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ベテラン勇者のおつかい  作者: Luoi-z-iouR(涙州 硫黄)
風の国
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魔王城② 魔王の配下

「このあいだは芸術作品が無いだとか食料が無いだとか言っていたが、魔王としてよくあるアレが全くない」

 ここは花の国の北部。初夏にも関わらず雪や氷に覆われている。いかにもな椅子に座るその男は魔王である。魔王の椅子の近くには果物を置くための机と皿があり、皿の上には魔王城の入り口で最近作ったリンゴの木から採れたリンゴがいくつか置いてある。そのリンゴを一つ掴んで齧る。リンゴの置いてある机の反対側には作りかけの机がある。魔王は暇つぶしに工作を始めているようで、その工作をするための材料を揃えるために少しばかり城の外に木を生やしている。

「魔王になる以前からの話だが我は他人を信頼できない性分。故に魔王に欠かせない“配下”だったり“奴隷”だったり、はたまた“側室”なぞは持てない。その者共は我ではない。つまり信頼するに足りぬ存在。それ即ち孤独であることが我の覇道である。だがたった一人では限界を感じる。その証拠にこの机、試しに育てた杉から切り出したにも関わらず何度も製作に失敗している。我が“能力”を使えば造作もないのだが、それではまた暇になってしまう」

 魔王は自身の能力を使用することを躊躇っていた。それは魔王が魔王であるためにも、自身の覇道のためにも自分で課した規則を破ってしまうのではないかと考えているのだ。それと同時に信じられるものは自分しかいないにも関わらず、自分だけでは出来ることに限界を感じている。魔王は人間を大量に殺戮することには長けていたが、日常生活においてあまり生活能力はない。それを誰かに代行させたい。つまりは自分が信頼できる人手が欲しいのだ。

「……マンパワーが欲しい。我に忠実な(しもべ)が欲しい。一応能力で作ることは出来るが、果たしてそれは我が孤独であり続けることへの反逆ではないのか? 我が作り出した者が我に反逆するというおかしな話になるのではないのか? だが気が付いてしまった以上はやってみるのも手ではある。何事も否定から入るのはよろしくない。実際に試してみて有益か無益かを見定める力を養うのも魔王の資質として必要なことだろう。今後どこか遠くの地を支配するとなったときに価値のあるものを破壊してしまってはただの愚か者である。魔王は破壊神ではないのだ。それを一人でこなすことは非常に難しい。そこでだ」

 そう独り言を呟くと魔王は椅子からゆっくりと立ち上がり、魔王城の外へ出た。



「ふぅ。寒さを感じない身体だが景色だけ見るとやはり感覚的に寒いと感じてしまう。以前の身体なら3分後には凍死していただろう。そんなことはどうでもよい。試しに一人だけ(しもべ)を作ってみよう。そして動作確認をして、一度解体して改良点を加えて作り直して……まぁ最悪盾として使えればよい」

 魔王は自分へ課した覇道が逆に邪魔になってしまうのではないかと不安を感じながらも、どんな見た目と性能を持った僕が良いかを考える。魔王とて時間は無駄にはできない。防衛設備の建設を考えているのだが、生憎魔王にはそこまでの細かい知識はない。そのため専門知識が豊富な僕が欲しかったのだ。また、魔王の力は強大すぎるため細かい作業はあまり向いていない。その両方を補える忠実な僕が理想だと考えているが、それは実現するのか。その実験も兼ねていた。

「……では一度設定をこのくらいにして、我の実力と僕の実力を試そう」

 魔王はリンゴの木を育てた時と同じように無から人の形をしたどす黒い何かを生成した。だが試作品のつもりで生成したためか、完成時点で四肢はぽろぽろと崩れ落ちてしまった。

「手抜きをしすぎてしまったか。だがこれで反撃はできまい。さて、貴様は我の忠実なる僕だ。貴様には一体何が出来る? 」

 人の形をした何かは口らしき部位を動かして何かを伝えようとするが声を発することが出来ないようで魔王には何も伝わっていない。

「ふむ、盾としても使いようがない。我が貴様を作り上げたことが最大の失敗だったな。安らかに眠るがよい」

 自分の役に立たないと判断した魔王は作り出した時とは逆に存在そのものを消すかのように人の形をした何かを無に帰した。30分後、ようやくまともに会話が出来る僕が完成した。

「魔王様、私めを創造して下さりありがとうございます。慈悲深き魔王様の僕として生を受けたことを誇りに思います」

 人の形をした何かは会話が出来る上にかなり丁寧口調だが言葉に全く感情が籠っていない。魔王は自分で作った人の形をした何かを見下しながら完成度の確認をする。今回は通常の人間の肌に近い質感と色の女性の上半身を生成したが、そのせいで恐怖を覚える見た目をしている。そんな歪な試作品に対して魔王はちぐはぐな対応をする。


「そうか。だがこの程度では我の信用は獲得できない。その証拠に貴様の四肢は作り出していないし魔力を生み出すこともできない。貴様が我に反逆するだろうと見込んでいるからだ。そこでだ。雀の涙にも満たないだろうが、貴様が我の信頼を獲得させるチャンスをやろう。我が魔王城は主に氷で出来ている。だがこれだけでは冒険者風情が襲撃に来た時にいちいち我が手を出さねばならぬ。その手間を省くために防衛設備を設計、必要であれば建築をする任務を与えよう。貴様にはその力が宿されているはずだ」

「ありがたき幸せでございます。私めの力が魔王様のお役に立てるよう尽力致します」

「あぁ。どの程度の力があるのか見させてもらおう。そうだ、呼び名が必要だな。貴様には“試作未完成品1号”、いや、長いな。“I(アイ)”とでも名付けよう」

「ありがたき幸せでございます。僕の廃棄処分も辞さないストイックな魔王様が私めに呼び名を授けてくださった」

「言葉だけ忠実でも我の信頼は獲得できない。我にとって有益かどうかで貴様の存在価値は変わるのだ。そうとわかれば早く仕事をしろ」

 魔王は四肢の無いIの首を絞めるように持ち上げて空き部屋へ連れてゆく。この後、魔王城の防衛設備が強化されたという。



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