表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
風穴の光
78/239

風穴の光 ㉕葬儀と命と勇者

今回はちょっと暗い話です

 雷帝丸は悩んでいた。風の国での騒動でパーティメンバーではないにしても先輩にあたる同御者を失った。パーティメンバーに関連する身内である。このことが心に重くのしかかっている。それは今いるラクトの葬儀の場では特にそうだった。本来は葬儀をしてから埋葬をするのだが今回は遺体の損傷が激しいため例外的に埋葬が先になり、たった今葬儀も終了した。僧侶が関係者に一礼して去ったところだ。

「……終わったな」

今の自分は上下ジャージで礼服など持っていない。勇者としての鎧も無い。股間の息子も不在であり、精神的にかなり折れかけていた。申し訳なさで心が溢れてやるせない勇者雷帝丸。だが外には出さない。隣にいるシクロは特に変わった様子はなく、いつも通りの赤い武術の練習着のような物を着ている。だがよく見るとうっすらと青い繊維が見える。もしかすると元々着ていた服は青色で、返り血が落ちなくなって赤く染まったのだろうかなどと関係のないことで強引に陰気な自分を追い払う。


「アミー。アミーのママ。コハクがいない間よろしくね」

「うん…」

「コハクちゃん、ありがとうね…! アミーも今までずっと頑張ってたわね。力になれなくてごめんね…」

「いいの、私が何もできなかっただけなの。お母さんのせいじゃない」

 この葬儀には格安宿を臨時休業にしてセシの村から飛び出してきたアミーの母親であるグルコも来ていた。10年越しに会う最愛の夫は無残な姿で娘に殺されてしまった。だが娘のことは一切責めるようなことはせず、大粒の涙を流して抱きしめて謝罪するのであった。

「絶対ないと思うけど、もしコハクが死んじゃったらあの樹に埋めてね」

「死んでもらったら困るわよ。勝手にいくつも宿題出して提出前に死ぬなんて許さないからね」

「大丈夫、コハクは強いから」

 終始涙が止まらなかったアミーはコハクとアミーの母であるグルコに支えられていた。実の父を殺してしまった自分には葬儀に参加する資格がないと泣き、コハクが説得して参加させ、何度も抱き合い、涙を拭った。結局アミーは実質2つの家を持つことになり、以前よりも忙しい日々が待ちかまえることになる。それでもアミーは罪滅ぼしのつもりもあって受け入れている。

「大丈夫だよお嬢ちゃんたち。私たちも力になるから安心してくれ」

「「偉い人…ありがとうございます…」」

「カテキンって名前なんだが…まぁいいや。コハクちゃん、魔王退治頑張ってね。アミーちゃんも私にいくらでも頼ってくれよ」

 遠目で偉い人と会話をする二人の幼女を見ることしかできなかった雷帝丸。シクロに軽く頭を叩かれるまで上の空で見つめていたのだった。



「勇者としての在り方か……」

 静養が必要な雷帝丸とシクロ、身内関連の用事で忙しいコハクの都合を合わせて結局週明けにオキシを出ていくことになった。翌朝、雷帝丸は自分たちがオキシに来た時にヘラクレスオオイノシシに襲われた現場に一人でいた。魔力が使えないので、魔術が使えない客人用の通路を通ってここまで来ていた。

「俺の10年ってなんだったんだろうな。地べた這いずり回って戦場跡を漁りまくって、ちょっとした自分だけの生活を送っていただけだったのかな…努力してきたつもりが、ただただ生きることに必死になってただけだったのかな…」

 誰もいないのにぼそりと呟く。雷帝丸は今回無力だったと猛省している。

「努力は作物と一緒だ。どんなに頑張っても、どんなに愛情注いでも、どんなに感情を爆発させても、果実は実るとは限らない。途中で腐ったり枯れたり食われたりする。だからと言って甘えたことばかりなのは当然として、コハクのかぁちゃんみたいに道具とするのも間違ってる……」


 雷帝丸はヘラクレスオオイノシシの衝突で開けた岩の穴を見る。昨晩は精進落としをたらふく食べたせいか少し身体が重い。手には葬儀の振る舞いとしてもらったスパークルンがある。たった一日で生と死の狭間を何度行き来しただろう。きっとあのイノシシも風の国の魔術師たちが処分する前にはきっと生きるために必死だったのだろう。街や村が警戒する程度には大食いなのだから強くなければならない。だが雷帝丸はどうだろうかと振り返る。野生の動物たちもそれなりのコミュニティを持って生活をしている。一匹狼のような存在もいるが、それは何かの事情があったから仕方なくこのように生きているだけである。これもある意味強さである。だが雷帝丸はどうだろうか。この2週間程度を振り返りながら思うことがいくつもあるようだ。


「野生動物だって仲間と一緒に生きる。人間だって本当は群れて生きる。だが俺は10年間群れから付かず離れずだった。良く言うなら自立して、悪く言うなら自由気ままに生きてきた。金に困れば頭を下げて依頼を受け取って仕事をこなした。……確かにそういう勇者も多いし、俺もその一人だ。だがそれでいいのか? 実際に仲間を持った俺は何かできたのか……? 」

 雷帝丸は孤独だった。勇者としての寿命が長い程度しか取り柄が無かっただけなのに、今は世界の命運を背負わされているのかもしれないのだ。あの時武具を盗まれていなければ、あの時シクロにしっかりと攻撃をしていれば、そもそも15歳の夜に家を追い出されるようなことをするべきではなかったのではないか。次々と後ろ向きな発想と後悔が生まれる。

「………俺って、いてもしょうがないのかな…」


 雷帝丸らしくない。普段から弱音を吐いてもしぶとく生き残り続けた男は自らの死を思い浮かべる。誰が悲しむだろう。ラクトやアスコルのように娘がいるわけでもない。股間の息子も失った。故郷ではあまり評判が良くなかったため役所の人間も厄介払いができたと喜ぶだろう。そしてシクロとコハク。シクロは少なくとも悲しむことはない。コハクは多少悲しむかもしれないが、別に両親ほど悲しむ訳もない。

「本当の仲間ってのは、そう簡単に出来るもんじゃないんだろうな…きっと自然体で心地いい場所にいられる人を仲間っていうのか…いや、それは友人か。……あれ? 俺ってお友達ごっこをしてるだけなのか? ……もうよくわかんねぇや」

 ここで雷帝丸の脳は限界を迎えた。雷帝丸の頭脳は良くも悪くも自分の理解の範疇を超えると考えることをやめてしまうクセがある。命のやり取りをしている時は例外的に頭が少しだけ回るようになるが、お世辞にも頭が良いとは言えない。だが今だけはその頭の悪さに救われた。

「…帰るか」

 思考を遮断した雷帝丸は、ヘラクレスオオイノシシが空けた穴を見納めて病院に戻ることにした。通路を歩き、階段を昇っているとあることに気が付いた。

「……俺ってきっと、寂しがりやなんだろうな」



人間誰しも悩むことはあると思います。作者は悩みが尽きることはありません。一度考えを止めてリセットできる雷帝丸さんはある意味羨ましいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ