風穴の光 ⑧強すぎるはずの魔本
雷帝丸の周囲がざわついている。突然扉が蹴破られ、その蹴破った本人が転んで頭を打って悶えているのだから何が起きたのかよくわからない人が多数である。
「何やってんのあいつ……」
「あでで…舌噛んだ……この部屋はあの時の…あ」
噛んだ舌を確認しようと口の外に舌を出すがよく見えていない上に滑稽な顔を晒す。注目されるため相手を驚かせて囮になる点ではかなり優秀ではあるが、お互いが予想外な出来事であるため空白の時間が流れる。雷帝丸は自分が一度捕えられた後で目が覚めた部屋に突入していたことが分かった。しかし攻撃も防御もできない仰向け状態。よっこいしょと背中の杖を取り出して立ち上がり、その上で名乗りだした。
「……お、俺は勇者サンダーボルトだ! お前らが俺含めて長年してしたことは許さねぇからな!! 」
「さっきまで檻にいた才能無しの勇者が」
「せ、先輩、やっぱりヤバいことになりましたよ~! 」
「へッ、何が才能無しだ、お前だってモブのくせに! 魔術で調べただけで才能を見られるなんて便利なもんだな魔術は! だが俺はそんなもんだけですべてが決まるとは思ってねぇからな!! 」
雷帝丸は魔術師たちに吠える。雷帝丸の位置からは責任者と思われる人物は見当たらない。自分が無能であると診断されたことにショックを受けていることもあるが、それを否定するためにも、自分の士気を上げるためにも力強く魔術師に対して吠える。本気を出す準備は万端である。すると雷帝丸の前に研究員をかき分けて出てきたのはいつもの杖を携えたアミーと、アミーの後ろから手ぶらの責任者が出てきた。
「それなら私がいきます。この男に何度も負けるわけにはいきませんし、フマル主任の手を煩わせるわけにもいかないです」
「無能とはいえ脱走ができるくらいには鍛えられているわ。今度こそ気を付けて。今のあなたならできるはずよ」
アミーは主任にアドバイスを貰いつつ、仕事を任された。アミーの目は真っ黒になるほど充血し、いまにも血の涙が出てきそうなほど潤っていた。
「アミーか…目大丈夫か? まぁいい、お前をダウンさせてから後ろの主任とやらの話を聞こうじゃねぇか!! って言うとこっちが悪役っぽいじゃねぇか!! 」
アミーが雷帝丸に宣戦布告すると雷帝丸は受理と同時に駆け出し、アミーは動ける特殊部隊を指揮する。特殊部隊は散々倒されているので人数は減って総勢6人である。白衣を着た研究員のような男性たちはフマルから指示を受けていくつかの資材や資料を持ってそそくさと逃げて行った。
(俺が引き付けるから頼んだぜ、シクロ! )
雷帝丸は特殊部隊の魔術師が近接戦をしてくることは把握済みなので杖を利用して変則的な攻撃を仕掛ける。お互いが慣れない武器を使用しているが、雷帝丸が実戦経験と器用さを活かして魔術用の杖をシンプルに振り回し、生じた隙に付け込んで拳や蹴りの一撃で確実に仕留めて近づく特殊部隊を蹴散らし、1分もかからず特殊部隊はアミーを残して全滅した。
「かはっ! 」
「研究ばっかで攻撃が甘すぎなんだよ! 一発が弱いし武器も使いきれてない! 」
「それ人のこと言えないわよ無能勇者さん。魔術系の杖を打撃武器に使う人初めて見たわ」
「くっ! まだ私が! 」
これでも一応ベテラン勇者である雷帝丸が魔術に使用する杖をブンブン振り回して無双している状態だが、はたから見れば初心者相手にアマプロがイキっている状態と大差ない。近接戦闘がほとんどできない魔術師が無理に近接戦闘をすると失敗しているのになぜここまで近接戦にこだわるのかはいまだに理解できていないのが雷帝丸である。
「かかってこい! コハクのダチだし間違ったことをしてるのは大人としても友人としても見逃せねぇ! 」
「間違ってなどいない! 『コール、クイック、チェイン、ブースト、ブラスター』! 」
アミーは自身に魔術をかけるついでに部屋自体に『チェイン』で魔力を貯めて自身を強化した。その強化は『クイック』を自分にかけることで一時的に高速移動できる魔術で近接戦向けに強化した。その様子を見て雷帝丸は何をしているのかは理解できなかったが、大学に潜入するときにコハクが自分を強化した魔術があったのなら自分を強化する魔術があってもおかしくないと判断し、手元の杖を改めて構えた。
「来な。あとはアミーと主任とやらで終わりだからな」
「後悔させてやる! はぁっ!! 」
素早さが上がったアミーは想像以上の速さで雷帝丸に突撃してくるが、雷帝丸は杖で薙ぎ払いをして牽制する。その牽制を見切って雷帝丸の顔面に飛び膝蹴りを繰り出すアミー。幼女であるため手足が短いとはいえそのままとび膝蹴りを入れられると雷帝丸の顔面はひとたまりもない。予想外の攻撃に雷帝丸は驚き、薙ぎ払いと同時に回転しながら伏せる形で身を屈めて回避した。
「あぶねっ!? 」
「ちぃっ!! 」
ほかの特殊部隊が近接戦闘をすると思っていたため雷帝丸は伏せた態勢から攻撃することはできなかった。とび膝蹴りを躱されたアミーは自分が怪我をしないように転がりながら着地し、顔を上げて雷帝丸に視線を向けると事件が起きていた。シクロである。アミーがフマルから離れた途端に音より早く、具体的には音の20倍の速さで突撃してくるのである。シクロは肌が黄色く変色して少し丸い超破壊生物のような見た目に近くなり、全身から触手のような何かが出ている。魔本の技の一つなのだろうが、雷帝丸は攻撃していることが分かっているだけでどのような攻撃をしているのかまでは把握していない。だがどう見ても触手を使用して拘束をするような動きをしていない。複数の分身体を高速移動で作成しながらも、この戦闘時でもいかがわしいことを考えている動きである。
「あ……」
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! 」
雷帝丸はシクロが攻撃することを悟って起き上がりながら声援を送る。シクロからしたらその声援ははた迷惑だが、いきなり大将を取れる作戦を立案した雷帝丸にとってはその襲撃の成功だけでお互いの役割をうまくこなしたこととなり、今回の戦いは終了である。雷帝丸もシクロも勝利を確信した。
「勝った! 」
「ぇ? なんか良くない技をつかtt」
その一瞬だった。雷帝丸はそれが気になって振り返ると、シクロは倒されていた。
マッハ20ってことは音の20倍速。それを止められるってどんだけ視力とかいいんですかね?(すっとぼけ)




