水の国 ⑦悪意ある理不尽
「さて、のちに煌陽之勇者としての手続きをするとして、もう一つの話だ」
「あ、やっと俺たち二人の話になるのね」
「なんスか?魔王を討伐して通り名持ちになった俺に何か依頼っスかぁ? 」
「急に調子に乗り出したなお前」
「さて。勇者としてパーティを組むことは極々普通のことであるが、同じパーティに勇者が二人いても一時的に複数のパーティが一つのパーティになることもそう珍しいことではない。そこでだ、煌陽之勇者は勇者雷帝丸を自らのパーティに取り込み、花の国に甚大な被害を齎している魔王の討伐を依頼したい」
「はぁ!? 俺のパーティが取り込まれるってことか!? 正式に花の国から魔王討伐の依頼を受けているのは俺なんだぜ!? 一国家が絡んでる案件なのに許可なくやったら国家間での戦争にもなりかねないことをしようとしてんの分かってんのか!? 」
「勇者雷帝丸よ。貴様は我が国家の戦士を引き抜いた挙句、修行用の拠点まで破壊したのに比べたら寛大な処置だろう。その女は我が国家に多大な借金をしているのだぞ」
「そういやそうだったよこのおっぱい大魔神」
雷帝丸とシクロが青ざめる。雷帝丸は汗を一筋垂らしながらシクロの方に顔を向けるが、シクロはそっぽを向いて口笛を吹いて誤魔化す。吹けていない。そんなことを無視して上層部は話を続ける。
「確かに花の国には何も連絡をしていない。だが花の国の魔王がこのリュウスイにも被害を及ぼしているのは事実だ。この国や地域からは人員を割いて魔王討伐ができなかったから花の国に資金提供をしていた。しかし連戦とはいえ魔王討伐が可能となった今、新たな称号持ちの勇者の元でわが国にも脅威を齎す魔王を討伐することは何もおかしなことは無い。それに花の国の勇者は全滅してお前しかいないのだろう? 実力も無い勇者が寄せ集めのパーティで魔王を討伐できるとは到底思えない。つまるところお前ごときのゴミでは無理だと言いたいのだ。だから我が国家から施しの手を差し伸べてやっているのに、それを払いのけるとはそれこそ国家間の戦争が始まってもおかしくはない」
「てめぇ!!」
雷帝丸はその提案は飲めなかった。勇者稼業をしている以上は勇者として仕事を受けていても、その仕事を他のパーティと協力することやかつての雷帝丸のような野良を一時的にパーティにメンバーに加えて協力することも極々当たり前にあることである。しかし雷帝丸は今やパーティのリーダーである。パーティを丸ごと他のパーティに飲み込まれることは許しがたいことだった。それは勇者としての、パーティを構えているリーダーとしてのプライドでもあった。
「今は城にいるろくな戦力はあのジジィしかいないし、戦争であの城を潰して姫を持ち帰って見世物に育てるのも悪くない。そうだ、花の国などという幾度にも魔王に侵略されている弱小国家だ。そんな国が土地を持っていても意味がない。やはり戦争で一方的に蹂躙するのがいいだろう。のぉ皆の衆」
「左様。土地が増えれば陸での産業が増やせるかもしれませんな」
「異議なし。土地の開拓も受け入れた花の国の住民共の扱いも困っていたことだが奴隷として働かせれば何ら問題ない」
「また我ら水の国が発展しますなぁ。よきかなよきかな」
上層部は自分たちの利益しか考えていなかった。花の国の住民を受け入れたのも自分たちの労働力が欲しかっただけなのかもしれない。この国に善意は無かった。雷帝丸はそれを感じ取ると稲光のような速さで全身から怒りが込み上げて溢れ出す。
「ふざけんな! 俺を通り越して国までコケにしやがったな! あんたらが今やろうとしてることは魔王と変わんねぇよ! 」
「まぁまぁ、雷帝丸先輩。俺のパーティには一時的に入って、ことが済んだら元に戻ればいいじゃないっスか」
「それじゃお前が倒したことになるだろ! 倒したとしても俺がお前の腰巾着ってことになるだろうが! ここでこいつらを切り飛ばさねぇと花の国が侵略されちまう! 」
「今ここでそんなことしたらそれこそ戦争は免れないっス! それに実力は先輩よりも俺の方が上じゃないっスか! 」
二人とも譲らない。雷帝丸は自分に関することを馬鹿にされ、先輩としてのプライドも相まってムキになる。通り名を手に入れて調子に乗ったまま自分の配下になれと先輩に物言いするフロウムも大概だが、合理的に魔王討伐をするなら水の国の提案に従った方が良いのも事実である。
「魔王討伐が最重要課題になっている花の国にとっては手段を選べないと理解を示すだろう。花の国にはリュウスイから説明を入れておこう」
「だから受け入れられねぇって言ってんだろ!? そう言いながらてめぇらは花の国を侵略するのが目に見えるわ!百歩譲ってやるならせめて共闘だ! 」
「世界最大の国家である水の国に歯向かうつもりか? 世界最大の国家であることは世界最強の国家であることも同然。風の国の魔術師共よりも圧倒的に強いのだ。寛大な処置を施しているのにこの態度では、生きて返すことも甚だしい!! 」
「ずいぶんと傲慢な野郎共だ!! わざとらしく自分の国が一番だとか言いやがって!! 」
雷帝丸はついに剣の柄と握る。それに呼応したかのように上層部はフロウムに命令を出した。
「水の国の勇者『煌陽之勇者』よ! 貴様がこの男を殺せ!! 」
「っ! 先輩、ごめんなさい!! 」
偉い人ってなんでこう他の人が痛い目を見るのが大好きなんですかね(偏見)




