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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
水の国
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水の国 ⑩これはあくまでも試合という体で

 ショー当日、観客席にだけ簡素な屋根がある半野外のスタジアムに二つのパーティが会場入りすると、6人は見物客の話を聞いた。雷帝丸のパーティはだからどうしたなどと聞き流していたがフロウムのパーティはそう言っていられない。フロウムにとっては水の国の勇者としての威厳を保つために大勢の民衆に力を示さなければならない。かといって雷帝丸を殺すつもりはない。会場内に響くアドレーンをはじめとする広報のアナウンスがフロウムたちを称え、雷帝丸たちを侮蔑するためより重く圧し掛かる。国民からはフロウムが正義、雷帝丸が悪に見えるような構図にしなければいけないことは分かっていても納得はできないフロウムは表情が暗い。

「……」

「師匠? 顔色が悪いです」

「だ、大丈夫っス。それよりもコレシス、一番手は任せたっスよ」

「えぇ。フロウムちゃんも無理しないでね」

 どうしたらいいのか雷帝丸たちよりも真剣に一晩考えたが結局いいアイディアは浮かばなかった。そのせいでケラとコレシスが不安を拭えない。リーダーの不安が伝播していく中でスタジアムのフィールド内部に作られたベンチに荷物を置いて、コレシスはいつもと調子が違うフロウムを横目に準備を終わらせて一足早く所定の位置に着く。一方雷帝丸たちは対照的だった。

「おじちゃん! 最初はコハクだから早速行ってくるよ! 」

「あぁ、毎度のことながらコハクを戦わせるのは心苦しいが頼りにしてるぜ」

「コハクちゃん頑張ってね! ぐふふ」

「自重しろ」

 死ぬかもしれない不利な状況にあるにも関わらず軽い気持ちでフロウムたちがいる反対側のベンチにどっしりと構える。コハクに至っては遠足にでも行くようなテンションで魔法陣を開いて手を入れて一本だけ杖を取り出す。準備運動なのか2~3回ボールを撃ち返すように振り回すと同じ手順でもう一本の杖を引き出しながら鼻息を立てて所定の位置に着く。


『さぁ両者揃った! ここからの主審及び実況は私アドレーンだ! ルールは簡単、どちらかが戦闘不能になるまで殴り合いをし、これを3回行う! お互いの持てる力であるならばどんな手を使ってもOK。魔術であるなら回復行為も認める! ただし、戦闘中の回復薬の使用、仲間からの支援やコーチング行為、観客からの妨害は反則または仕切り直しとさせて頂くのでご容赦願おう』

 客席にはぎゅうぎゅう詰めになるほどの観客が来ていて声で会場の空気が震える。だが楽しみにしていたというよりも国がやることだから逆らえないという義務感、窮屈な生活を強いられるリュウスイの住民の行き場のないストレスや多くの上層部や貴族が放つ悪意が混じった嫌な空気である。それはなんとなくみんなわかっていることだったが敢えて誰も言わない。

『さて待たせたな水の国からは僧侶のコレシス! 変則的な魔術で煌陽(グリーム)()勇者(メイル)の攻撃を確実に通して魔王に痛烈な一撃を浴びせています! 対するは悪魔の魔術師コハク! 齢9歳にして魔術師の肩書を名乗る悪魔の魔術師だ! 』

「なんだあのアナウンス。こっちが罪人みてぇな言い方じゃねぇか」

「実際罪人扱いだし水の国なんてこんなもんよ。ほら、大の大人が子ども相手にみんなしてブーイングを送ってる」

 雷帝丸とシクロが愚痴る。360度全方位から聞こえる罵倒にコハクが挫けそうになっていないかと心配になるが、コハクはそんなことは眼中になく、非常にコンディションが良かった。

「うーん。“悪魔の魔術師”じゃなくて“悪魔を見つけた魔術師”なんだけどね。まぁいいや。コハク・ウィザーグリフ! タイマン張らせてもらうよ! 」

「コレシス。魔術師には負けない」

 二人の名乗りは正反対の勢いだった。ゴングが鳴ると同時にコハクはその勢いに乗って攻撃を開始する。


「いきなり行くよ! 」

 コハクはフマルとの闘いでも見せた大量の魔法陣を展開して圧倒的な魔術の包囲網で仕留めるつもりだった。ほうき星ときらきら星、コハクの膨大な魔力に無詠唱で魔術を発動できるようになるまでに成長していた。母との闘いを経て精神的にも技術的にも進歩している証拠で、普通の魔術師ならまずできない神業である。だがコハクは少し怯んでしまう。そして、魔術は発動できなかった。

「っ!!? なんで!!? 」

 コハクは自分が魔術を発動できなかったことに驚く。しかしコレシスは微動だにしない。両手に片方ずつ前腕骨のような丸みを帯びた棒を持っているのだが、一歩たりとも動かない。

「な、なんなの…!? 『ブリザード』!! 」

 今度はしっかりと魔術が発動し、いくつもの鋭利な氷の塊が冷たい風に乗ってコレシスに飛んでいく。コレシスはそれを見てようやく回避運動をするが、避け切れずに氷の塊がいくつか直撃する。

「……腹部、右前腕軽傷」

「あ、あれ? うまくできた…? 」

 先ほどの発動の失敗は何だったのかわからないが、コハクはしっかりと魔術を唱えればちゃんと発動できると判断した。しかし、氷の攻撃を受けたコレシスはあまり攻撃が効いていないようで、棒で痛めたであろう箇所を軽く叩くと何事もなかったかのように振舞う。



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