水の国 ⑧ある男の提案
フロウムは即座に雷帝丸に向けて戦闘態勢を取る。雷帝丸はすぐに視界を仲間たちに向けるが、すでに二人とも戦闘態勢だった。腰にぶら下げていたガントレットをはめ込むシクロに2本の杖を魔法陣から取り出すコハク。その二人の行く手を阻むように移動してケラが小さな竪琴をローブから引き出し、コレシスが棒を両手に1本ずつ取り出す。
「まて! こいつはまだ殺すな。丁度いい見世物にできる」
上層部の一人の男が命令を中止した。端の席にいた男である。一人だけ私服のようなかなり砕けた格好をしていて、金髪に金属製のアクセサリーを多めに身に着けていてこの場にはふさわしくない風貌の男だった。全員の動きが止まってその男に視線を集めると、とその上層部の男が続けて話をする。
「アドレーン! また貴様か!! 」
「広報担当のスラム街出身のゴミヤンキーが勝手にでしゃばるな!! 」
他の上層部の男が声を荒げるが、アドレーンと呼ばれた男はそれを完全に無視している。
「煌陽之勇者の魔王討伐完了に伴う催し物がまだ決まっていなかったのだが、この男のパーティとの決闘をするのはどうだ? 資金が限られている中で行う催し物としては会場を確保するのみで簡単にできる。その際に殺してしまっても構わないだろう? 」
男は予想外な提案をして全員の動きを止め、上層部は隣の者とその提案を審議に夢中になる。雷帝丸は剣を抜くのをやめ、フロウムが拳を解き、それぞれのパーティメンバーはそれぞれの武器を納める準備をする。正面から見て真ん中にいる上層部の者がアドレーンと呼ばれた男に質問をする。
「アドレーン。要はこの不届き者の殺戮ショーを煌陽之勇者の凱旋の催し物とするということだな? 」
「まさにその通り! 新たな通り名を持つ勇者の誕生を祝うと同時にその力を示すいい機会だろう。いくら実力の無い勇者だとしても勇者であることには変わりない。むしろ他国の勇者よりも優れていることを証明できるという寸法だ」
「イカれてやがる……! 」
雷帝丸は怒りを隠しきれないが上層部は意外と好感触なようで先ほどまでの悪意が薄らいでゆく。
「ふむ、一理あるな。ではこの一行はどのようにこの場に留めるのだ? 仲間が我が国家の兵士である以上、強力な人材なだけあって脱獄も容易いだろう。拘束具もあまり意味はないと思うが? 」
先ほどの右隣りの上層部が提案をした男に申し出をする。
「ならば国営の宿泊施設に招待しよう。エンターテインメント性を高めるため、あと煌陽之勇者の力を誇示するためにも絶対にこの者たちが不利になるような卑怯な手を許してはならない! この者たちが万全な状態で戦えるようにもてなすのだ! 血の気の多いリュウスイの住民にも丁度良いストレス発散の場だろう。会場も明日までに私が何とかしよう。それを踏まえて開催は三日後、それでどうだ」
上層部は少しざわめくが、これならいくつかの余計な手間が省けると考えているようだ。そんな上層部を後目に雷帝丸とフロウムは戦闘態勢を完全に解いてヒソヒソと作戦会議をする。
「せ、先輩……」
「……アイツが作ったチャンス、みんな冷静になろう。不本意だがここでお前と殺し合いをするよりはずっとマシだ。あの男、普通なら俺たちをここで抹殺するように仕向けるところなのにわざと生き延びさせようとしている。あの野郎が何を考えているのかはわからねぇが、ここはこの男の提案に乗るべきだ」
「先輩も生き延びられるし、俺も先輩を殺さずに済むかもしれない。あとはどうにかしてうまく抜け道を見つける方がいい。その猶予ができたと思って殺戮ショーまで対策すればいいんスね」
「あぁ。今はまだノープランだがそれはこれから考えるんだ。期限はあと三日。空っぽの頭捻って6人全員生き延びるぞ」
雷帝丸がフロウムに提案をして戦闘を避けた。一安心したところでパーティメンバーに視線をやると二人の勇者を見てか戦闘態勢を解いていた。
「上層部の意見は固まった。ではではお二方もそれでよいか? 」
「異論はないっス」
「俺もだ」
「……では3日後にショーを開催する。では本日はこれにて終了する。アドレーン、この不届き者共の監視を怠るなよ」
突如意見した男によってこの場での争いは収束した。すると会議は終了し、上層部の男たちは文句を垂れながら部屋を出て行った。意見した男は二人の勇者の元に近寄り軽いノリで会話をしてきた。
「いやぁもうしわけない! 俺はアドレーン。少し前に爺さんにできるだけ雷帝丸さんに協力できるようにしてほしいって頼まれてたからな! 俺が上層部の問題児であることを利用して柔軟なことができるって考えたんだろう」
「ベンゼンの爺さんはあんたに話をしていたのか。だがあんたもベンゼンの爺さんも頭がずいぶん回るな」
「わざと道化を演じていたんスね」
「ベンゼン? あぁ、爺さんの知り合いか。俺のお目付け役がその爺さんの知り合いでな。俺はそいつを知らないんだがな」
二人の勇者が国を超えた役人の頭の良さに関心していると、アドレーンは冷静に話を進める。
「だが俺が設けられた時間は長くて三日だ。問題を先延ばしにしただけだから何も解決できていないから根本的な解決は出来てねぇ。この決闘で国民も上層部も納得できるような結果にすることが必須だろう」
「うーん……。となると決着は付けないといけないだろ? それにお互いが割と全力じゃないと手を抜いてるってのも見透かされるだろうしなぁ」
「でも先輩の言う通り共闘の方が俺もいいっス。国を超えて共闘の方が印象はいいと思うっスよ」
「いや、この国の国民、特に金持ちというか地位の高い国民は水の国こそがすべてにおいて優れていると考えていることが多いから水の国としてはそれはあまり納得がいかないだろう」
「なんでそんなめんどくさい国民性なんだ……」
「国が海を隔てて東西南北に都市があって、さらに中央に旧世界時代に作られた巨大人工島があるくらい広いからそれが誇りだと思っている国民も多いんスよ。ここリュウスイが西側っスけどね」
「花の国の農家たちのようなプライドか」
雷帝丸は自分の出身のことを思い出す。花の国では30年前に現れた魔王が花の国を焼け野原にしてほぼ壊滅状態にまで陥れた過去がきっかけで現在の花の国が形成されている。雷帝丸もその農家出身なのだが情熱が足りずに両親に勘当されて勇者にならざるを得なかった。そんな思い出がフラッシュバックする雷帝丸だが、どうすればいいのかを考える時間はあまりない。少し離れたところでは二つのパーティのメンバーがすでに打ち解けているのか、会話の内容から作戦を立てているようだ。




