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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
水の国
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水の国 ②見つめる音

 朝日が昇る。一晩経つと雷帝丸の口の中に居座っていた辛味はすっかり消えていた。雷帝丸は外で生活している時は朝が異常に早い。どちらかと言うと野生の本能に近いものがあるのだが野外で生活している期間が長かったことが影響していることは言うまでもない。

「朝か。昨日はひどい目にあったが、今日はなかなかいい朝だ。こんないい朝日を浴びて食う朝飯はどうするかなぁ」

 さわやかな朝だったが、雷帝丸一行の現在の食料は辛いスパイスのみ。探しに行くにもまだ二人は眠っているので下手には動くことはできない。結局雷帝丸は空腹に耐えるしかなかった。数時間後、二人は起きた。だが相変わらず仲間とは思えない待遇だった。


「あんたの朝ごはんは昨日の料理に使った薪の灰ね。あたしたちは昨日の残りだから」

「食えねぇだろうが。というか昨日の残りあんのかよ。昨日の時点で食わせろよ」

「嫌よ。あんたと同じ釜の飯は食べたくない。ただしあんたしか食料を持ってないならあんたからもらう」

「ひでぇ」

「おじちゃん、あそこにウサギならいるよ」

「マジ!? 確保出来たらみんなで食うぞ! 」

 その後たった数分でウサギを確保できた。ウサギはキャロラビットという魔獣であった。ウサギにしては大きい個体が多く、くすんだ赤茶色の毛皮を持つことで知られているが野生種としても珍しく肉質が柔らかい個体が多い。

「いよっし、あとは肉にして食おうぜ。コハク、ちょっと持っててくれ」

「うん! あっ」

 雷帝丸がコハクにキャロラビットを渡そうとしたところで一瞬の隙を着かれた。キャロラビットはコハクの腕を蹴ってそのまま逃げてしまった。

「朝飯が……」

 3人はウサギを逃がしてしまい、清々しい朝に見合う朝食を失ってしまった。そんな3人を密かに見つめる者がいた。


「……大きな盾は無いけど小さな剣の勇者、ば、爆乳の、格闘家、僕より年下の女の子の魔術師。師匠に知らせなきゃ。おっぱい大きい……」

 木陰に隠れている誰かがいる。身体は華奢で身長もまだまだ子どもだがコハクよりは少し大きい。一人称が“僕”だが魔術師のようなローブを羽織っている。中性的でありながらも村の生娘のような素朴な顔立ちでありつつも鼻が高く、髪は肩にギリギリ付かないくらいで襟足は若干長い。

「師匠の能力は手が簡単に汚れないからこういう時に便利なのに……あ、グミがなくなりそう、もう食べるのやめとこ」

 子どもは指先で立方体の小さなグミをつまんで食べていたせいで手がべたつかないための粉で汚れていて、その汚れた手をハンカチでふき取りながらある勇者一行(パーティ)の尾行を続ける。ぼそぼそと呟きながらその場を立ち去ろうとするが、偵察する子どもにとって予想外の事態が起こる。



「『…ブラスター』! 」

「コハクちゃんナイス! はぁッ!! 」

「どりゃあ! 」

 風の国を出た雷帝丸一行は数体の魔獣を相手にしていた。倒した魔獣を今日の夕食にするためやトレーニングの一環などを兼ねて雷帝丸があえて魔獣を狩ることを提案したのである。もちろん朝食を食べ損ねているため全員空腹でイライラしている。雷帝丸はコハクの母フマルとの闘いで使用していた剣を剥き身のまま持ってきている。鞘の役割も担う盾を失ったため剣を剥き身で持ち、服も先ほどまでいたコハクの故郷オキシの住人が使用する格安の服、旧世界でいうジャージしかないのもあって花の国に戻ることを決めたのだが、花の国近辺は魔獣がほとんどいないことから風の国を出て間もない今のうちに食料を調達したい雷帝丸なのであった。だが、一行は誰かがこちらを見ていることは露ほども知らない。

「あーもー! つまんない!! おじちゃん! 魔術をもっと撃っていいんじゃなかったの!? 」

「え、獲物を木端微塵にしちまうとメシが無くなっちまうからさ……」

「一旦川に出て魚系の魔獣とやりあうのはどうよ? たまに大物がいるからコハクちゃんの魔術を撃っても食べられるところはあるわよ」

「ほんと!? コハク、釣りもしてみたい! この辺だったらあっちにあったはず! 」

 釣りはじっとしているだけなのでかえってストレスが溜まりそうだなと内心反対の雷帝丸だったが、逆に何か大物がいればそのデメリットも解決できそうではあるとも考えが浮かんだせいで迷いが生じてしまう。そんな雷帝丸の考えとは裏腹に全く気にしていない女子二人は早速川に向かって歩き出していた。

「あ! ちょ、待てって! 勝手に行くんじゃねぇ!! 」

 雷帝丸の叫びに女子二人はピクニックにでも行く気分でいるのか聞こえないフリをして川へ向かってしまった。雷帝丸は剥き身の剣の柄にその辺で採取したツタを絡めて背負い、急いで二人の後を追う。そして一行を着け狙う子どもはその様子を見てぼそりと呟く。


「生きていくのに人間はいろんなものを食べなきゃいけないけど、小さな生き物を食べるために殺すのは気が引ける……と、言ってる場合じゃない、あっちの川には師匠たちがいるはず。伝えなきゃ」

 追跡している子どもも一緒に移動するのかと思いきや懐からハープを取り出した。流れるように先ほどまでグミを持っていた指に爪を付けて軽く弦を弾き、音を出した。その音は森の囁きのような小さな音で、それを絶やすことなく器用に弦を弾きながら雷帝丸一行の追跡を続けるのだった。


「……ケラの虫が来たっスね。というかこの森の中でよく見つけたっスね」

「あら、だとしたら水浴びしてる暇はないかしら? 」

「いいっスよ。コレシスには必要なことなんスから」

「ありがとうねフロウムちゃん。それじゃあ行ってくるわね」



次回より新キャラ勢が登場…?

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