発動することはほぼ不可能であるが口元がほとんど動いていない。魔術を使用する際には声の大きさも影響があるにも関わらず声は聞こえない。となると声を使用しない錬金術を使用していると考えるのが普通だが錬金術を使用する際に必要となる魔法陣も見当たらない。
他の国にある魔力を使用した技術なのだろうかとも考えている。直接的な戦闘で使う技術は限られていて、どの土地にも特有の戦い方がある。コレシスの戦い方はコハクの攻撃すらも通さない鉄壁。これほど重厚な防御手段があるならもっと浸透していてもいいはずなのに誰もがコレシスの防御に驚くばかり。違和感だらけのコハクは各方面からの攻撃を一旦中止して地上に降りて様子を伺うと同時に次の魔術の準備に取り掛かろうとするが、コレシスの口元の動きが気になった。
「祈り……? 」
魔術ではなく魔力のみで口元の動きを読み取るとコハクは嫌な予感がした。つい先日に似たような話を聞いたばかりである。だがコハクはそれについて知らない。大学の図書館にも自宅の本にもそれらしい話は覚えていない。
「祈り……『魔術は魔力を用いて超常現象を起こすことが出来る。それの始まりは“願い”でありそれを実現させたいと古代人が叶えた“祈り”だった』。魔術を勉強するときには必ず教科書に書いてある文言だよ。聞き覚えある? 」
コハクはコレシスに尋ねる。防御に徹し続けていたコレシスは顔色一つ変えずに返答する。
「聞いたことは無いわね。コハクちゃん、だっけ? あなたは確かにすごい魔術師よ。私が戦闘では絶対に使いたくないと思ってた『能力』を使わせたし、普通の魔術師ならまずできない攻撃を普通にしてくる。あなたがあの時にいてくれたら何人の命が助かったことか……いや、あなたには関係ないわね」
「……そういえば“魔術師”じゃなくて“僧侶”だったよね。考えてみればおかしかったんだ。“僧侶”の仕事ってお墓の管理とかお葬式とかが仕事のはずなのに“武器”を持ってる。それも骨みたいな物をお坊さんが振り回していいのかなって。魔術にもそれほど詳しいわけではなさそうなのに魔術への対抗策があ……る、んだよね? 」
普段のコハクなら素直に喜ぶが納得のいかない回答と仕組みが分からない魔術のような何かがコハクの頭を悩ませる。ただ攻撃するだけではコレシスにまともにダメージが通らない。そこでコハクはあることに気が付いてしまい、嫌な予感が現実味を帯びてきた。
あれ…来週はあの日ですね。もう一年が経過するようですが、こんなもやもやする展開で来週は本編お休みの可能性ありですか…?
その代わりと言っては何ですが、ある企画を製作中なのでお楽しみにしていてください。




