風穴の光 番外編 後輩勇者の帰還
ここは水の国西の都市リュウスイの少し東側の海域。3隻の船が強い日差しもなんのその、帆を立てて穏やかな海を進む。一隻には魔王城から持ち帰った品々が詰め込まれ、別の船には今回の魔王討伐に駆り出された兵士の大半が乗り込み、もう一隻には兵士達の他に勇者のパーティが乗っていた。勇者パーティが乗る船の船長が舵を取りながら勇者と雑談をする。
「猛毒の濃霧があったせいで遠回りになっちまったが、あと半日もすればリュウスイに着きますぜ勇者様。本当に今回はあんたのおかげだ! 」
「いやいや、今回はみんなの力で勝ち取った勝利っスからね」
「だははは! よく言うぜ! ほとんどタイマンで魔王をぶちのめしたって話を聞いたぜ? 」
「勇者は1人じゃどうにも出来ないんスよ。兵士達はもちろん、この2人がいてくれたから戦いに集中出来たんスから」
頑丈に作られた特注ブーツに小瓶を収納したベルトを身に纏った勇者が後ろの日陰にいる2人を指す。1人は少女寄りの中性的な顔立ちの小さな子どもで歳は10歳程度。背負うには大きな箱を近くの壁に立て掛けて、洗濯バサミで鼻を摘んで乳鉢で薬をすり潰している。もう1人は勇者が使っていたであろう腕輪付きグローブに何か調整を施している女性である。病的なまでに肌が青白いが別に具合が悪い訳では無い。仕上げが終わったのか真剣な目で腕輪を見る。
「あんちゃんのお供かい? 」
「そうっス。ちっこいのがケラ、デカいのがコレシス。俺の最強の両腕っス! 」
「師匠、あんまり自慢しないで下さいよ……」
「そうよぉフロウムちゃん。ケラちゃん困っちゃうじゃない。ほら、グローブ直ったわよ」
「あはは、程々にしとくっス。コレシス、グローブちょっと見せてほしいっス」
船長が行ってきなと手を振ると勇者フロウムはコレシスが持っているグローブを見に行く。フロウムは仕上がりを見て納得したのか笑いながら礼を言いながら受け取って試しに身に付けて感触を確かめる。
「さすがコレシス! いつもいい仕上がりにしてくれるっス! 」
「お気に召したようで良かったわ。リュウスイに着いたら魔王に壊された箇所がちゃんと機能するか確認しないとね」
「そうッスね。船の上じゃ大技までは出来ないっスからね」
フロウムはリュウスイへ帰還した後で使用感を試そうと計画を頭で練る。考えているとケラがするりと話に入ってくる。
「師匠、僕も試したい薬があるんだ。実践で確実に仕留められないと意味無いから、魔獣討伐の依頼があったら受けて欲しい。あと薬草とかの調達依頼も」
「あぁ、今回ケラは薬を大量に使ったからその補填ッスね。それじゃあグローブの試し斬りならぬ試し殴りも兼ねて行ってこようか? コレシスはどうっスか? 」
「うん、いいと思う。私は2人が危なくなった時のサポートする」
「よーし! 向こうに着いた時の予定は決まったし、やることやるぞ! 」
フロウムは次の目標を決めてやる気を出すが、舵を新米操舵士に任せた船長が3人に近づいて雑談の続きをする。
「勇者のあんちゃん。意気込むのはいいが、あんたは一度魔王討伐成功の報告をするために役所へ行かねぇとダメだろ。魔王の首もこの船に積んであるんだし」
「あ、忘れてた。ケラ、コレシス、先に役所っスね」
「師匠は早とちりなんですから」
「……まぁ今回は急ぎじゃないし、向こうに着いたら少しゆっくりしましょう。美味しいお菓子に紅茶、新鮮な野菜に果物が食べたいわ。あとお肉も焼きたてのがいい」
コレシスは食にうるさいのか食べたい物をいくつも上げる。
「僕はグミやクッキーがいいかな。漁業が盛んだけど、ここ数日は新鮮な魚を食べてるからね。というかコレシスさん、昨日は船より大きな黒い鯨を骨も残さず食べちゃったじゃないか」
「あれはホホジロコクゲイの子どもだから小ぶりな方よ。子どもでも凶暴だし仕方なかったの。近くに小島があって助かったわ」
「……あんちゃん、食費大変だな」
「そのせいで大型の魔獣を定期的に狩らないと破綻しちゃうんスよ。一度めちゃくちゃ食べればしばらくは普通の食事で大丈夫らしいんスけどね」
この後彼らは数奇な運命に巻き込まれることになる……




