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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
風穴の光
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風穴の光 ⑨歪んだ母

 それは一瞬のことだった。いや、一瞬の時間すら許されていなかった。一撃で後方にいるフマルを沈めるつもりだったシクロは超高速で移動し、自分の思うがままにするつもりだった。そしてあわよくば自らの性欲のはけ口にするつもりでもあったのだろう。だが、それ以前の問題があった。

「たら……は? 」

「まさか主任、魔術を…? 」

 倒れたシクロはうつぶせに倒れ、身体の変化が元に戻ってしまい、戦闘不能状態であることが一目でわかる。シクロの服や装備が少し破けて普段から緊急用に持ち歩いている回復のポーションが散らかる。幸い割れてもいなければ栓も開いていないため拾えばそのまま使える。だが雷帝丸は何がどうなったのか理解できなかった。ただ、シクロが高速で動いて襲撃したにも関わらず倒されたこと、襲撃は失敗したことの二つは理解できた。

「シクロ!? 何があった!!? シクロ!! おい!!! 」

「危なかったわね…もう少し私が気付かなかったら私がやられていたわね……。多分こういうことすると思ったけど、実際にやられるとひやひやする……。生身の身体で戦えない私たちに対してある意味一番厄介な戦術を仕組んだようだけど…この程度じゃ、私は倒せない! 」

 雷帝丸が呼びかけてもシクロは反応しない。フマルはシクロの戦闘不能を確認することなく淡々と襲撃の感想を語り、雷帝丸を睨み付ける。

「主任! 申し訳ありません!! 」

「いいのよ。今回はこの勇者たちの目論見はわかっていたからあえてあなたを戦わせたの。だからあとは二人でこの勇者を捕えなおしましょう」

「はい! ありがとうございます!! 」

「やべぇな…。逃がしてくれないよな…? 」

「逃がすわけがないでしょ?勇者雷帝丸」

 じりじりと距離を詰め寄るフマル。雷帝丸にとっては攻撃が当たるチャンスなのに、自分にとって有利になるはずなのに恐怖を覚える。するとアミーが魔術を唱えていることに気が付き、攻撃されることを見込んで回避の体勢を取る。


「『……チェイン、ブースト、ブラスター』。」

「あぶn…!!?」

 雷帝丸はアミーの魔術に対して身体を捻って躱した。しかし、まだ距離があったはずのフマルが目の前にいたのだった。このやり取りは一瞬の時間も経過していない。

「『フレイム』」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 雷帝丸はフマルの『フレイム』をゼロ距離で受けて火だるまになる。その炎は黒い色をした炎だった。雷帝丸は急いで転がって火を消すがなかなか消えない。思わず杖を手放して石畳の床にのたうち回る。

「よかったわねぇ勇者雷帝丸。どんなにダメダメでも勇者である以上は我々はあなたを殺せないわ。手加減してるのだから今度こそおとなしく捕まってくれないかしら? 」

「なんだこれ!? コハクの炎よりも、どんなヤツよりもヤバい感じがする!! シクロ!! 逃げろぉ!! 逃げろぉぉ!! 」

 しつこいようだが雷帝丸は魔術が使えない。しかしそんな彼でもわかるほど、その黒い炎だけでも異常な魔術師であることは理解できる。燃えながらもその危険性を伝えようと横たわるシクロに大声をかけるが反応はない何とか炎を消した雷帝丸は身体のあちこちに火傷を負い、全身が痛くてうつぶせに倒れた。顔だけアミーとフマルを睨むように視線を向ける。元から幼女の見た目をしているのに主任である時点で凄腕であることは理解していたがそれ以上の実力であり、もはや底なしである。

 雷帝丸は表情が曇る。だが絶望はしていない。それは意地なのか、誰かの期待に応えるためか、自分でもそれはわかっていない。

「私が本気を出せないのにこの体たらくじゃ、あなたから良質な『クローン』も『ホムンクルス』も作れないじゃない」

「くろーん…? ほむん…なに? な、なんだそれ? 」

「あら、あんなに一緒にいたり戦ったりしたのに気が付かなかったの? この国に来てから…いえ、私の娘と会ってからずっと気が付かなかったのね? 」

「娘、だと? 」

 雷帝丸は理解しきれない話が始まろうとしている。クローンやホムンクルスなど雷帝丸は聞いたことはない。

「私の娘はコハク・ウィザーグリフよ。ウィザーグリフは私の昔からの姓。厳密には私が腹を痛めて生んだ子どもじゃないけど、大切な娘よ。」

「あんたが…コハクの母ちゃん!!? だが若すぎる…義母? 捨て子? なんだかよくわかんねぇけどあんたとコハクが親子だとしたら、やってることは結局自分の娘を殺そうとしたってことじゃねぇか! しかも娘の友達に自分の娘を始末させるために派遣させたわけか!? 」

「コハクは正真正銘私の子よ。殺すわけがないじゃない、大切な娘ですから。ちょっと記憶を書き換えただけよ。ちなみにコハクは生きてるし家で料理をして待ってるから早く帰りたいのよ。あの子はある魔術師の肉体と私の遺伝子を組合わせて作った生き物よ。『ホムンクルス』と呼んでるけど、本来のホムンクルスとは違うようね。ちなみに『クローン』は遺伝子を利用して元の人間と同じ人間を作ったものね。あなたたちが散々倒してきた魔術師たちよ」

「ごちゃごちゃと…もうなに言ってんのかわかんねー」

 雷帝丸は本人のいないところでコハクの出生を知ることになったが、雷帝丸は続けて話す。


「…けど、あんたら魔術師が命を弄んでるのはわかった。それではっきりしたことがある…。コハクの母ちゃんが主任(あんた)ってのはわかった。コハクが普通の人間じゃないのもわかった。あんたがコハクと同じか少し年上くらいにしか見えないのはわからねぇが……コハクの父ちゃんは、『流星(ミーティア)()魔術師(ソーサラー)』か……」



思いもせずにコハクちゃんの出生を唐突に知ることになりましたね。


この作品内でのホムンクルスとクローンについて少し解説します。

ホムンクルスとクローン、どちらもいわゆる人造人間の類になります。

異なるのは製造方法ですが、簡単に言うとホムンクルス(コハクちゃん)は人間そのものを使って上位互換を作ろうとしていています。コハクちゃんの強さの秘訣はここにありそうです。また、ホムンクルスを作る際に材料になった人間は死んでしまいます。つまりコハクちゃんのお父さんは既に亡くなっています。

クローン(雑魚研究員たち)は人間の細胞を培養して作り出した人間のコピーに近いものです。少量の細胞があれば作れるので作りやすい代わりに雑魚になるようです。


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