風穴の光 ⑮落ちる雫、動く時間
「はぁ…はぁ……我が娘ながらこの大量の魔術を詠唱無しで一度に発動できるなんて…周りにいる悪魔の数が多いのもそうだけど、『魔力が無限』の能力のおかげで魔力を駄々洩れにするだけでおこぼれを貰おうとする悪魔がかなり近寄ってくる。一発一発が並大抵の魔術師じゃ出せない火力だし悪魔の種類が増える新しい杖を手に入れたってことは新しい魔術も使えるということになる。我が娘ながら末恐ろしい……。まぁ、肝心の近接戦闘の才能は無かったのだけれども、これほどの魔術の威力と種類なら後方で魔術を撃つだけでも国一つ滅ぼすくらい朝飯前かもしれないわね」
フマルは独り言を呟きながらコハクの魔術を打ち砕くが、雷帝丸には見えていた。雷帝丸にはフマルが高速移動をしているように見えていて、かろうじて目で追えている。しかし身体は思うように動かない。雷帝丸は身体が止まっていても動くフマルを認識出来ている。つまり誰もが止まっているようでも雷帝丸だけは完全に動きが止まっていない。
(あの魔女本当にめちゃくちゃ早く動いて高速で動いてコハクの魔術を完封してるのか!? いや、それにしては何か違和感がある? )
止まった身体が急に動き出す。コハクは自分の魔術が同時に破壊されたと思い驚く。雷帝丸は身体が急に動けるようになったと勘違いする。
「『フレイム』」
「うわぁっ!ぐぅっ!!」
「コハク!!うわっ!?」
魔術の嵐を破られて黒い炎に吹き飛ばされるコハク。吹き飛ばされても瞬時に防御の魔術を詠唱無しで発動させて炎や衝撃を抑えて最小限のダメージで済ませる。一方雷帝丸は黒い炎の巻き添えになりシクロが倒れているすぐそばまで吹き飛ばされる。
「あちち…ママもやっぱりすごい魔術師、でも『フレイム』が黒い……。やっぱりママは魔女で間違いないなんて! 」
「コハク、私はこの国と星のために研究しているの。でもそれを魔女と罵るのは大間違いだわ。アミーちゃんを見なさい、私の言うことをしっかり聞いているわ」
「でも魔女の放つ魔術には黒い魔力が含まれるのは常識なんだよ? ママの魔術にはその黒い魔力が入ってる! 自分でも純粋な魔術じゃないのはおじちゃんだってわかるはずだよ! 」
「その通りだぜコハク。やっぱりあの黒い炎は黒く濁った、なんかこう…やべぇ感じがする! 何回か魔女を見てきたがこの炎はただの魔女の黒い炎じゃない、確実にやべぇ魔女だ! 」
雷帝丸の言う通り、誰にでもわかるように黒く濁った意思を感じ取れる魔力を放つ。だが雷帝丸はフマルとの闘いが始まってからずっと気になっていることがあり、それが頭から離れない。
(……それにつけてもあの魔女、何かやってるのがやべぇ。高速移動なのか? でも俺はそれをわかっていても動けない。ってことは違う何かをしているってことなのか? さっぱりわかんねぇが、それがわからねぇとただの解説役、もとい木偶の坊になっちまう! 背丈は普通だけどな! )
雷帝丸は近くで倒れているシクロをかばいつつ、足元に転がっているポーションを割らないように気を付けながらコハクに乗じて吠えて考える。そのポーションを拾って片手で蓋を取ろうとするがビンの蓋がうまく開かずにもたつく。雷帝丸はこれでもベテランの勇者だが、ポーションは雷帝丸にとっては貴重品であるためあまり使い慣れていなかった。ここにきてベテランなのに経験の浅さが明るみに出る。それを差し引いても雷帝丸の経験上、何度か魔女とも戦ったこともあるがフマルはその魔女たちよりも圧倒的に強いことは身に染みて理解できている。
「あなたたち凡人には私の考えはわからないということかしら……世俗に慣れさせるために大学に行かせたり旅に出させたのは間違いだったようね。悪い知識が染みついてるわ。料理のことといい教育を間違えたかしら」
「アレは間違いなんかじゃないもん!! 料理だって魔術と同じで生きる人の知恵なんだ!! 」
コハクは先ほどと同じように魔法陣を展開して先制攻撃を仕掛ける。今度は波状攻撃ではなく一斉に掃射することで広範囲に攻撃を仕掛けることで確実に当てるように工夫したようだ。
「無駄なことを!!」
「コハクの新必殺技! パート2‘! 」
「コハク! 来る…」
雷帝丸が言い切る前にフマルは時間を止めてしまった。それと同時に雷帝丸はシクロの持っている体力回復のポーションの蓋を開けるが勢い余って後ろで庇っているシクロに零してしまう。
(ぞ…あぁっ! ポーションがっ! )
時間が停止したなかでフマルは時間が止まっているうちにコハクの一斉掃射攻撃のいくつかを打ち破って安全地帯を確保する。
「このくらいで…『バリア』。しかし、もうすぐ魔力が底を尽きるわね……はぁ…はぁ…ほとんどの魔術は詠唱無しで魔術は使えないし、普通よりも魔力の消費も激しいし、意外と使い勝手の悪い魔術なのだから早めに片付けないといけないわ」
少し息が上がったフマルは独り言のつもりで軽く愚痴を零しつつ、止まった時間を再び動かす。しかしこの時、雷帝丸はあることに気が付いてしまった。
(……なんで零したポーションが浮いてるんだ? 零れ落ちる前の液体が空中で止まってるんじゃねぇか? でも俺は少し動けるっぽい? でもコハクは…動いていない。コハクが一斉に出したいろんな魔術も止まったままだ。でも俺は動ける。俺とコハクの母ちゃんだけ……まさか!? そんなことがありえるのか!? だとしても俺が動けるのはなんでだ? でも“時間を止めている”のなら高速移動の違和感にも説明が付く!! 学も魔力もない、頭悪いなりに捻りだした俺なりの回答だ! 俺がなんで止まった時間の中を動けるのかは知らねぇが、それでも自信を持ってそうだと言える! 本能がそうだと言っている! だとしたら……!! )
止まった時間の中で雷帝丸が動かない身体でも一番動く頭をフル回転させてフマルの謎の魔術の正体の真相に近づこうとしていた。時間が動き出すと同時に雷帝丸の零したポーションがバシャッとシクロの腹部に撒かれた。
「………………」
雷帝丸はシクロに撒かれたポーションをほんの少しだけ見つめていた。
コハクちゃんがしれっとやっていますが、無詠唱の魔術は超人級の魔術師でないと使用はほぼ不可能です。これからはコハクちゃんの攻撃ではデフォになるかもしれません。
存在を忘れている方も多いと思いますが、シクロさんは部屋の端っこで伸びています。雷帝丸さんはそこへ吹き飛ばされています。しかし、まさか雷帝丸さんの経験の浅さが今後のベテラン勇者のおつかいにとって重要な話になるとは……




