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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
風穴の光
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風穴の光 ③消える日常

「おっ買い物! おっ買い物! おやつもちょっと買っちゃった! 」

 コハクは母であるフマルと出かけることができて機嫌がとても良い。フマルも母としての務めなのか主任としての務めなのかはわからないがコハクのお祝いのための買い物を続ける。コハクは母の目がほとんど見えないことを知っているため、右手でフマルの左手をしっかりと握り、完全に視力を失っている母の左側の安全に気を使いながら街中を練り歩く。すでに買い物も済ませてコハクのおやつもいくつか買った。フマルの左手の買い物袋には今日のメインディッシュになるフルーツチキンの生肉が丸々1匹入っているほか、コハクが焼くのに必要だと言い出して買った香草に固形や液体の調味料、付け合わせなどもまとめて入っている。この光景だけならとても平和な母と子なのだが、この二人は普通の家族ではない。

「コハク、家に着いたらさっそく作りましょう」

「うん! フルーツチキンはお肉屋さんに捌いてもらったから、おいしくなるようにいろんな材料を刷り込んで、オーブンで最初は高めに、表面がこんがりきつね色になったら低めの温度で中をじっくりと焼き上げていくの! どうしても時間がかかっちゃうけれどすっごくおいしいから! 」

「でもコハク、この一年で魔術の威力を抑えらるようになったの? 」

「パワー全開のままです…でも魔術で焼くよりも薪で焼いた方がおいしくなるんだよ! 今日は火種から魔術は使わないもん! 」

「たくましくなったわね」

 フマルは見えないながらもコハクに笑いかける。コハクはえへへと笑みがこぼれるが目がほとんど見えないフマルにはその笑顔はわからない。

「さて、家に着いたわよ! 先に手を洗ってきてお料理の準備をしましょう。ママはキッチンに買ってきたものを運んでから手を洗うわね」

「はーい! 」

 二人は我が家に到着した。『ウィザーグリフ』と書かれた小さな表札が扉にかけられているが、周りの家と大差ない一般的な石材と木材の家に着き、扉を開けるとコハクは鼻歌を歌いながら手洗い場に向かい、フマルもこの時が楽しみだったのか同じ鼻歌を歌いながらキッチンにフルーツチキンなどを運んで行った。するとフマルにどこからか連絡が届いた。出かける前とは異なるのは魔法陣に『エマージェンシー』と魔術の言葉で書かれていた。フマルはそれに気が付き、慌てて出かける前と同様に耳元に魔法陣を展開して対応した。


「フマルよ。何かあった? 」

『大変です! 格闘家が魔本の制御がうまくいかずに暴れ始めました! 魔術で対抗しきれません!! 』

「なんですって!? 」

『それに格闘家を入れていた観察室を破壊して脱走を試みていま…ぎゃぁぁぁ…ザーーーーーッ』

「っ!!? 」

魔法陣が乱れて雑音を発しながら連絡が途絶えてしまった。視力がほとんどないフマルにとって視力を補うように音に敏感になっているため、連絡が途切れた音に過敏に反応した。その様子を手洗い場から戻って来たコハクが目撃していた。

「ママ!? 大丈夫!? 」

「え、えぇ。でもバイト先から急に来てくれって言われちゃったから行かないといけなくなっちゃった」

「そんなぁ。お料理はどうする? 」

「困ったわねぇ。でも少ししたら帰ってくると思うから、お肉の仕込みの準備とかしておいて。帰ってきたら一緒にフルーツチキンを焼きましょう。コハクがここから一緒にやりたいって思ったところまで出来たらおやつ食べて待ってていいからね。ママもできるだけ早く帰ってくるわ」

「うん…わかった……」

「ごめんねコハク、行ってくるわ! 」

「行っていらっしゃい……。早く帰ってきてね」

 コハクは肩を落としてこれでもかと落ち込んでいる。仕方ないとは思いつつも慌てて家を飛び出す母を見送り、母が運んだ食材の中から香草や調味料を取り出してすり鉢のような物ですり潰しながら仕込みの準備を始めた。コハクの周りにはたちまちスパイシーな香りが立ち上る。その香りを嗅いで少し元気が出たのか自分を納得させようとコハクは誰もいない空間に語り掛ける。


「……まぁ、ママがバイトで頼られてるってことだよね! 大学を飛び級で卒業した経歴もあるから何年も前からやってる研究室のバイトを一生懸命やってるからコハクが大学に行けるんだし。まぁ大学の授業料は特待生の奨学金あるけど。それにお料理がへたっぴなママが下準備までママにやらせたら余計に日が暮れちゃう! 全く、ママはコハクがいない間にお料理上手になったのかなぁ!? どうせコハクがいない間は買ってきたおかずばっかりだったでしょう! うん、そうだと思う! 」

 コハクは全く汚れていないキッチンや煤ではなく埃が少し乗っている窯を見て言い訳を重ね、寂しさに負けじと強がった。そんな独り言を呟きながら香草や調味料を混ぜ合わせて5分程度が経過した頃、コハクの元にもどこからか連絡が来た。現れた魔法陣に『エマージェンシー』と魔術の言葉で書かれていた。心辺りが無いと思いながらコハクは応答した。


「もしもし~? 大丈夫? ……うん、そうだよ。……え…? え? うそ……? ……だって、おじさんのその名前が本当なら……!! 」

 コハクの元に緊急の連絡を入れてきたのは、意外な人物だった。



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