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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
風穴の光
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風穴の光 ⑰立ち向かう少女

 意気込みまでは良かった。雷帝丸はまだ時間停止中に完全には動くことが出来ない。今回は身体が動かず意識だけが動いている。だがそれを逆手に取ったフマルは単純かつ恐怖を与える一撃を叩き込む。

「これでトドメよ。『インパクト』」

 雷帝丸は止められた時間の中で渾身の一撃を放つように構えていたせいで防御のことは全く意識していなかった。それもコハクを守らねばという意識と、そのためにはフマルを今止めなければならないという意識が同時に働いたことでわずかな隙が生まれた。その隙を逃さなかったフマルはがら空きになっている雷帝丸の腹部に回り込んで強い衝撃を与える魔術で内臓を破損させた。その衝撃は止まった時間の中でゆっくり動く雷帝丸には内臓が少しずつだがしっかりと衝撃によって破壊される感覚があり、各内臓が衝撃で引き裂かれる感覚がした。心臓も例外ではない。鼓動はしていてもそれは恐怖によるもののような気がして焦りが止まらない。

「……ごふっ…………!!」

 雷帝丸は血を噴き出してしまう。その血は空気中を漂うように飛ぶ。あぁ、やっぱり時間が止まっているんだ、シクロも多分同じようにやられたんだ、と思いながらも、自分がこの後どうなってしまうのか未来が見えなくともわかってしまうことがとても嫌だった。恐怖に屈した瞬間だった。

***


時間停止の時間切れを迎え、完全に内臓が破裂してしまい、数歩引き下がると倒れてしまった。

「おじちゃん!!! おじちゃん!!!! 」

 コハクの金切り声が雷帝丸の悲惨な状態を物語る。フマルは万が一を思ってか、自分の魔力と体力の限界が近いのか、反撃されないようにちゃっかりと数メートル離れている。

「はぁ…はぁ…もう、そろそろ諦めたらどうかしら? 」

 フマルは見えていない右目からも血が流れ出る。コハクは涙目になりながら雷帝丸を必死に回復させるが、雷帝丸は動かないままである。

「『リカバー』!『リカバー』!!『リカバー』!!!『リカバー』!!!!おじちゃん!!しっかりして!!!!おじちゃん!!!!」

「……コハク、魔術師は常に冷静でなければならないのよ」

「おじちゃん!!! 死んじゃやだ!! おじちゃん!!!! 」

 フマルは血を流しながらも娘のそばまで近寄っている。少し前のフマルは取り乱していたのだがそのことは忘れているかのようにコハクに忠告する。そのコハクは母が近くにいたことに気が付かずに黒い炎で焼くつもりであることがわかっていない。取り乱すコハクには冷静な判断を下せるほどの胆力は持ち合わせていない。


「『フレイム』」

 その一言で黒い炎が二人を焼く。雷帝丸はもちろん、コハクも声をあげることはなかった。

「これで終わりね。でも大丈夫。身体は戻せるし記憶は改ざんできるわ。いつもの私の娘に戻れる」

炎が消えて黒焦げになった我が子をすくい上げる母は少し憂いの表情を浮かべる。フマルはようやく自分の思い通りになると安堵した。フマルには壮大な計画がある。その計画のためにはコハクをはじめとする人員は自分の駒であることはもちろん、自分の計画を阻害する部外者は排除または研究の素材にする必要があった。自分の計画の軌道に戻すことが出来たと胸を撫で下ろすところだった。

「それはどうかな? 」

「なっ!!? 」

 完全に行動不能にしたはずの我が娘が背後にいたことでフマルは動揺する。コハクは時間を止めることはもちろん、時間を止められても動くこともできない。発動中の魔術も時間停止の影響で発動が中断される。それでもコハクはしっかりと立っていた。

「また新種の魔術!? 」

「分身を作る魔術だよ! ちょっと熱かったけどね!! 」


 コハクはきらきら星だけを構えている。その後ろにはコハクの分身と箒に変形したほうき星に吊るされた仰向けの雷帝丸がいる。雷帝丸はかろうじて意識があるが血が垂れていて治療が間に合っていないため、コハクの分身一人が魔術で雷帝丸の治療を開始する。

「天っ才魔術学者のコハクが見つけた魔術の最新技術をきらきら星に入れてるんだから、ママが知らない魔術を使えるんだよ! 」

コハクは後ろにいる分身と雷帝丸を気にしながらフマルを挑発する。普通に考えれば意味はないのだがフマルにとっては十分だった。

「だからって私の魔術に対抗できるわけではない!! 私を止めることはできない!! 」

「ううん、コハクの新必殺技で終わらせる!! コハクの新必殺技パー…」


###

 フマルが時間を止めてコハクの動きが止まる。魔術を使おうとして構えた状態なのでコハクは無防備である。当然コハクの分身も止まってしまったため雷帝丸の治療も中断される。雷帝丸はまだ応急処置も終わっていない。雷帝丸は薄れた意識の中で時間が止まっていることがわかっていた。一命を取り止めた状態だが指を動かすだけでも精一杯である。それでもまだ抗おうと剣を握る。左手にはまだ力が宿る。



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