水の国 ⑨生かされている勇者たち
「ベンゼンの爺さん、マジでありがてぇ」
騒動から2日が経過した。雷帝丸のパーティメンバーはアドレーンの条件通りに国営の宿泊所で決戦の日を待っていた。騒動があった日のうちに必要な物をアドレーンに注文するとベンゼンからいつもの盾と剣、防具が届いた。今回も木箱に必要な物が全て入っていて、一番上には手紙が入っていた。
『拝啓 雷帝丸殿
いつものことながら手紙を書かせていただきます。つい先日水の国を訪れたのですがなぜこのようなことになっているのか理解し難い点があります。城に来た使者から事情は聞きましたのでぜひとも生きて帰ってきてほしいものであります。雷帝丸殿ならきっと生き残っているでしょうと確信しています。根拠はありません。しかし心配もしていません。丁度時を同じくして風の国から使者が来ました。一度こちらに戻る予定だったそうですが、やはり一度こちらに戻ってきた方が良いと思います。どうにかして生き延びて頂けないと花の国は本当に滅びてしまいます。魔王が攻めて来れば私一人ではどうにもできません。当然水の国にも物量で押し切られてしまうでしょう。とにかく生きてブルーミアの城まで帰ってきてください。お待ちしております。
ブルーミア城執事長 ベンゼン 敬具』
ベンゼンの手紙を読むが特にこれと言った感想を持つわけでもなく、雷帝丸は届いた鎧を着込み、盾を構える。
「あぁ、いつもの。といっても本来の俺の防具はちゃんと決まってないからな。着心地はいいけども。さて、次は剣だ。あ、でも剣は余っちまうな。まぁ予備として持ってくか。必要になれば剣を取り出せばいいだけだし……これだけは風の国から持って来れた物なんだよな。出発したその日に盗まれた本物なら時間の流れを遅く出来るらしいからもっと強かったんだろうけど無いものねだりをしたってしょうがない。というかどうやって相手の時間を遅くするんだよ。魔力が必要なら俺が持ってても意味ないし」
風の国にて討伐し、現在は牢獄にいるコハクの母フマルの話を思い出す。愚痴を零しているが雷帝丸には今までそのような体験があの戦いの一度きりだったと思い、いまいちその自覚が無い。実は雷帝丸は幾度となく時流針剣に救われている。だが今はその剣が無い。魔剣と呼ばれるその存在は使用者にも影響があるようで、現在の雷帝丸はいわゆる『時間操作耐性』を魔剣によって獲得している。だがそれは相手が時間を操作する術がある者なら有効ということで、フマルは強力な魔女だったからこそ発揮した力である。故にフマルと同程度かそれ以上の実力のある者でかつ、時間を操作する相手でなければ全く意味がない。そして今回対峙する3人は誰も時間を操作するような術がないと見込んでいる。頼みの能力も『道端でコインをたまに拾える』能力であるため戦闘向きではない。
「ねぇ、今回の試合のルールって3人から代表者を出して一人ずつ戦うじゃない。作戦とか順番はどうするのよ」
雷帝丸が明日に向けて準備をしていると珍しくシクロから雷帝丸に声をかける。雷帝丸は少し驚きながらも冷静に自分たちとフロウムたちのパーティメンバーを考える。
「ん~……相手が誰かにもよるけど、向こうがそもそもどういう戦い方なのか全くわかんねぇんだよな。フロウムは真正面から殴り合いになるだろうけど後の二人はわからん。予想着くか? 」
「とりあえずあたしがあの勇者をぶっ飛ばせばよくない? 」
「あの嫌な人達が命令した時に二人が武器を持ってたよ。でも棒とハープだったからよくわかんない。ケラちんは少なくとも魔術使いではなさそうだけど、あのおばちゃんは魔術使ってくるかも」
「コレシスな。あとケラの防御力の低さが気になる。ハープなんて楽器だろ? 普通に考えるなら武器として使わない道具だ。となると直接的な攻撃は少ないサポートタイプだろう。そうなるとタイマンなら搦め手を使うのは目に見えるから俺よりも火力も機動力もある二人のどっちかがいい。だがコレシスが魔術を使うのであるならコハクがコレシスの相手をした方がいい。そうなるとシクロが何か罠に引っ掛かる前というか仕掛けられる前に一発ぶん殴るだけでも致命傷になるんじゃないか? あとは俺がフロウムの猛攻を防いで勝ちってわけだ」
「なんであんたが勝つ前提なのよ」
「そこは勝たなきゃ話にならねぇからな。あとヤバくなったらみんなで会場を抜け出して国から逃げ出すつもりだ。フロウムも俺がこういうことするのはわかってるだろうし国の命令があっても無くても俺を追いかけて来るだろう。あのお偉いさんたちは俺たちにムカついたからこんなことになってるわけだし、討伐したことの証拠がなくても報告さえ耳に入ればどうでもいいと思う」
「我ながら本当に酷い国。割と的を得たこと言ってるからあんまり出身言いたくないのよね」
「大人って難しいね。みんな平和にしてればいいのに」
「違いねぇ。もっとも、俺がアイツをパーティに入れられれば単純計算で戦力は2倍、いや20倍だ。やっぱ協力してくれる方が楽だよなぁ」
雷帝丸は殺されるかもしれない翌日を控えているが、呑気なのか肝が据わっているのかそこまで深刻には考えていなかった。その一方で隣の建物ではフロウムのパーティが控えていた。
「っつうわけだ。民衆は明日の決戦に向けて非公式にどっちが勝つかの博打までやってんだ。ずいぶんと期待されてるわけだし、あとはわかるよなぁ? 煌陽之勇者」
「……わかったっス」
「おう、じゃあ明日はそういうことでよろしく。お前の命だけじゃなく俺らの首もかかってるからなー」
アドレーンが何かを伝えに来たようで用件だけ伝えると軽い足取りすぐに出て行った。
「師匠、どうしましょうか」
「先輩を探せと言われた時から嫌な予感はしてたっスけど、予想以上に厄介っスね。俺ってこれでも水の国にかなり貢献してる勇者なんスけど」
「人間は気に食わないものをとことん排除したくなる生き物。あの男がフロウムのどこを気に入らないのかわからないけど一番大事なのはあなたの意思よ。フロウム、あなたはどうしたいの? 」
「俺は……」
現在の状況
雷帝丸陣営:全員準備万端。雷帝丸はいつもの剣が2本ある
フロウム陣営:戦闘準備は完了。ただし、アドレーンをはじめとする上層部に何かを命令されていてフロウムはそれに悩んでいる。




