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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
雪の森
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雪の森 ①雷帝丸VS.ツキノカニグマ

 ブルーミアの城を出て数時間。キン、キン、カキィンと金属音が雪の森の中で吹雪をかき分けて響く。このあたりは大雪のせいで魔獣がほとんどいないはずだった。しかし今雷帝丸は左手に少し短い剣を握り、右手に大きな盾を構えて魔獣と対峙していた。体力が徐々に失われている。逃げつつも応戦し、慎重な立ち回りで魔獣のスタミナ切れを待っていた。

「はぁ、はぁ……な、なかなかやる個体だぁ。この辺には魔獣がほとんどいないはずなのに出てくるし…でも相手が悪かったな! 」

 野生の魔獣である。大きな腕、その先に生えている大きなハサミに背中の甲羅、そしてか細い脚のどこから出てくるのかわからない機動力が武器である。決して雑魚ではない比較的強い部類の魔獣『ツキノカニグマ』である。この個体は少なく見積もって2メートルはあり、雷帝丸の身長を優に超える。気性が荒く単独行動を好んで普段は川沿いに住むが、ひどい空腹になるとどんな環境下でも現れる。両腕のハサミが大きな三日月のように見えることが特徴の中型魔獣。新米冒険者ではひとたまりもない相手だ。

「ハサミにはホントに気を付けねぇと、なぁっ!! 」

 縦横無尽に振り下ろされるハサミを盾で受け流し、剣で少しずつ甲羅で覆われていない二の腕や肩を刺し、削ぎ、切り付け、隙を伺う雷帝丸。刃が熊の腕を撫でる度に焦げ茶色の太い体毛が舞い、刀身に体液と脂が塗られて切れ味が落ち、逃げながら雪や幹に擦り付けて切れ味を戻す。新品同様の剣の輝きが失われることも何のその。そう、雷帝丸はこれでも勇者歴10年。戦闘はそれなりにできる。特に1対1の魔獣との戦いが得意である。

「隙ありっ!! 」


 雷帝丸はツキノカニグマの一瞬の疲れを見逃さなかった。懐に潜り込み、ツキノカニグマの機動力の源である脚を封じるため右膝に剣を刺した。剣はツキノカニグマの膝裏を貫通し、剣の刀身が鮮血に塗らてて飛び出していた。雷帝丸はそのまま刺した剣を軸にして身体を浮かせ、わき腹には回し蹴りを、顔面には盾の縁を叩きつけた。剣、蹴り、殴打による三段攻撃お見舞いしたことになる。ツキノカニグマは顔面からゆっくりとゆっくりと、グシャ…ッ、バキ…バキ…ッ、という音をたて、たまらずのけぞった。

「ぐがあぁぁぁぁ!! 」

 ツキノカニグマは悲鳴混じりの雄叫びを上げる。生命の危機を感じ取る野生のカンと抵抗。剣と盾、体術のコンビネーション攻撃にツキノカニグマは血が滴る右足を引きづりながらも逃げ出そうとしていた。しかし時すでに遅し。勇者雷帝丸は必殺の一撃を打つ構えをしていた。

「これでトドメだ! 」

 盾を前面に突き出しそのまま突進、来るなと言わんばかりにハサミを振り回すツキノカニグマ。その目には戦う意思はなく、憎悪と命乞いの涙が一筋。熊の腕部に切り傷を入れたせいで細かな血風も来る。雷帝丸は生きるために腹部に致命の一撃、盾による打突を決めた。雷帝丸、ベテランであることを示すかのような体幹や筋肉の強さを存分に活かすが、現代の人間は旧世界の人間よりもかなり強靭になっているのでやろうと思えば誰でもできる。しかし、攻撃としてまともにこのような攻撃をできるのはそれなりの手練れでないとできない。

「ぐ、ぐがぁ……」

 ツキノカニグマはその衝撃に耐えきれなかったのか苦痛すら表現することなく泡を吹きながら倒れ、夕飯にするはずだった獲物のせいで絶命した。雷帝丸はそのことに喜んだ。


「いよっしゃぁぁぁ!晩飯ゲットだぜ! 」

 そう、ツキノカニグマは狂暴であるが、食材としての評価と価値はとても高い。甲羅で覆われている爪と背中はたんぱくで上品な味わい、それ以外の部位は野性味あふれる動物の肉のような食感が楽しめる。どちらも部位も煮てもよし焼いてもよしの食材で、爪の部分は特に美味とされ、新鮮なものは刺身でも食べられる。高級料理店で注文すればかなりの金額になる。


「雑魚の方が良かったけどスライムみたいな食べられない魔獣だったら意味ないからまぁいっか。にしても疲れたぁ! 爪を傷つけないように戦うのは難しいな、ほら、爪がちょっと欠けてる…。金のことを考えたらここで食わずに町で売りさばくのがいいんだけど、さすがに重いしここで食べちゃったほうがよさそうだな…」

 幸い近くに鍾乳洞を見つけている。雷帝丸はそこに本日の戦果を引きずって持ち込み、料理を始めようと鍾乳洞に向かった。だが、この判断が翌朝には悲劇に変わることは知る由もなかった。




雷帝丸さんは甘く見ると痛い目を見るタイプの人物です。

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