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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
風穴の光
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風穴の光 ①勇者の才能

「まただ…? あれ? 」

 雷帝丸はあの夢を見る。だが今回は大勢の人間に囲まれている、というよりはどこかに運ばれているようだ。背後には引き戸があるが固く閉ざされていて、ガラスの向こうは景色がみるみる流れてゆく。

『まもなく…お出口は左側です。お乗り換えのお客様は…』

『The next station is ...』

 いつもの装備は身に付けていない。頭上にはちらちらと変わってゆく画面がある。その画面のすぐそばから謎の音声が流れていて驚いていると、ものの一分で背後の扉が開く。

「おわぁ!? あ、ちょ! うわわっ! 」

 人の波に飲まれて扉から押し出される。誰にも見向きもされないまま、追い出されたまま人の流れに押し流されていつの間にか建物の外に追い出される。


「はぁ…はぁ…どこだここ…」

 とてつもない数の人々、石材とは異なる謎の材料でできた巨大な建物、黒いが土ではなくレンガとも違う謎の素材で舗装された地面、その地面を駆ける鋼の車、濁ったような空気、生温く突き抜ける少し強めの風、聞きなれない音の洪水、全て雷帝丸にとって知らないもののはずなのにここを知っているような気がする。

「この夢ってことはもうオチが…」

 ちらっと右を向くと鋼の車に身体を叩きつけられる。叩きつけられた身体はすでに血が噴き出して関節があらぬ方向へ曲がる。転がった身体に車体が乗り、車体の重さで身体が引き裂かれてそのまま頭も心臓も骨も粉々に砕け散る。だが雷帝丸は起きない。潰れた身体の感触が妙に慣れている気がする。



「…。………? 」

「………。……」

「……? 」

 雷帝丸とコハクはシクロとアミーに敗れ、気を失っている間にどこかに連れていかれた。ゆっくりと雷帝丸が目を覚ますと、少し前に見たような作りの建物の中にいた。部屋には大量のビンに薬品、書物などがあり、壁や床には見覚えがある。しかし少し異なる魔法陣が張り巡らされていて、その部屋の隅でコハクが持つ杖と同じくらいの大きさの杖を持った魔術師たちが白衣を着て眼鏡をかけている。男性が数人いて、唯一いる女性に資料を見せながら報告しているようだった。女性と言ってもコハクよりも少し年上な程度の見た目をした幼女で髪をかき上げている。眼鏡をかけてさらに虫眼鏡で資料の文字を見ている。目が極端に悪いのだろうか、彼女がここの権力者なのか、一人だけ白衣のデザインが少し異なる。そんなことを雷帝丸は考えていた。

「…そして、あの勇者ですが、どうやら防御系の魔術で耐性を付与すればある程度の魔術が効かなくなりそうです。しかし、かなりの防御系魔術を重ね掛けしないとあまり意味はなさそうですし、どちらかと言えば物理的な攻撃に対する防御力の方が元からあるようです」

「それに魔術で解析した才能も生き残る力以外は微妙ですね。こちらをご覧ください」

「……生き残る力が最上位級、次点で防御力と器用さが少しいいくらいの並程度、他の才能は大したことないわね。『道端でコインをたまに拾う』能力ってのもねぇ…。生き残る力が高いから密偵に使えると思ったけど、スニーキングの才能もなさそう。剣と大盾を使ってたみたいだけど、そもそも戦うこと自体の才能はそんなにない。さらに問題なのはこれでもここ10年の中では誘拐しても問題ない勇者の中で一番まともな勇者なのがねぇ。はぁ、最近の冒険者はあんまりいいのがいないわね」

「それに花の国の出身です。他の勇者は花の国の魔王討伐に遠征に行ったきりで、強い勇者がいなくなってしまっているのでしょう。我々も勇者を捕獲するのは非常に危険ですし」

(冗談じゃねぇよ! 俺はそこそこベテランだぞ!? )

 雷帝丸は聞いた話に不満を抱きながら、自分の置かれている状況を確認した。拷問用の椅子に座らされ、手足が縛られている。口を塞がれたり目隠しはされていない。あの戦闘の直後の服装と同じであるが、股間が赤い。雷帝丸は隙を伺うためにしばらく気絶したフリをしながら盗聴や状況確認を続けた。幸い全員が雷帝丸を見ていないため、脱出の手口も少しずつ探っていく。

「勇者はひとまず置いといて、例のおっぱいちゃんはどうだったかしら? 」

(おっぱいちゃん? )

この場の責任者と思われる女性が謎の質問をする。黒に近い濃い紫色をした髪をかき上げ直し、眼鏡をかけていてもわかる右の瞳が深い青、左の瞳が真っ黒のテヘロクロミア、身長がコハク程度のかなり小さい色白の女性だった。

「格闘家ですね」

(やっぱりシクロだろ!? 敵にそんなこと言われてるんかあのおっぱい大魔神!! )


「彼女は魔本の読み込みが終わるとかなり冷静になりました。ただ、どちらかというと魔本に乗っ取られているようにも感じました。相手を戦闘不能にする力量としては十二分にありますがコントロールが難しいです。魔本に記されていたであろう魔術を使用していましたが、予想通りに体術系の物ばかりでした」

「補足ですが、一回だけ魔力を大量に用いた魔術を使用していましたが、制御する前提で実用化する場合は手練れの魔術師が生き残っていて、彼女をむりやりにでも止められることが前提になります」

「うーん…魔本の適正があったから魔本の読み込み自体は上手くいったみたいだけど完全にはものに出来てないみたいね。しばらく様子を見てさらに洗脳させようかしら」

「そうですね。あとそれから……」

(そうか、シクロがあんなことになったのは洗脳されていたからだったのか……。時間のかかる洗脳も魔術ならちょちょいのちょいってか? 前にこの国を支配してた魔王はコレ使えば人海戦術で無限に戦えたんじゃね? )

 報告が続く中、雷帝丸はシクロが洗脳されていたことを知った。地下街で合った元勇者『武具(アタック)()勇者(メイル)』のラクトにも合わせる顔が無いと思いつつも、ひとまずはシクロとコハクの救出をすることにした。すると魔術師たちの話し合いが終わろうとしていたため、雷帝丸は本格的に気絶したフリをすることにして様子を伺うようにした。

「報告は以上です。フマル主任、この後の指示をお願いします」

「じゃぁ勇者は予定通りに少し回復させてしばらく保留、今の結果を参考にこれからどうするか考えるから、それまで牢に入れておいて。おっぱいちゃんは観察室で引き続き観察、特殊部隊は治療手当をして随時出撃できるようにおねがいね。特に近接戦や格闘戦ができない私たち魔術師の貴重なメンバーだから繊細にね。指揮官のアミーには私から次の指示を出すからそれに従って。以上」

「「「了解しました」」」

(なんなんだこの集団は…何かの研究者か? それにアミーもグルだったか…でも違和感があるな。完全にグルってわけじゃないような?ただの直感だけどそんな気がする)

 雷帝丸はいくつかの疑問を残しながら魔術師に椅子に縛られたまま研究者と思われる魔術師二人に魔術で回復させられている。これから牢屋に入れられるのに回復させられるのも通常では考えにくい。何かの作戦があるのかと雷帝丸は不信に思う。そんな中回復させながら30代男性と50歳手前くらいの男性の研究者同士で話をしていた。


「しかし先輩、10年前に牢屋から勇者を大量に逃がしたあの魔術師と勇者のコンビ以来の大物になるんですかね? 」

「そうだな。あの時はお前もここの研究員になって1週間くらいの出来事だったからな。俺は元魔王軍の下っ端だったが、あの時は何もできなかった。いや~、俺も歳を取ったなぁ」

「なんていいましたっけ? あの魔術師と勇者の名前」

「あー…確か…」

 その発言から雷帝丸は衝撃を受けることになるが、一旦コハクに焦点を当てることにする。



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