花の国 ④花の国の勇者
ベンゼンが装備を整える準備を終えたというので倉庫の奥へ向かった。一度外に出てはなれの少し古い建物の中に案内された。その建物が倉庫だというが、地面には円がかかれている。円の内側には何かの文字が書かれ、石やぼろ布など様々なガラクタが円の中のあちこちに置かれている。錬金術である。かつてのある国で発展した技術の一つであり、魔術専門の魔術師などがいるように錬金術専門の錬金術師などがいる。ベンゼンは錬金術師ではないが魔術とは別に能力で錬金術が使える。雷帝丸はベンゼンに誘導されて円の中心に移動する。
「さぁて、腕を存分に振るうかのぅ」
一言だけ呟くとベンゼンは屈んで両手で錬金術の円に触った。すると円に書かれた文字やガラクタが目を開けていられないほどの眩しい光を放った。
「うわっ、眩し! 」
雷帝丸は思わず目を瞑る。姫も目を開けていられないようだ。その錬金術の行く末をベンゼンは眺めていた。
「雷帝丸殿、装備の着心地はどうかのぅ」
眩しい光はなくなり、雷帝丸はゆっくり目を開けた。周りにあった円や文字、ガラクタは跡形もなくなっていた。
「ん、お! おぉ!? すげぇ!! 」
雷帝丸は自身の装備を確認する。装備の凹凸がなくなり新品同様に輝き、着心地が格段に上がった。薄いコートも防寒対策は万全、防御力も向上。盾と剣はブルーミアの勇者としてのエンブレムを施しながらも雷帝丸の故郷のエンブレムを残したとても立派なものになった。武器も防具も揃い、食料も少し分けてもらった。大雪や味方の魔獣がいないことで本来の討伐隊のルートとは大きく迂回することになってしまったが、これだけあれば心強いと雷帝丸は強く感動している。
「俺が言い出したこととはいえ、ここまでやってもらっていいのか? 」
「いいのじゃ。錬金術に使った材料が雑なものばかりになってしまってこっちが申し訳ないくらいじゃ。上等な素材をふんだんに使いたかったのじゃが許しておくれ」
「そ、それなりに勇者っぽいわね…」
ここで図々しい雷帝丸はあることを思い出した。報酬である。旅立ちをしっかりとサポートしてくれたのはよかったが、魔王を討伐した際の報酬を聞いていなかったことを思い出した。勇者稼業はただ働きとはいかない。だが聞くに聞けない状態にまで準備してしまった。雷帝丸としては一気に困った事態になった。するとベンゼンはそのことを雷帝丸の表情から察してくれたのか、半分わざとらしく言った。
「そういえば姫様、国がこのような状況なのはわかりますが、婿殿を考えねばなりませんな」
「何よいきなり」
「雷帝丸殿、もしおまえさんが魔王を討伐してきた暁にはこの城を任せたいのじゃ」
「「はぁ!? 」」
雷帝丸と姫が驚く。無理もない。
「実はすでに婿殿が決まっていたのじゃが、最初の討伐隊の一員となってしまい戦死したのじゃ。遺体も回収できずじまいでほかの討伐隊と同様に行方不明じゃ。この問題も国王が出る少し前まで深刻な問題の一つだったのじゃ」
「ま、まさかじぃや…」
「うむ、魔王討伐の暁には雷帝丸殿をこの国の姫の婿殿として迎え入れることを真剣に検討したいのじゃ! 」
「はぁ!? じぃやどうしたの!? 久しぶりの錬金術で後遺症でも出たの!? 」
「そうだぜ爺さん! 俺は自宅を警備するくらいが限界なのに何言ってんだ! 」
「その自宅がここになるのじゃが」
「広すぎるわ!! 」
「それなら警備をするための兵もつけよう。国王になれれば品位を保つために反感を買わない程度に贅沢をせねばならないからな。城の中であれば畑を作ることも容易いじゃろう。今はこんな状態じゃが復興すればそれなりに良いマイホームになると思うのじゃ」
「よし乗った! 」
「おい!! 」
姫そっちのけで婚約の話が進む。ベンゼンはなぜか雷帝丸と気に入っている。それほど自宅を警備することが限界の勇者に期待しているのだろうか。
「じぃや! それはあんまりよ! 」
「さっきのデジャブ? 」
「違うわよ! なんで婚約の話がまた出てくるのよ!! 確かに深刻な問題だけど今話す内容じゃないわ! 」
「い、いや、雷帝丸殿に渡す報酬がありませんし…」
「後で考えればいいでしょう!? しかもそんなに言うなら錬金術で何か作ればいいじゃない!! 」
姫はかなり不服のようだ。それもそのはず、自分の結婚相手が勝手に決まろうとしているのだから。余談だが15歳の少年少女にいかがわしいことをするのは旧世界では重罪にあたる。
「わ、ワシもそこまで長くないと思いまして…ほれ、雷帝丸殿がやる気を出しているようじゃ」
「自宅がこんなにいい物件になるし警備も万全…頑張れば花以外のものも作れる…将来はここや国の領土で広々とした農場を作るのもアリだな。それなりに贅沢もできるからあんな自然味溢れすぎて魔獣が集まる家よりもよっぽどよくなる。あ、でもあの姫さんが妻になるってことだろ?農場とかヒキニートとか許されるはずがないよなぁ、なんか身体つきが中途半端でエロくはないし…でも夢が広がるな。なんせ国民を従えて畑を新しく作るとかやってほしいことをいろいろと仕事として出せば雇用も作れるしあとは……」
「あの男の発言にイラつきを覚えるのは私だけ? というかナチュラルにこの国支配しようとしてない? 」
邪な思いを早口で漏らす勇者を横目にキレる姫。そしてなだめる爺さん。孫が祖父に対して八つ当たりをする光景に似ている。
「まぁまぁ、さて雷帝丸殿。姫様の手前、正式な報酬はおそらく討伐後に決定されるが、この方針でどうじゃ? 」
「さっちゃんだ! 報酬はちょっと不満があるが別に問題ない! こんなでかい土地、畑、警備兵付き物件が我が家になるって考えたら心がぴょんぴょん飛び跳ねる! 」
「お、おう……。さぁ! 雷帝丸殿、準備が整ったところで行ってくるのじゃ! 魔王討伐へ!! 」
こうして必死になってたどり着いた花の国の首都ブルーミアをベンゼンの力を借りて出発した雷帝丸。ゆっくりと雪道を進む彼の瞳には大きな城が映し出されている。期待に胸を膨らませ、内に秘めたやる気によって少し雪が弱まっているようにも見える。その勇者の名は『雷帝丸』。雷帝丸の未来はいかに……!
雷帝丸さんはベンゼンさんによって装備を新品同然にしてもらいました。これで多少は見た目も勇者っぽくなったはずです。次回はついに雷帝丸さんの隠された能力が明らかに……!?