風穴の光 最終話 城へ帰ろう
時間を止める魔術を使う魔女フマルとの決戦から数日が経過した。雷帝丸がブルーミアの城を後にしてから約2週間が経過していた。これまでの戦いで雷帝丸、シクロ、コハクはそれぞれ思うところがあったがそれでずっと休んでいられる程大人しい集団ではない。役所にてラクトとアスコルの墓を用意してくれたカテキンに話を付けてきて、今まさに風の国の首都オキシを旅立つ。一年前に旅立った時よりも一回り大きく成長した末に新たな杖を手に入れてそれを太陽にかざすコハク。魔本を肉体に埋め込まれて禁忌と言っても差し支えない新たな力を手に入れ、出発前に買い物をしたのか風呂敷を担ぐシクロ。股間を失った勇者雷帝丸。魔王討伐を目指すパーティは再び歩み始めた。
「あれでよかったの? 」
「あぁ。俺たちの目的はあくまで魔王討伐だ。風の国でずっと暮らしていけるわけじゃないし、一週間近く滞在して分かったことは魔力が全くない俺にとっては水を手に入れることすら難しい。というわけで一度ブルーミアの城に戻ろうと思ってな。まだ人数不足は否めないが依頼主である花の国の執事長にどうすっか聞いてみるし、帰ったら武器の調達もしねぇとな。いつまでもジャージに剥き身の剣一本ってわけにはいかねぇしよ」
「そういやあたしたちは会ったことないわね。あたしも水の国には帰れないからそれがいい」
「今回いろいろ金かかるようなことやっちまったけど風の国側がいろいろ工面してくれるって言ってくれたからそこのご厚意には甘えておこう。カテキンにあの魔女や研究所、それにアミーの面倒もアイツが見てくれるってことになったし大丈夫だろう」
「コハクは納得できない!! 」
呑気で図々しい雷帝丸の言葉を遮るように声を荒げたのはコハクだった。
「まぁまぁ、直接国を経由すると結構面倒なんだ」
「魔女は国に捕まってますけど? 」
「そ、そうだけど、ほ、ほら、風の国には一応恩は売ったから面倒はいろいろすっ飛ばしてやりやすいとは思うけど」
「魔女から離れた意味があんまりないよおじちゃん。コハクはママから離れるためにおじちゃんのパーティに入ったのに魔女の支援を受けるんじゃやってること今までと変わんないよ」
コハクは納得がいかないのだが、雷帝丸は獄中のフマルに支援するように申し出た。フマルはいくつかの条件を提案してきたが、それは風の国に任せることにした。主にコハクの理論を元に魔術の研究と雷帝丸のパーティに魔術的な支援を行うこと、新たな魔術の開発、風の国を本当の意味での防衛をするなどいくつかやることを与えていた。
「コハクは許せないよ!そんなのコハクの技術の流出と同じじゃん! コハクが見つけたオリジナルなのに研究が進んだらコハクが編み出した魔術の方が邪道になっちゃうじゃん! 」
「その辺はカテキンがうまいことやってくれるから問題ないはずだ。わかってくれよコハク……」
コハクはふくれっ面で雷帝丸に抗議するが、決まってしまったものは仕方がないとなだめる。そんな怒った顔もかわいいとニマニマするシクロを見て雷帝丸ははぁぁとため息が出る。
「俺だって納得いってないんだ、許してくれよホントにさぁ……」
雷帝丸はフマルと面会していたときに協力関係を構築していたのだった。もちろんフマルが主となるわけも無く、カテキンが監督、マギカプリズンが監視することが前提となっている。風の国を本当の意味で守ること、雷帝丸パーティへの魔術的な支援を行うこと、新たな魔術の開発などである。魔術そのものに関しては雷帝丸は全く分からない。だが魔術が自分たちにとって利益を齎すことは間違いない。だが魔術を使えるのはコハクしかいない上にコハクは元から魔術の知識は豊富であるがコハクが魔王討伐の旅に出るため研究がしっかりと出来なくなる。それに魔術はあくまで魔力がある人間が使えることが常識である。
「だからって魔力が無い人が魔術を使えるようにする研究って魔術の常識に挑戦するようなことだよ? それこそ大学とかで研究しないとそんなことできないよ」
「そ、そうだよな……だからカテキンたちに任せてきたんだ。アミーも研究するだろうし」
「コハクが別の研究を任せちゃったからアミーはそっちで忙しいと思うよ」
雷帝丸の勝手な予想が簡単に封殺される。コハクは変わらず頬を膨れさせて雷帝丸に抗議するが雷帝丸はまぁまぁとなだめる。コハクは子ども扱いをする雷帝丸の態度で機嫌を損ねてフイッとそっぽを向いているが二人には付いていく。雷帝丸を挟んでその様子を伺うシクロはそれを見て改めてコハクの可愛さに満面の笑みを浮かべて見惚れている。
「そ、それはともかく、二人がいるおかげでもう何万人力かもわかんないくらいには強い。だが魔王戦は苦戦を強いられるだろう。魔女でさえ手間取ったというか、アレは偶然が重なって出来た産物だ。力を確実な物にして生きて帰ってこれるようにならないといけねぇ。今回の魔王はただの魔王じゃないのは周知の事実だしな」
「でもあたしたちの作戦って大体あたしがぶん殴ってコハクちゃんが後ろから魔術ぶっ放してあんたがボコされるのがお決まりじゃん」
「言い返せないのが辛い」
「おじちゃん。最悪コハクがあの時みたいに回復できるから大丈夫だよ」
「確かにコハクのアレはすごかったが、いくらコハクでもいっぺんにいろいろやるのも大変だろう? 仮に分身を作れたとしても回復中にやられる可能性もある。そういうことも考えたら今のままじゃだめだ。シクロも新しい力を手に入れたんだからもっと戦い方に幅が生まれるかもしれない。そして何より……」
何かを言いかける雷帝丸だったが言葉が詰まる。両隣にいる二人が顔を覗くと雷帝丸はハッと表情を切り替えて誤魔化す。
「と、とにかくだ。一旦ブルーミアの城に戻って爺さんに話が聞きたい。これでも国の一大事に真正面から立ち向かってる男だしな! 」
「信憑性が無いけど本当のこと言ってるのがなんか腹立たしい」
「風の国に帰ってきてすぐだけどまた旅に出られるは…研究者としては良くないけどそれ以前にコハクは魔術師だもん! おじちゃんの力になれたらいいな」
雷帝丸は二人の女の子に挟まれて全く違う意見を投げられるが、きっとこんな風に本音が言い合える関係性が全員にとっていいのかもしれないと感じていた。
「それじゃぁみんなで帰るぞ! ブルーミアの城へ!! 」
「ちょっと! 急にどうした!? 」
「おじちゃんと競争だー! 」
雷帝丸は小走りで城へ向かう。一人の勇者を追いかけて二人が走る。得たもの、失ったもの、どちらも多かったがこの日、後に魔王と対峙することになる勇者パーティは再び歩みを進めるのだった。
現在のパーティメンバー
雷帝丸 勇者 まさかの時間操作耐性持ちが発覚。股間を失う。魔剣に選ばれたというが……
シクロ 格闘家 卓越した格闘技にインチキ染みた魔本の力を手に入れる
コハク 魔術師 天才。今後さらに成長する…?




